魚の目(鶏眼)とは?

 魚の目(corn)とは、足裏や足趾の骨の突出部分に「物理的な力」が継続して加わったためにできる「中心部に芯がある角質肥厚」のことです。角質の肥厚は、物理的な刺激に対し皮膚が自らを守ろうとする防御反応として引き起こされます。「特定のある一点の場所のみ」に力が繰り返し掛かり続けると肥厚した角質は次第に大きくなり、「半透明な硬い芯を形成し魚の目」となりピンポイントで皮膚深部の真皮側に楔状に喰い込んで、奥の知覚神経などが圧迫されて強い痛みが生じます。

魚の目

 魚の目の大きさは、小さいと2~3mm程度で余り深く喰い込むことはないのですが、大きくなると直径1cm以上の大型の芯が10mm以上逆△型に真皮側に深く食い込んでいる場合もあります。

 

 魚の目は、極小さなものでは市販のスピール膏などで角質を軟化して剥がせる場合もあります。一方、芯が大きく深くなった「魚の目」では、きちんと深い芯まで切除するには幾つかのコツがあります。当院では、鶏眼削りに精通した皮膚外科である院長が対応致します。なるべく痛みがでないように深い芯もしっかり除去するように心がけておりますのでご安心して受診されてください。

魚の目を切除している様子

当院からのお願い
 魚の目・タコが複数箇所ある方では、まず「片足のみの処置」もしくは「痛みのある部位の処置」とさせていただき、残りは後日に通院していただく場合がございます。
 また、スピール膏を貼った直後は、「芯までくり抜く」ことは困難となりますので、1週間以上スピール膏は貼らない状態でご来院をお願い致します。
 魚の目・タコ「足の形状や歩き方のクセ」等が原因となり、「芯まできちんと除去」しても、しっかり刺激を避ける工夫をしない「再発を起こしやすい病気」です。

※以上、ご理解の上で受診されるようお願い申し上げます。再発予防につきましては後述いたします。

 

 なぜ、「魚の目=さかなの眼」と呼ぶのか起源は、はっきりしていませんが、

  1. 迷信として魚を食べるとできるという説、
  2. 表面よりの見た形状が「さかなの眼」に似ているから

という説などがあるようです。医学的には海外では、「にわとりの眼=鶏眼」と云われることが多く、日本国内においても「魚の目」の正式名称は、「鶏眼(けいがん)」となっております。一方、「鶏眼」は英語ではcorn(穀物の粒)と呼ばれており、解剖学的に「粒状の突起が皮膚の奥に喰い込む状態」を表現したものとなっています。

魚の目の形状について

たこ(胼胝;べんち)との違いは?

 胼胝(タコ)も魚の目と同じ原因で発生しますが、特徴としては「芯を形成することなく」、全体に角質が広く一様に肥厚し、痛みがでないことです。摩擦や圧迫が局所に反復すると発生すると考えられますが、なぜ「魚の目になるのか」、「タコになってしまう」かの原因ははっきりわかっていません。

 

 ある一点に角質肥厚が集中し、「魚の目状」に硬い芯ができるかどうかは、

  • 皮膚の下に突出した骨の形状
  • 外力の強さや頻度
  • 足全体の荷重の掛かり方

などの条件によって、出来る形状が変わってくるものと考えられます。実際に治療をおこなっていくと、全体にタコ(胼胝)があるものの、一部が「魚の目状」になっている混合タイプもあります。

タコと魚の目の違い

 一方、足背や指など皮膚の柔らかい部分に外力が継続的に加わると、角質の肥厚のみで収まらず、真皮組織の繊維化・肥厚も発生します。とくに正座による足背の「座りダコ」では、真皮も肥厚して盛り上がってくるため「角質のみを出血させずに薄皮を剥ぐように上手に除去」するためには、繊細な角質削りの技術が必要となります。

魚の目の原因・症状

 魚の目の原因としては、

  1. 先の尖ったパンプス・高すぎるヒールなど不適切な靴
  2. 足の変形・加齢による皮下組織の萎縮
  3. スポーツ等の過度な負荷
  4. 歩き方の癖など

により皮膚の下に骨がある部位での、長期・継続的な圧迫の繰り返しが挙げられます。

 鶏眼がよく出来やすい方は、長年の刺激による足自体の変形が進んでしまっており、たびたび再発しやすいことが問題です。そのままで、何もケアをしないと確実に鶏眼は、また硬く肥厚してきます。

 魚の目の症状としては、周囲の角質が硬く肥厚して「やや黄肌色に変色」し、中心部分の芯は角質が物理的な圧力により圧縮されて「石の様に硬く」なって半透明にみえます。この硬くなった芯の部分が徐々に真皮方向に「逆三角形型」に山の様に喰い込んでしまって痛みが生じます。直下には「骨の突出部」があることが多く余計に痛みを悪化させてしまいます。

 

 注意すべきこととしては、年齢と供に皮下組織が萎縮し「骨の突出」が過剰になってくると、外力により「魚の目の下床」が内出血して傷ができたり、膿瘍となってしまうことです。糖尿病などの内科的な疾患があり足の血流が悪い場合は、蜂巣織炎・下腿のガス壊疽となって症状が進行し、足趾・足切断の原因となることさえもあります。

魚の目の好発部位と対処方法

 魚の目は、「足底もしくは足趾先の骨の突出部に出来る」ことが多く、さらに靴などによる物理的な刺激・圧迫が誘因となって発生します。

 

好発部位・対処法の各論

足底部の外側・内側にできる場合

 足趾のMP関節が靴などによる圧迫により「外反母趾」もしくは「内反小趾」気味となったために、関節部の骨が突出した結果として発生します。突出した骨が靴に擦れることに加えて、足先にしっかり加重を掛けられないことにより、さらに加重が集中するため分厚くなりやすいのが特徴です。

 軽度のものであれば、市販のスピール膏・尿素軟膏などで柔らかくして入浴時に軽石などで削ってもよいでしょう。

 全体に厚めになることが多いのですが、さらに荷重が加わると「擦れの力が辺縁部」に集まって、近位外側に局所的な厚めの角質肥厚を生じる傾向があります。

 第2,3足趾の足底根元側にできる場合

 足の指(足趾)の長さが第2足趾、第3足趾が長めの「ギリシャ型の足形」の方に出来やすい傾向があります。足趾先が靴などで慢性的に押されていると、「つちゆび(=ハンマートゥ)」となり足先でしっかり踏ん張ることが出来なくなり中足骨先端に体重が掛かりやすくなります。結果として足先に平均的に掛かるはずの荷重が「第2、3足趾根元に集中」するために、角質肥厚が生じます。

 幸いにも第2、3足趾の足底根元の角質肥厚「タコ状になることが多く」、大きな魚の目は余りみかけません。一方、タコの辺縁部分に一致して「点状に並んだ小さな魚の目」「タコの一部がへりの部分で深くなるタイプの魚の目」が合併することがよくあります。

 小趾背側の外側面に出来る場合

 第5足趾の長さがあるにも係わらず、足先の細いデザインの靴を履いていると、外側から圧迫されやすい部分です。出来やすい場所はDIP関節(遠位指節間関節)の外側~第5足趾爪の外側になります。場合によっては、厚くなった角質が爪と一体化して区別が付きにくいこともあります。

 趾間部に出来る場合

 とくに、第3,4趾間、第4,5趾間の趾骨同士があたって出来ることが多くなります。足先全体に側方から圧力が加わり足趾同士が擦れ合って出来てしまいます。特に、趾の骨は関節部分が棍棒状に横に突出しており、隣の趾の関節と当たって角質が硬くなってしまいます。

 趾間部の魚の目を削るには、ガーゼで足趾を広げながら趾同士が重ならないように良いポジション取ることが大切です。うまく広げないと削るときに皮膚を傷つけやすいので工夫が必要となります。

 

 足外側~踵近くに出来る場合

 足の外側では第5足趾元の中足骨基部やや外側に突出しているために、魚の目・タコができやすい部分となります。また、踵骨の前方には足底筋膜という分厚い膜が付着しており、踵外側前方にも角質肥厚がみられることがあります。

趾などの足先の浮き足にともなって出来る場合

 正しい足の力の入れ方は、足趾先の「趾腹全体」で体重を支えることですが、力の入れ方の癖や外反母趾などによって趾先が浮いてしまっている方がいます。すると、足先に掛かるはずの荷重が足趾のDIP関節(遠位指間関節)部に集中してしまい、この部分が胼胝・鶏眼状になってしまう方がいます。

足背などの座りだこに伴って肥厚する場合

 正座やあぐらなどによって、足背部に荷重が掛かっていると、タコ状に硬くなってしまう方がいます。皮膚の角質のみでなく、刺激が長引くと皮膚自身の厚さが増して真皮の肥厚も伴ってくることが特徴です。

魚の目の鑑別疾患・合併症

一見、魚の目のようにみえてもイボのことも!!

 皮膚科外来に、「魚の目の治療をして欲しい」といって来院される患者さんの1割程度に「いぼ(疣贅)」の方がいらっしゃいます。ざらざらした角質肥厚が多発しており「明らかないぼ」である場合もありますが、難しいのは一見して「鶏眼」にみえるものの、削ってみると「ウイルス性疣贅」が合併している場合もあることです。頻繁に再発を繰り返す「魚の目」は、イボでないかの鑑別することも大切となります。

前足部の足底に多発するイボ

 

 特に、10歳以下で魚の目ができたと云って来院されるお子さんでは、9割方は魚の目ではなく「いぼ」となってしまっていることが多いです。体重のまだ軽いお子さんでは、特別な運動などで局所に過剰な負荷が掛からない限りは、魚の目は出来にくいためだと考えられます。

 

 魚の目の鑑別疾患として挙げられるものは、

  • 尋常性疣贅(ウイルス性いぼ)
  • 足底部表皮のう腫(粉瘤)
  • 角質肥厚下の皮下膿瘍形成(細菌感染)
  • 足趾の軟部腫瘍
  • 足底筋膜炎
  • 遺伝性の掌蹠角化症
  • 棘などの異物埋入

 

などとなりますので、魚の目の正しい診断・鑑別には皮膚外科・整形外科的な知識も必要となってきます。

のう腫・感染を合併した魚の目

 

 足底部の表皮のう腫は、ある種のイボウイルス感染が原因であるという説もありますが、皮膚科の一般外来を受診しただけでは、見逃されてしまうこともあるようです。表面の角質を薄く削り取った上で、患部を実際にさわって丁寧に触診していくことで診断がつきます。

 

 通常、魚の目自体は「緊急性のある疾患」ではないのですが、芯が真皮側に深く喰い込むと、皮膚の深い部分に傷がつき炎症を起こしてしまうことがあります。表面上は通常の魚の目と区別がつきにくいのですが、「痛み」が強いことが特徴となります。炎症を起こした魚の目の角質を丁寧に除去していくと芯を抜いたあとに膿が出て、魚の目の深部が潰瘍(皮下膿瘍)となります。繰り返しになりますが、高齢者の方では炎症が関節・骨まで及んだり、糖尿病がある方では蜂巣織炎・ガス壊疽のきっかけとなってしまうことさえあります。

 魚の目・芯出し治療は?

大木院長
それでは、治療はどうするのでしょうか?

一般的な皮膚科での治療法

 通常の保険適応となる治療法としては、

  • スピール膏貼付
  • 尿素軟膏、サリチル酸軟膏など角質軟化剤
  • 鶏眼、胼胝処置

が挙げられます。

 スピール膏とは、サリチル酸含有50%の絆創膏で角化した皮膚に貼り付けることで、有効成分のサリチル酸が浸透して硬くなった角質層を軟化します。魚の目の芯部分は踏み締められることによって「とても堅くなってしまっている」ので、ふやかして柔らかくしてから削り剥がそうという考えです。

 

 あまり堅くなっていない魚の目や胼胝などでは、ケラチナミン軟膏やサリチル酸含有軟膏の外用で、ある程度柔らかくすることが可能です。入浴時などで皮膚全体の水分量が増して侵軟しているときには、軽石などで削っていくことも出来るようになります。

 

 皮膚科外来でよく行う鶏眼・胼胝処置は、「ペディ=コーンカッター」と呼ばれる角質を少しずつ薄く削る魚の目削り器を用いることです。当方が皮膚科外来で始めに教わった削り方でもあり、一般病院の皮膚科アルバイト先にも必ず置いてある道具となります。メリットは「余り特殊な訓練をする」ことなく、割と誰でも安全に角質を削れることでしょう。

 デメリットは、

  1. 「割と刃がすぐに切れなく」なってしまうこと、
  2. 細かな凹凸に対応が困難であること、
  3. 本当に硬い魚の目の芯には刃が立たないこと、
  4. 大きな魚の目の芯など局所的に深くなっている病変では「深部まで削ることが出来ない」こと

が挙げられます。

 先生によっては、外科用の剪刀(ハサミ)・ニッパー型爪切り等を使って少しずつ魚の目を剥がし切る方法を採る方もいるようです。非常に器用な医師では、出血させることなく深い大きな魚の目もきれいにくり抜いてしまうとのことです。一方、あまり上手でない場合にはハサミで皮膚自体を傷付けてしまい「魚の目は取れたものの」取った跡の皮膚が血だらけという話もお聞きします。

 剪刀で魚の目治療を行う欠点としては、細かな凸凹が複数箇所ある場合厚さが部位によって異なる胼胝の場合などのすべてに対応が困難なことが挙げられるでしょう。そのため、角質を削ったあとの仕上げとして、角質削り用のヤスリや電動ルーターを使う医院もあるようです。

 

 一部の魚の目に力を入れているクリニックでは、フットケアサロンにあるような本格的なフットケアマシンを導入しているところもあるようです。現在は法令・通達により「通常範囲内の角質削りケア・爪切り」は医療行為に該当しないケア行為とされていますので、腕の上手なフットケアサロンを探してみるのもいいかもしれません。

 保険適応ではありませんが、医師によっては魚の目に液体窒素による凍結療法を行うこともあるようです。魚の目のある角質ごと、凍結療法を行うことにより水疱化して浮かせて取ってしまおうという事らしいですが、

  1. 患者さんにとって痛みがあること、
  2. 通常の鶏眼・胼胝処置よりもコストが高いこと、
  3. 本当に深い魚の目は取ることが出来ない、

などデメリットが大きくなってしまうために当院で行うことはありません。

コメント

 ペディ型の魚の目削りは、普通のドラッグストアや通販でも購入可能であり、少し手先が器用な方では、ご自分で処置することが出来ます。削り過ぎによって皮膚に傷を付けてしまう可能性もありますが、器機の構造的に一度に深く切れないようになっていますので、比較的安全といえるでしょう。

 

当院での治療法は?

 当院での魚の目治療は、「主にカミソリを使って削り取る方法」となります。外科用メスを使う方法もありますが、部分的に深いところのある「魚の目」全体に平坦に角質が厚くなっている「タコ・胼胝」が混在する事の多い「鶏眼・胼胝処置」ではI字型のカミソリが重宝します。

 とくに、貝印のカミソリ・ゴールドα(アルファ)は昔よりどこの病院でも使われている定番品であり、「切れ味」も大変良く、他の製品を使うことは出来ないほどです。当院では貝印ゴールドαをまとめて購入して、お一人・お一人の患者さんに新品を使っております。特に前もって、スピール膏などを貼ってくる必要性はありませんので、何も貼らずにそのままでご来院下さい。逆に、スピール膏などのサリチル酸含有絆創膏を貼っていると、角質肥厚部と正常皮膚との境が不鮮明になり削りにくくなってしまいますのでご注意ください。 

 

カミソリの使い方は大きく分けて、

  • 徐々に表面から削る方法
  • 部分的に深い部分を少しずつ剥ぎ取る方法
  • 大きな魚の目を端からくりぬく方法

となりますが、以下に具体的な削り方を解説していきます。

 

具体的な魚の目・胼胝の除去および削り方

分厚い角質肥厚・胼胝では?

 踏みしめられて分厚く硬くなったタコ・魚の目では、「特に表層部分」が一番硬くなっていることが多くなります。削り始めの表層部が非常に硬いため、左手指で硬さを触って確認(触診)しながら慎重に少しずつ削るのがコツとなります。皮膚科医師の中でも「鶏眼・胼胝処置」に慣れていない内は力加減が難しく、少し力を入れ過ぎると角質を削った刃が滑って「自分の指まで」切ってしまうことがあります。その場合は、カミソリが角質を削っていく対側にガーゼをあてがい左手指で押さえて削ぐようにすると万が一カミソリが滑ってもガーゼが保護となり施術者が指を切ることがありません

 ある程度硬い層が削れると角質肥厚部も若干柔らかくなってきますので、カミソリをうまく滑らすように使うと、鰹節を削るように・もしくはカンナ(鉋)で木を削るように角質を薄く剥いでいくことが可能です。左手指で角質の厚さを触りながら、未だ厚い角質が残っていないか、削り足りない部分はないかを確認しながら仕上げていきます。ギリギリに削っていくには、カミソリの切っ先でも角質肥厚のぐあいを把握しつつ、皮膚の厚さを微調整していく技術が必要です。

コメント
非常にすぐれた外科医師では、メスなどの切っ先で組織の硬さや状態を感じ取れると云います。この削り技は、当方が一般外科研修をおこなったときの上級医である麦谷先生よりお教えいただきました。

 

足底部辺縁の局面部分

 足底~足側面に掛けては、足のカーブなどに沿ってうまく削っていくことが必要となります。長年、踏み締められたタコ・魚の目の辺縁では正常皮膚部分がやや歪んだカーブとなっていることも多くなるので、左手で丁寧に足の形状を確認しながら削ります。分厚いタコでも、角質肥厚部のヘリ部分で皮膚がイレギュラーに凹凸を形成していることがあり削り進めるときに注意がいります。

胼胝+小さな魚の目多発

 足の前足部では、角質肥厚に加えて「細かな鶏眼が並ぶよう」に出来ることがあります。足趾の基部に掛かった荷重ズレの力が集中するためできるものと考えられます。小さな魚の目状の角質肥厚が縦に並ぶことが多く、カミソリ先の丸みを帯びた角を使ってポイントで削ぎ取っていきます。角質肥厚は縦方向に連続して尾根のように形成されることもあり、この場合では筋彫り状に削っていくのがコツとなります。

大きく深い魚の目への対応

 大きさが直径1cmを超え、深さもある魚の目では表面から少しずつ削り取る方法では深くなった部分をうまく取り切ることが出来ません。また、中心にある芯部分は大変硬くなっていることが多くなり直接芯部分を切除にくい状態ですので、胼胝や小さな魚の目とは違った切除方法を採る必要があります。

 深く大きな魚の目では、山をひっくり返して皮膚に喰い込ませた様な形状となっていることが多く、第一段階としては魚の目の芯から少しはなれた山の裾野のあたりから斜めに角質に切れ込みを入れる操作から始めていくと良いでしょう。周囲に一周ほど切れ込みを入れておおよその切除部分が決まったら施術者からみて剥がし易い側をさらに斜めに切れ込みを深くします。

 魚の目の形状を逆さに皮膚に喰い込んだ山に例えると、裾野部分から芯のある頂上に向けてなだらかに高くなっていくため、15~20度位の角度でカミソリの刃先を入れていく魚の目の端(山の裾野部分)を浮かせることが出来ます。

 

 施術者からみて、下方向から手を切らないように小ガーゼを介して左手で魚の目を押さえながら、皮膚外科用のアドソンピンセットで魚の目を剥がした裾野部分を少し引き上げます。すると、肥厚した角質部分は「やや半透明」にみえる一方で、血流があり生きている皮膚である表皮深層~真皮部分は「ややピンク色」に見えてきます。魚の目の裾野部分ではカミソリの直線部分を使い、山の中腹の魚の目が深くなるにつれてカミソリ刃先の丸みのある角部分を使うとちょうどよいかと思います。

 

 ピンセットで浮かした角質肥厚部を確認しながら剥ぎ進めますが、ピンク色の生きている皮膚に切り込むと出血してしまうので、半透明の細胞が死んでいる角質部分側ギリギリを少しずつカミソリで剥いでいきます。この操作は、皮膚外科(形成外科)手術で「皮弁を作成する手術」もしくは「粉瘤のカプセルを周囲組織からギリギリで削いでいく作業」とほぼ同じです。

 硬い芯を持った魚の目(腫瘍)が皮膚に食い込んでいるものを、腫瘍(魚の目)を端から持ち上げながら剥がしとるイメージです。一度に深い山の頂上部分にいくと痛みが強くなることが多くなるため、第二段階として、山の中腹(魚の目が深くなる手前部分)部分をなるべく広範囲に削ぎ出していくとよいでしょう。魚の目を周囲から少しずつ剥がしていくと、徐々に一番深くなった芯部分の周辺が見えてきます。前もってスピール膏などの角質軟化剤を使わないことで、魚の目周囲~深くなった芯部分まで一体化して取っていくことが目標です。

 

 魚の目の芯部(山の頂上部分)を引き出すときには、患者さんがやや痛みを感じることが多くなるため、痛みの具合を確認しつつゆっくり引き出していくことが大切です。魚の目の芯部分はピンポイントで深くなることが多く、半透明の角質部分をピンク色の生きた皮膚からギリギリで剥ぐ操作を続けます。少しずつ操作を行う範囲が狭くなってきますので、カミソリの刃先をうまく使い深い部分を削いで浮かせていくイメージです。

 芯部分の皮膚側は、長年の圧迫によりやや真皮が菲薄化して「薄く赤ピンク色」となり指紋もなくなっていることで確認が可能です。芯の深くなっている所を取り残さないようにゆっくり慎重に削いでいく芯部分を完全に浮かせることができます。

 

 魚の目の芯部分(山の頂上部分)を越えると、また浅くなってきますので、そのまま角質を削ぎ取っていくと魚の目の切除は完了です。ご本人が動かなければ出血することは稀であり、切除した魚の目はその場でお見せするようにしております。切除したあとは、大きな魚の目ほど大きく陥凹し、下床に骨の突出があることが多いため施術後はガーゼ保護等をさせていただくこともあります。

 以上のように、魚の目・胼胝(タコ)は皮膚科疾患であるにも係わらず、①カミソリで端から切り込んで、②ピンセットで持ち上げながらギリギリを出血させないように削り込み、③「きちんと芯まで引き抜いていく」には外科的な熟練技術が必要な疾患です。

 当院では、簡易なものは医師の診断・指示のもとで、看護スタッフが削ることもありますのでご了承ください。また魚の目が大変深く、大きなものでは医師が直接対応しますので、土曜日全日、平日夕方以降、お休み前後など混雑する時間帯を避け、出来るだけ平日日中の院長診察担当のお時間にご来院ください。魚の目が大きく、余りに沢山ある場合には、再度ご来院いただき何回かに分けて治療させていただく場合がありますのでご了承ください。

 

当院からのお願い

 以前は、ネット検索をすると「芯を除去すると再発しない」もしくは「再発をなくすには芯を完全に除去すること」などという「嘘のまとめサイト記事」があったようです。当院に来院される患者さんから「芯が完全に取れたので、これで2度と再発しませんね」というご質問がよくありました。最近は、「google検索」がかなり改良されてきたのですが、以前は医療関連の検索結果もキーワード数を増やすと簡単に根拠のない「まとめ記事」も上位になってしまっていた時期がありました。

 魚の目は、きちんと芯まで切除しても「ご高齢の方ほど長年の歩き方のクセ」などにより、しっかり物理的刺激をさけるような再発予防対策をしないと「割とすぐに再発」してしまいます。

芯を引き抜く動画

 魚の目・鶏眼の治療費用は?

 魚の目、胼胝(タコ)の治療費用は下記のようになります。

  1. 鶏眼・胼胝処置(1部位);3割負担で510円
    通常の皮膚科で行うコーンカッターなどを使って肥厚した角質を削る程度の処置です。保険診療の規則として、両足で一部位として扱い、月に2回までの処置を行うことが出来ます。
  2. 魚の目を芯まで切除した場合;3割負担で1710円
    深い魚の目を通常の真皮レベルより深い部分まで切り込んで切除した場合、もしくは魚の目の奥部分が細菌感染を起こし排膿がある場合に算定させていただきます。
  3. 鶏眼・胼胝切除術(露出部で縫合を伴うもの)

    ・大きさ2cm未満;3割負担で4980円

    ・大きさ4cm未満;3割負担で11010円

    ・大きさ4cm以上;3割負担で13080円

 

 上記は「皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部)」に準じた保険点数となっています。露出部における「魚の目」部分を切除・切り取って、縫合を行った場合に算定できるとありますが、「魚の目」は上記に記載した切除法できちんと取り切ることが可能です。

 

 逆に、「魚の目・タコ」が出来やすい足の加重部位安易に傷跡(手術による縫合創)をつけることは、「悪性腫瘍、癌」を除いては禁忌と云っても過言ではありません。当院で上記③に該当する手術を行うことは皆無であり、なぜこのような保険点数が存在するのかは謎としかいいようがありません。

お願い
※上記の保険自己負担額には、初再診料および処方料など含まれていない金額となります。魚の目・胼胝(タコ)大きさ、数、深さ等によって通常当院では上記①②のいずれかの算定とさせて頂いております。

 

魚の目の市販薬

 では、病院へ行く時間もなかなか取れず困ってしまった場合にはどうしたらよいでしょうか?

スピール膏・イボコロリなどのサリチル酸製剤

 皮膚が硬く厚くなってしまった場合には、市販のスピール膏をはじめとするサリチル酸製剤がよく使われます。絆創膏タイプ、液体タイプ、ジェルタイプなどさまざまなタイプが市販されています。ご自分で魚の目の大きさに合わせて切って患部に貼り、絆創膏などで固定します。2,3日貼っておくと角質が白くなって軟化してくるので、入浴時に新しいものと交換します。浮き上がった角質は自然に脱落するのを待つか、浮き上がった皮を無理ない範囲でピンセットなどで引きはがしていきます。中心部に未だ硬い芯が残る場合はさらに貼布を続けていきます。

 注意点としては、痛みがつよい魚の目ずっとスピール膏を張り続けてしまうと、皮膚の奥に感染を起こしてしまうことがあることです。痛みが強く赤みもある場合は、「硬く大きくなった魚の目の芯」が皮膚深くに喰い込み刺さって炎症を起こしていることがあります。その場合、スピール膏を貼り続けて密封してしまうと感染を余計に悪化させてしまうだけでなく、患部の観察が出来なくなり皮下膿瘍形成などの発見が遅れてしまいます。

ケラチナミンなどの尿素軟膏

 全体に角質が厚くなっているタコ(胼胝)では、しっかり塗布することによって角質をある程度柔らかくすることが可能です。さらに入浴中などに軽石などで軽く削ってもよいでしょう。

※サリチル酸軟膏は市販されていません。

抗菌剤市販薬(化膿した場合)

 痛みが強くなってしまい赤み・腫れが伴なう魚の目細菌感染を起こしている可能性があります。市販薬では抗菌剤外用剤が各種(ドルマイシン・テラマイシン・クロマイ軟膏)などが売られています。患部をマキロンやイソジン傷薬などで消毒した上で、抗菌剤外用剤を塗ってガーゼ保護をしましょう。

 痛みが引かないときは、抗菌剤内服は市販されていないため病院・クリニックに掛かる必要があります。

 

再発の予防法・ケアグッズ

 当院では、魚の目治療を始める前に簡単に再発予防のお話をさせていただいております。せっかく、丁寧に芯まできちんと取り除いても、適切なケアを行わないと「魚の目・たこ」はすぐに再発してしまいます。もちろん、年齢や長年の足の踏ん張り方の癖などがあり、毎月ごとに魚の目ケアに来院される患者さんもいます。

 

出来れば、まだ改善の余地のあるお若い方では、

  • 正しい靴選び、靴の履き方
  • 局所の保護グッズ
  • 多少の再発であればご自身でのケア用品使用

などで、再発予防・セルフケアをこころがけましょう。

 再発予防の基本は正しい靴選びと履き方がまず大切です

 足の形には個人差があり、

  1. 第1足指が長めの人
  2. 第2足趾が長めの人
  3. 小趾側も長めで全体に四角い足先のひと

大きく3種類に分けられるとされます。

 足の幅や長さにも個人差がある一方、日本に於いての靴の歴史は明治時代以降100年少しと歴史がヨーロッパなどに比べて圧倒的に短いという現状にあります。一般的に高度成長経済と伴に大量生産されてきた靴はある程度「決まった足型」から作られており、個人個人のさまざまな足の形状差にまで対応しきれていません

 

 また、お若い女性ではデパートなどにいくとデザイン優先のハイヒールやパンプスしか選択枝がなく、現在日本に於いて正しい靴を選んで履くという習慣が一般的ではないことが問題です。なんらかのトラブルが生じてから初めて足元の基本である靴の大切さに気がつき、専門店などにいくことが多いのではと思われます。足の大きさをきちんと測定してくれる専門店はいくつかありますが、どのお店も「手計り」で客観的にどのような問題点が足にあるのか、ご本人へフィードバックされにくいことも問題です。

※一般的に専門店で靴を選んだり作ったりすると4~5万以上してしまいます。

 

 当院では「3次元測定機器を用いたデータ計測」を行っていただけるお店として、「アシックスウオーキング」をお勧めしています。都内の主要駅に店舗がいくつかあり、3D機械測定で「足の幅、長さ、甲の高い低い、土踏まずの扁平度など」を客観的なデータとしていただけます。さらに、測定のみは無料サービスとなっており、アシックスで靴を買って、「中敷きをセミオーダーで調整」しても2万少しの出費で済みます。もちろん、アシックスの靴がベストであるとは云いませんが、「靴選びの基準」としては大いに参考になるのではと思います。

 測定したもらったデータを元に、好きなデザインのスニーカーなどを買って、「中敷き=インソール」を自分で選んで調整するという手もあります。ただし、中敷きなどの種類は一般の靴店では多くないため、都内では東急ハンズなどを利用すると多くの中敷きの実物が置いてあるので良いのではないでしょうか?

 

靴の履き方の基本

 小さくキツい靴も良くないですが、あまりにも大きくブカブカで靴の中で足が前後に動いて遊んでしまう状態も好ましくないです。ヒールが高いもの・甲の支えのないパンプスタイプは避けて、「甲の支えのあるスニーカータイプの紐靴」が靴の基本です。

 

 靴を履く手順としては、

  • 靴に足をいれたあとは、まず足先を挙げて踵を地面につけて靴と合わせること、
  • 足先を挙げて踵をついた状態で、靴紐を締めて結び「甲の支えをしっかり」作ること、
  • 以上の状態で足先が靴の中で余裕を持って5本趾とも伸ばせて趾の腹で踏ん張れること、
  • さらに、足先の余裕が靴の上から確認して1cm程あること、
  • 足の測定結果にもとづき、適切なサポートのある中敷き(インソール)をつかうこと、

などが基本となります。

 長年の靴の圧迫によって、足先が浮き足気味・外反母趾気味、つち趾気味などの場合には入浴後に足先の関節をよく伸ばしたりタオルなど敷いて足趾先の全体でしっかり踏ん張る練習をするのもよいでしょう。一度履いてみて、トラブルのあった靴の使用は避けて履き慣れた靴をつかうようにしましょう。

 

局所につかう保護グッズなど

 足のタコ・魚の目予防にはさまざまなグッズが市販されています。色々なブランドがありますが、「ドクターコング」というシリーズが有名です。エラストマーという弾力のある樹脂を使っており、

  • 趾間部用
  • 足裏保護パッド(前足部用)
  • 親指パッド(母趾内側用)
  • 踵用パッド

など様々なタイプが発売されています。

 

 趾間部用の足指保護キャップ、足趾先用シリコンキャップ・靴ずれ予防用のパッド・土踏まず用サポータなど探すと色々な対策商品がありますので、状態に応じて組み合わせて使ってもよいですね。

 

 定番商品とも云えるのが、患部に直接ドーナツ型のクッションを貼って保護するための商品です。部位のよっては、ガーゼ・脱脂綿等を丸めて俵状にして挟むなどする方法もあります。

 これらの商品は、ついお手軽なので使ってしまいがちですが、あくまで優先順位は、

  • 足全体のサポートである靴選び
  • 靴の正しい履き方+中敷き(インソール)による調整
  • 負担の掛かっている患部全体への圧を和らげる保護パッド

であり、局所のみをドーナツ型クッションで保護することはある程度は有効ではありますが、あくまで上記①~③を行った上での補助的な対策として追加するように心がけましょう。

 

角質肥厚を自己処理するケア用品

 角質肥厚を自分でケアする商品はさまざまなタイプが市販されています。

代表例としては、

  • コーンカッター(ペディ)
  • スクラッチスマート・角質こそぎ等
  • 軽石タイプ;ビューティフット・ピーリングリムーバーなど
  • カミソリタイプ(貝印ゴールドα;腕に自信のある人のみ)・貝印かかと削り
  • 電動角質削り機タイプ

などが挙げられるでしょう。

 コーンカッターとは、カミソリ状の刃を下方向にやや凸に彎曲させた削り器です。刃先の突出部が露出する厚さをコントロールすることで、角質を削る厚さを調整できます。一度に深く削り過ぎないことがメリットで皮膚科外来でもよく用いられてしますが、一般的な市販のケアグッズとしても入手可能です。削り方については各種製品動画がアップされていますので参考にしてもよいでしょう。

 

 スクラッチスマート・角質こそぎという商品は、リング状の金属輪の内側が刃様になっており「やや傾けながら削る」ことで角質を少しずつ削っていくケア用品です。刃の向きが内側になっているので、大きく傾けると削れないようになっていて安全性が高いと云えます。適度に傾けながら角質肥厚部分にあててこすると削れる仕組みなっています。入浴後などの角質が柔らかい時の方が削りやすいでしょう。リングの大きさからスクラッチスマートの方が、細かな病変や深めの魚の目向きと云えます。

 いわゆる軽石およびヤスリ的なケア商品もおおく販売されています。分厚い胼胝には粗めの金属タイプを使い、軽度の角化にはビューティフットなどのざらざらしたヤスリタイプがよいですね。足の裏全体の角質が肥厚してしまい分厚いがさがさになっている方は、まずこれらのケアグッズである程度全体をなめらかにしていただき、深くて痛い鶏眼様の部分が残ってしまった場合は、皮膚科に掛かると良いと思います。

 電動タイプの角質削り器も各種販売されています。全体を削るローラータイプから簡易フットケアマシン様の器機まで様々です。どれも安全に出来ていますが、一度に大きく削ったり、深くなった魚の目の芯の除去は難しく、どちらかというと「踵などの全体が面で厚い場合」に使うという場合に良いと思われます。

カミソリでのセルフケア

 自己責任となってしまいますが、医院で使っている貝印ゴールドαを購入していただきご自身で削ってしまうと云う手もあります。慣れるまで手を切ってしまうリスクはありますが、うまく使いこなすと胼胝~魚の目までかなり広範囲の病変にも対応可能です。生業として刃物を人にあてることはできませんが、自分でひげを剃ったり胼胝をけずるなどの行為は合法的ですので問題ありません。もしも、刃物の取り扱いに慣れていない場合は、貝印から販売されている「かかと削り器」もお勧めです。一見、通常の安全カミソリですが足の角質を削りやすいように形状が工夫されています。ほどほど厚くなった角質肥厚を少しずつ削っていくという種類のケア用品となります。 

まとめ

 当院では、他院で対応できなかった深い大きな魚の目も院長がカミソリでしっかり芯まで削り取る処置を行っております。ご来院いただいた患者さんは皆様、痛みが取れて喜んでお帰りになる方がほとんどです。

 一方、魚の目・胼胝はしっかり処置をおこなって改善しても、その後のご自宅でのケアや靴での圧迫・摩擦を避けるように工夫をしていかないと、割とすぐに再発してしまいます。もちろん、ご高齢で体が硬くなりセルフケア出来ない方では定期的に通院される方もいらっしゃいますが、お若い方では本記事を参考にされてセルフケア・靴の履き方の工夫も行っていきましょう。

 

 足の変形が高度であったり糖尿病などがあると、足趾の知覚が低下して魚の目の下に感染などを起こしても気がつきにくいことがあります。セルフケアをおこなっても改善しないときや痛みがつよく異常を感じた場合にははやめに近くのクリニック等に受診した方がよいでしょう。

お願い
 大きな魚の目を芯から取る処置にはお時間が掛かるため、なるべく平日日中にご来院ください。数が多い場合には、何度か通院いただき処置を分けさせて頂く場合がございます。
おすすめの記事