アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは

 アトピー性皮膚炎という病名は、1933年アメリカのサルツバーガーが名付けました。「アトピー=atopy」の語源は、ラテン語の「奇妙な」と言う意味で、遺伝的素因などのアレルギーが係わるが原因のはっきりしないものをさす言葉です。

 通常、乳児期に発症し、顔面にはじまり躯幹・四肢に左右対称性の皮疹が、慢性的かつ反復性に繰り返すことが多いとされます。一端、学童期に落ち着くことが多いのですが、最近では成人になって悪化する患者さんが多くなってきたことも特徴とも云えます。

原因となることは?

 原因として、患者さんは喘息やアレルギー性鼻炎、花粉症などをが合併することが多く、遺伝的要因があると考えられています。また、IgEの上昇などがダニ・ハウスダスト、食べ物などで陽性になることが多く免疫学的異常があるとも考えられますが、必ずしも全員のIgEが上昇するのではなく診断の際の参考とされています。
 また、皮膚の角質層の保湿因子やバリア機能の低下があり、少しの刺激でも湿疹ができやすいという面もあります。

症状や臨床所見

 乳児期~幼少期に発症することが多いです。赤ちゃんの時期には、乳児湿疹として発症し、顔面の頬、顎周りの皮疹に始まり、頭部湿疹に鱗屑を伴ったりします。
 皮疹は次第に躯幹~四肢関節部型に移行し、刺激の受けやすいところを中心に慢性化しやすい傾向にあります。乳幼児期のアトピーは、治療をちゃんと続けると一端4-5才頃までに半数以上が寛解していく傾向がみられます。

 成人型に移行した場合は、顔面の治りにくい赤みや胸背型の皮疹頸部などのさざ波様の色素沈着などを起こし、治療抵抗性となることも多いです。四肢では、いわゆる結節性痒疹となり、痒みの強いしこりを作る方もあるようです。

●当院の考え●

 一端、悪化した皮疹は、傷の治り方と同じです。ある一定以上深く炎症が皮膚の深くに及ぶ(おおよそ真皮深層部)、それまで可逆性だった皮疹もだんだん皮膚に傷を残す様になり色素沈着+色素脱失・微小瘢痕形成が傷跡としてさざ波様の皮膚炎を生じるのではと思われます。

 このようなタイプでは、ステロイド外用剤のプロアクティブ療法をきっちり守ること、長期化した皮疹には免疫抑制剤であるプロトピックが有用と考えております。

診断・検査など

 診断は、日本皮膚科学会の定義・診断基準によると、1,そう痒、2,特徴的皮疹分布、3,慢性・反復性経過の3項目を満たすものと定義します。

 多くはアトピー素因をもつとされ、家族歴として喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、ADのうちいずれか、または複数をもつもの、IgE抗体を産生しやすい素因が挙がられます。

 除外すべき診断としては、単なるかぶれ・脂漏性皮膚炎・汗疹・皮脂欠乏症・手湿疹・乾癬・膠原病などが挙げられます。

治療

●治療の基本

 厚生科学研究班の治療ガイドラインのよると、治療の3本柱として、薬物療法、スキンケア、悪化因子の検索・除去をあげています。外用療法は治療の基本となり、現時点で皮疹の炎症を充分に抑えることができるものは、1,ステロイド外用剤と 2,プロトピック軟膏のみとされます。

 
●ステロイド外用剤

 皮疹の痒みを抑えるのに、抗アレルギー剤を用いますが、あくまで補助的な治療とされます。一部の患者さんでは、外用をそれほど用いなくとも内服で落ち着くという方もいる一方、外用剤が良く効き内服は飲んでも痒みが止まらないという方もいるという事実もあるようです。

 実際には、皮疹の状態をなるべく良く観察して頭部・顔面~躯幹、四肢などと全身の皮疹分布、重症度をしっかり把握することがまず大切です。なるべく短期間(1~2週)で皮疹をすみやかに抑えられる強さ・量のステロイド外用剤が必要とされます。

 一番大切なことは、皮疹がある程度治まってからです。痒みが治まったら塗らないというのは間違い(リアクティブ療法=昔の方法)で、症状が軽減してからもある一定量は使い続けて(プロアクティブ療法)いった方が、長期的に皮疹も落ち着き、外用剤の使用量も結果として減量できてくる印象です。

●プロトピック軟膏

 筑波山の土壌からみつかったFK506という免疫抑制剤を外用剤にしたものです。分子量が大きいため、正常皮膚から吸収されにくく、かつ患部からは皮膚に浸透し効果を発揮します。ステロイド外用剤と違い、長期的につかっても皮膚の萎縮や毛細血管の拡張を起こしにくいのが特徴となります。

 ステロイド外用剤のみで押さえられなかった、様々な免疫に係わるアレルギーのスイッチを押さえてくれる可能性があり、長期的にバリア機能の保持や痒みの神経を抑える効果が期待されます。
※日本発のお薬ですが、海外ではいち早くに重症化した皮疹につかうのがスタンダードになっているようです。

●保湿剤によるスキンケア

 ADの方では、皮膚のバリア機能が落ちており、7-8割の方は保湿をしっかり行うと有意に改善が得られたとのデータもあるそうです。

 プロペトなどのワセリン系、古典的外用剤の亜鉛華軟膏やアズノールなどの他に、最近では様々なヘパリン類似物質(ヒルドイドおよびそのジェネリック品)があります。尿素軟膏はバリア機能を改善しないとのデータもあり最近ではあまり用いられていないようです。

 最近では、市販品でもセラミドやヒアルロン酸入の高機能な保湿剤が出てきており、患者さんの好みで用いても良いと思います。

●抗アレルギー剤内服

 補助療法として、坑ヒスタミン剤や抗アレルギー剤が用いられます。最近では、眠気が出にくいお薬が増えてきたので治療の選択肢が広がりました。抗アレルギー剤の問題点は、人により眠気が出やすいことと一部の内服が”車の運転など”が禁止となっていることです。

 一般的に抗アレルギー剤は、花粉症や鼻炎などで長期に飲むことを前提に作られていますから、抗生剤や鎮痛剤などに比べて安全性が高いお薬です。痒くて夜起きてしまったり、知らずに皮膚を掻いているようなときは、内服薬も用いた方がよいでしょう。

●当院の考え●

 特に、顔面の赤みは熱がこもっている、吹き出物体質が合併しているなどの理由がある場合が多く、漢方薬の併用が効果がありそうです。当方は漢方専門医ではありませんが、皮膚科の強みは皮膚の状態を良く観察できることで、ある程度漢方の方剤を選択していくことが可能です。胸背型の皮疹パターンにも漢方が比較的効果があるようです。

 結節性痒疹型では、以前はナローバンドUVBなども使っていましたが、外用剤の使い方を工夫することで、効果を上げております。


●お願い●

 当院ではステロイド外用剤をメインとして治療を行っております。申し訳ありませんが、ステロイド外用剤を使わない治療はお引き受けしておりません

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