円形脱毛症とは?

 円形脱毛症Alopecia areata)とは、前触れもなく突然頭部に生じる「境界のはっきりした類円形の脱毛斑」です。単発・軽症例の場合には自然治癒もあるのですが、数が2~3個と増えて多発してしまうと治療に反応しにくくなってしまうのが問題です。当院では、通常の単発型円形脱毛症には、「ステロイドローション+フロジン液」の外用療法に加えて、「グリチロン・セファランチン内服」を行うことを基本としています。

円形脱毛症

 

 さらに、数が増えてしまった難治性の多発型円形脱毛症に対しては、

  • 液体窒素凍結療法
  • ケナコルト注射(ステロイド局所注射)
  • ナロ-バンドUVB・エキシマライト療法(紫外線治療)

    を適宜組み合わせて行っております。中程度までの多発型円形脱毛症に対しては「この3つの治療法」の組み合わせにて、治療効果を挙げております。

    さまざまな円形脱毛症

     円形脱毛症は一般的な日常よく見られる皮膚疾患にも係わらず、一度多発してしまい難治化してくると、治療に対する反応が悪くなっていきます。一度発毛しはじめて良くなったかと思うと、また悪化してくる部分も繰り返し出現してきます。難治性の円形脱毛症治療には、「ステロイド内服療法」・「SADBEをはじめとする局所免疫療法」が有名ですが、疾患の性質上「必ずこれだと効果がある」といった確実な治療方法がなく、対症療法的に実施しているのが現状です。

    お願い
     本稿では、「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」を元に、推奨されるエビデンスレベルとともに、各種治療法などを紹介していきます。なお、保険適応がない治療法についても、国内外において医学的根拠のある治療法について記載していますが、実施に当たっては患者さんへのインフォームドコンセントを行うことが前提となります。

    円形脱毛症の症状・診断

     頭髪に生じることが多いのですが、眉毛やすね、陰部などの体毛に発生することもあります。軽症ですと単発のことが多いのですが、多発してくると2、3個と増えてきます。中には、増えた脱毛斑が癒合して広範囲の脱毛症に移行したり、全頭型脱毛症に進行してしまう場合もあります。

     通常、6~7割の方では単発型円形脱毛症であり、治る期間としては一般的な治療で3~4ヶ月程度が目安「徐々に毛が生え自然治癒」してきます。一方、残りの2、3割の方では多発型から全頭型へと進行してしまい、治療に抵抗する難治性・再発性となっていきます。

     発症年齢としては、30代までの比較的若い世代に発症することが多く、ときに学童期にも見られることがあります。実際に外来診療においては、高齢者での発生は余りみかけることがありません。発生頻度は0.1~0.2%程度とされており、一生を通じての発症確率は1.5%との報告があります。特に「女性が多い」などの性差はみられません。本疾患は、命に関わりはないものの、外見上の印象に大きく影響するため、患者さんの日常生活上のQOL(生活の質)を大きく下げてしまいます。

     初期症状として、通常は前触れとなる前駆症状や自覚所見はなく、「あるとき家族から言われたり、美容室で指摘されて」気がつくことが多いです。ほとんどは、直径2~3cm程度の脱毛斑であり、湿疹変化や痒みは伴いません。症状が強くなると脱毛斑が徐々に大きくなったり、2個~3個と数が増えてきて多発型となります。慢性期になると病巣部分がわずかに陥凹してくることがあります。

     ときに、側頭部~後頭部にかけて「幅2,3cm程度の横方向に蛇行した脱毛斑」が生じることがあり、「蛇行型脱毛症」と呼ばれ、難治性です。多発型と蛇行型が合併して、そのまま後頭部の広範囲の脱毛に移行する場合もあります。稀ではありますが、頭部の毛がすべて抜け落ちてしまう「全頭型脱毛症」もみられることがあります。

    蛇行型円形脱毛症

     

     局所の所見としては、ダーマスコピ-(トリコスコピー)上で萎縮した毛が毛穴に詰まって「黒点」としてみえたり、引き抜いた毛の毛根部分が先細くみえる「感嘆符毛」・「漸減毛」、さらに慢性期では毛穴が黄点状となるのが特徴です。 進行期には、脱毛斑部分の周囲の毛を軽くひっぱると容易に抜けてしまうこと(牽引試験=プルテスト陽性)も特徴的となります。合併症状として、初期に爪の点状陥凹や粗造化・後頭部のリンパ節腫脹などが一定割合でみられます。

    円形脱毛症のダーモスコピー所見

     

     以上、円形脱毛症の診断では、脱毛症の発症経過や、脱毛範囲・部位、治療歴や家族発生の有無、既往歴など詳細に確認していくことが大切となります。

    円形脱毛症の種類・重症度

    病型の分類

     一般的に円形脱毛症は以下の病型に分類されます。

    • 単発型(通常型);一般的に最も多い型で、頭部に「単発の円形脱毛斑」が出現します。赤みやカサツキなどの皮膚炎症状は伴いません。まれに脱毛初期にぴりぴりとした痛みを感じることもあります。自然治癒も多い傾向です。
    • 多発型;単発型から2~3個と数が増えてくることがあります。さらに、脱毛斑の大きさが5,6cmと大きくなったり、実際に多数に増えた脱毛斑同士がが癒合して脱毛範囲が広がってきてしまう場合もあります。 

    • 蛇行型;後頭部~耳上の側頭部にかけての生え際が「帯状に蛇行した脱毛斑」を生じます。通常型に比較して難治性となることが多い特殊型に分類されます。
    • 全頭型;症状が進行し、頭皮のほぼ全ての毛髪が抜け落ちてしまうものを「全頭型」と呼びます。
    • 汎発型;頭皮以外の眉、ひげ、体毛なども抜けるものを「汎発型脱毛」と呼びます。

     

    重症度分類

     円形脱毛症の重症度については、「米国円形脱毛症ガイドライン」に記載されている以下の分類が用いられます。本分類では頭部脱毛面積の割合「S」として、その他の体毛などの脱毛面積の割合「B」と記載します。

    • S0;頭部脱毛なし、S1;脱毛面積25%未満、S2;脱毛面積25~49%、S3;脱毛面積50~74%、S4;脱毛面積75~99%、S5;脱毛面積100%(=全頭脱毛)
    • B0;頭部脱毛以外なし、B1;頭部以外の部分的な脱毛、B2;頭部も含めた全身の全脱毛
    円形脱毛症の重症の扱いは?
    「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、S2以上のもの(頭部脱毛25%以上)を疾患の活動性などを鑑みて重症と扱っています。すなわち、①多発型円形脱毛症が進行したもの、②蛇行型円形脱毛症となっているものは重症の扱いとなります。

     

    円形脱毛症の急性期と症状固定期

     円形脱毛症の急性期とは、脱毛症に気がついてから急速に症状が進行する「半年以内」の時期をさします。一方で半年以上を超えてくると、一部の毛根部分ではリンパ球などの炎症細胞浸潤がつづきますが、炎症細胞浸潤が全体に軽度となり休止期に似た状態になっていくことを「円形脱毛症の症状固定期」と呼び、さまざまな治療に反応が悪くなってきます。

    円形脱毛症の原因・合併症

     毛の根元で「髪の毛」を作っている毛母細胞がなんらかの原因によって障害されることが発症原因と考えられています。アトピー性皮膚炎・甲状腺疾患(橋本病)・白斑などの自己免疫疾患の関与やストレス・遺伝性・頭皮の栄養障害などの影響も考えられていますが、はっきりとした病因は不明です。一方、円形脱毛症は、入学・進学と伴に急に改善する例もあり「ストレス」も誘因のひとつとして考えられます。

     円形脱毛症の合併症としては、橋本病などの甲状腺疾患が8%尋常性白斑が4%と合併率が高くなっており、SLE、関節リウマチ、重症筋無力症、糖尿病などの報告もあります。現在のところ、円形脱毛症は多因子性の遺伝性疾患であると考えられております。

     とくに、アトピー疾患との合併率が高いことが知られており、また一定数の家族発生の報告(8%程度)もあり、近親者に発症があるほど円形脱毛症の発生率も高くなります。

     円形脱毛症の「患者さんの家族も含めたアトピー素因の保有率」54%患者本人のアトピー素因の保有率41%であり、アトピー性皮膚炎そのものの合併23%にあったとの本邦での報告があります。さらに、重症度とアトピー素因の保有率を比較した場合でも、多発型⇒全頭型⇒汎発型・蛇行型と重症化するほどアトピー素因の保有率が高くなる傾向がありました。

    円形脱毛症の発生機序

     起こっている現象としては、毛髪の病巣毛根部分リンパ球(T細胞)浸潤や炎症細胞などが集まっている所見が観察されています。なんらかのアトピー素因に基づく自己免疫反応の異常「病的な萎縮した毛」の形成に係わっていることが分かってきています。毛包部分では成長期毛が減少し、退行期・休止期となった毛包が増加します。

    円形脱毛症の鑑別疾患

     円形脱毛症の鑑別疾患には、以下が挙げられるでしょう。

    1. ケルスス禿瘡
      頭皮の白鮮菌感染による脱毛です。足裏などでは皮膚表面に限定する白鮮菌感染が頭皮に感染すると毛の奥の毛根部分に菌が入り混み、炎症や脱毛を引き起こします。
    2. 抜毛症
      精神的な要素が誘因となり毛を自ら引き抜いてしまう。小学生~中学の学童期の発症が多くなります。
    3. 男性型脱毛症
      男性ホルモンの影響で、ジヒドロテストステロンが産生されると毛根部の抑制がかかり、軟毛化や脱毛を症じます。前頭部から頭頂部の脱毛が主であり、プロペシアなどの自費治療薬が使われます。(※当院では治療に対応しておりません)
    4. 瘢痕性脱毛
      外傷や怪我のあとに、頭部の皮膚が瘢痕化するために毛の成長が抑制されます。既往歴の確認頭皮に外傷瘢痕がないか良く触診などを行うことで鑑別が可能です。とくにステロイド局所注射をしたときに皮膚自体が硬くなってしまっていると難治であり、瘢痕性の脱毛の疑いが強くなります。
    5. 壮年性脱毛症
      年齢と伴に
      、髪の毛が薄くなる通常の加齢による脱毛です。

      ・その他では膠原病や梅毒によるもの・アトピー悪化に伴う掻破によるもの等があります。

       

      円形脱毛症の治療薬・治し方は?

       以下の治療法を症状によって組み合わせて行っていきます。

      ガイドラインによる推奨度
       推奨度分類A.行うように強く勧める、B.行うように勧める、C1.行っても良い、C2.行わない方がよい、D.行うべきではない、以上の5段階分類にて治療のエビデンスレベルを示しています。

      ※円形脱毛症治療においては、推奨度Aの治療法は存在しません。

      軽症例~発症初期のもの

       グリチロン・セファランチン内服療法(推奨度;両者ともC1

       グリチロン・セファランチン内服がまず行われます。グリチロンの主成分はグリチルリチン酸で漢方薬でいう「甘草」という生薬と同一の成分です。抗アレルギー作用や肝機能改善などを期待して使われます。セファランチンは、保険適応として蛇毒の緩和作用があり、免疫機能増強などが期待されます。この2つのお薬は「効果が余り期待できない」という意見の先生もいらっしゃるようですが、「保険適応であること」と「内服を行ったグループの方の治療結果が良好であった」という研究報告もあり、通常の円形脱毛症治療に必須のお薬となります。

       ガイドラインでも、「全頭型・汎発型において毛髪が回復する結果は見いだせない」としつつも、本邦における膨大な治療実績および症例集積研究より、有意に脱毛範囲が縮小する「弱い根拠」がみいだせるとしている。単発型および多発型の併用療法のひとつとして行っても良いとされています。

      ステロイド外用剤療法(推奨度;B

       当院では、長期投与することを考慮してまずは、ストロングクラス(中程度)「ステロイドローション」を使う事が多くなります。入浴後などにしっかり浸透させることで、毛根部分にあるリンパ球の炎症を抑えていく目的で使用します。必要に応じて、ステロイドのランクを上げたり「密封療法」とする場合もあります。一方で、長期使用による毛嚢炎や皮膚萎縮・血管拡張などの副作用にも注意が必要となります。

       海外のガイドラインでも、軽症~中等症例に発毛効果があったとの報告もあり、日本国内での長い診療実績があることから、単発型~癒合傾向のない多発型円形脱毛症に対して「ステロイド外用療法」を行うことを勧めるとされています。

      塩化カルプロニウム外用(推奨度;C1

       商品名が「フロジン」というローション剤で、白斑・脱毛症に保険適応があります。アルコール成分も入っており血管拡張・血行促進作用から毛根部分に栄養が行き渡るように働きかけます。塩化カルプロニウムは、円形脱毛症以外の瘢痕性脱毛や男性型脱毛症にも使われます。一般に市販されている育毛剤にも含まれている成分です。

       保険適応があることと、我が国において長い治療実績があることから、「重症例では満足する毛髪回復が見いだせない」としながらも、単発~多発型の症例に併用療法の一つとして行ってよいとされます。

      やや多発~中等症例

      抗ヒスタミン薬内服(推奨度;C1

       文献上、アトピー素因をもつ円形脱毛症の患者さんに「エバステル」という抗アレルギー薬が有効であったという報告があります。当院でも中等症以上の患者さんに処方しております。その他では、アゼプチン、セルテクト、アレグラ錠などが著効したとの報告・根拠があることから、アトピー素因をもつ単発型~多発型の例で併用療法のひとつとして「坑ヒスタミン薬」が推奨されています。

      ミノキシジル外用《リアップ;保険適応外の市販薬》(推奨度;C1)

       保険適応はありませんが、市販のミノキシジル(リアップ)が円形脱毛症に効果があったという報告があります。脱毛症が改善しても、白髪となってしまう症例に用いると毛髪の色が改善することがあります。

       広範囲に脱毛しているものには無効とされますが、プラセボ(非投与群)に対して脱毛範囲を縮小させたという論文もあり、単発型~多発型例での併用療法のひとつとしておこなってもよいとされています。

      局所液体窒素凍結療法(推奨度;C1

       元々は、ウイルス性いぼ治療などに用いられる治療法ですが、脱毛した患部の表面に軽い凍傷をつくり「わざと炎症を起こさせて」毛髪の再生を促します。毛包部に集中していた「リンパ球などの炎症細胞」表面の凍傷部分に分散されるために治療効果を発揮するものと考えられます。「単発~2,3個までの多発型」における有効率は、凍結療法1,2回の処置後に7割程度とされています。

      液体窒素をいれる容器と綿棒

       ガイドラインでも非ランダム比較試験および症例集積研究にて、脱毛範囲を縮小する弱い根拠が見いだされています。本法は、若干痛いのが欠点ですが簡便で副作用も軽い点を考慮して、単発型~多発型の症例に併用療法のひとつとして行ってもよいとされます。

      ※手軽にできる上に、1,2回で反応があることが多く、お勧めです。

      ステロイド局所注射療法(推奨度;B

       ケナコルト(トリアムシノロンアセトニド)というステロイド懸濁液が用いられます。脱毛部へ直接注射をおこなうことで、局所毛包部分のリンパ球浸潤などの炎症を抑えて効果を発揮します。欠点としては、痛みを伴うことや一度に打てる量に限りがあることです。おおよそ、月1回程度の注射を繰り返します。注射を行う部位としては、ちょうど頭皮の毛根のある真皮深層~皮下脂肪織浅層レベルに、薬液を注入することが大切で、完全に皮下脂肪内に投与してしまうと効果を発揮しません

       ステロイド注射は打つ量や深さを適正に行わないと、効果が十分に出なかったり皮膚が萎縮・陥凹してしまう副作用がでることがあります。とくに多発型においては、注射回数および総投与量を必要とするため、円形脱毛症に対しての「ケナコルト注射に慣れた医院」をえらぶことも大切です。本邦内に於いても有効性を示唆する根拠・研究報告があり、脱毛面積25以下(S1)および多発型の症例ガイドラインでも第一選択として推奨されております。

      ※1回に打てる量に限界があり、痛いことが欠点ですが効果の点でお勧めです。

      紫外線治療〔ナローバンドUVB・エキシマライト〕(推奨度;C1)

       近年、白斑・乾癬などに保険適応である紫外線治療が、「円形脱毛症」にも保険適応追加になりました。308~311nm(ナノメータ)の狭い領域の中波紫外線が「リンパ球の過剰な働きを抑制」することで、さまざまな疾患に有効であることが分かってきました。当院ではナローバンドuvbエキシマライトの2種類の紫外線治療10年近く前から行っており、円形脱毛症治療にも正式に使用可能となりました。

       紫外線治療の欠点としては、中波紫外線療法(340点)という保険点数となるために、通常治療に加えて3割負担の方で1020円ほどの追加費用が掛かることです。治療効果を挙げるためには12回の通院が必要で、まずは効果判定のために1520回ほどの照射を行います。

       治療成績としては、「5割の症例で90%以上の発毛が認められた」という報告がある一方で、難治症例では何らかの発毛があるものは「3050%程度」であったとされ、単独では「決して有効率が高くない」ことが問題です。

        実際の臨床現場では以前より広く使用されており、ガイドラインでは大きな副作用がなく安全性・利便性が高い点をふまえて、症状固定期の全頭型もふくめた「すべての病型」に対して、紫外線療法を行っても良いとされます。ただし、最大照射回数など未確定の部分もあり、効果が無いのに漫然と継続すべきではないともしています。

       

      その他

       血行をよくするビタミン剤(ビタミンC、Eなど)やストレスを緩和する漢方薬(C2)を併用する場合があります。漢方治療のエビデンスは、比較検討しにくく、ガイドラインの推奨度はC2(行わない方がよい)となってしまっております。

       一方、個別の文献をあたると、抑肝散陳皮半夏、六味丸、十全大補湯、補中益気湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯などでの改善例の報告があります。「皮膚は内臓の鏡」という言葉があるように、患者さん個々の体質を考慮して処方をご提案させていただく場合があります。

       

      多発~重症例では大学へ

       当院では、以上の治療を行っても症状の改善しないもの・進行してしまうもの大学病院への受診をお勧めしており紹介状を書かせて頂いております。

       大学へいく目的としては以下のことが挙げられます。

      1. 難治性の円形脱毛症では、膠原病・甲状腺などの内臓基礎疾患がないか精査が必要
      2. 外用剤、内服剤に加えてステロイド局注、液体窒素凍結療法、紫外線療法などを組み合わせていくべきか
      3. 重症例、難治例では早期にステロイド内服や局所免疫療法の適応とすべきか

        などの判断が必要となります。

        局所免疫療法(推奨度;B

         試薬として、SADBEsquaric acid dibutylester)もしくは、DPCPdiphenylcyclopropenone)が用いられる。どちらかをアセトンで希釈した溶液を作成して、遮光瓶に保存をしておきます。まず、脱毛部分に1~2%液を塗布外用して、感作を成立させて赤み・痒みがでることを確認します。その後は1,2週に1回程度低濃度の溶液を塗布して人工的な接触性皮膚炎を起こさせる治療法です。

         施術者も薬液に感作してしまう危険があり、マスク・手袋などで必ず保護を行います。両者ともに試薬の扱いで「保険適応はなく」、充分なリスクの説明と患者さんの同意のうえに行います。治療ガイドラインでは全頭型・汎発型の症例に対しては第一選択とされます。

        ステロイド内服療法(推奨度;C1

         プレドニゾロン、デキサメサゾン等の内服を、「経口ステロイドパルス療法」として施行します。発症後、半年以内の症例で急速に進行しているS2(脱毛面積25%以上)の症例に「期間を限定」しておこなってもよいとされます。あくまで、長期的な予後・改善に対する有効性のエビデンスはなく、ステロイド外用・注射などの他の標準治療を行っても改善しない例に行う事を検討します。本方はステロイド静脈注射として行われることもありますが、原則「小児」や「固定期となった円形脱毛症」には行いません

        ご注意!
         ステロイド内服療法は治療効果があったとされる一方で、難治例・汎発型での有効率は決して高くなく、かつ減量時の再発や胃潰瘍などのリスクがあります。わざと皮膚をカブレさせる局所免疫療法SADBEsquaric acid dibutylester)も過去当院で行ったこともありましたが、かぶれの悪化・中毒疹・リンパ節腫脹などのリスクが高い治療であり、きちんと副作用管理も出来る大学での治療をお勧めしております。

         

        円形脱毛症に対するコンビネーション治療法

         幸いにも当院では、

        • ステロイド局所注射療法
        • 液体窒素凍結療法
        • 紫外線治療(ナローバンドuvb

          のすべてに対応しておりますので、上記を組み合わせて治療していくことが可能です。

           

           これらの治療は、局所注射や液体窒素療法では多少痛いという欠点があるものの、全身的および局所での大きな副作用がなく、外来通院で簡便・安全に行えるということが一番大きなメリットです。また、ステロイド局所注射1回につき1cmまでという教科書的な記載がありますが、当院では真皮深層部に少量ずつ多数箇所注入していくことによって、1回の施術につき20cm程度までの治療が可能と考えております。

           

           大学での診断を行って頂いたあとに、大学担当医師からの指示などで上記3つの治療を当院で対応させていだたく場合もあります。もちろん、すべての円形脱毛に効果があるわけではありませんが、中等症までの症状であれば改善する方は多い印象です。

           

          推奨されない治療法は?

           一方で、行わない方がよい(C2)とされるものには以下のものが挙げられます。

          • レーザー治療LEDPDT);治療根拠が現在の所ない
          • シクロスポリン内服療法;再発や副作用の頻度が高く行わない方がよい
          • 抗うつ薬、抗不安薬投与;有用性が十分実証されていない
          • 分子標的薬投与;有効性を評価できる段階にない。
          • タクロリムス外用(プロトピック軟膏)
          • プロスタグランディン製剤外用
          • ビタミンD外用療法
          • レチノイド外用
          • 催眠療法、心理療法、アロマテラピー、鍼灸
          • PRP療法(自己多血小板血漿)

          その他の治療法では、スーパーライザー(直線偏光近赤外線照射療法)が推奨度;C1となっています。

           

          コラム;アトピー合併とデュピクセント
           近年の症例報告で、アトピー性皮膚炎の合併した円形脱毛症「デュピクセント(デュプリマブ)」の投与を行って、円形脱毛症の症状が著明に改善したとのレポートが多く挙がってきています。症例によっては、光線療法・ステロイドパルス療法を行っても無効であった例に効果があったとするもの、ステロイド局所注射を行った部位に改善が著明であったとするものなどがあります。
           一方、デュピクセントの無効例の症例報告もあり、今後の症例集積が期待されます。

           

          円形脱毛症の治療経過・予後は?

           円形脱毛症が治ってくる場合の前兆としては、

          • 短い細い毛が部分的に生えてくる
          • 硬くて短い毛の生えが見えてくる
          • これらが徐々に伸びて、全体に脱毛斑が徐々に見えなくなる

          という経過を辿ります。

          治ってきている円形脱毛症の様子

           

           円形脱毛症は、再発を繰り返しやすい病気で、治療していた部分が改善してきても「また別に部位に脱毛斑が生じる」ということも稀ではありません。治療中にも症状を繰り返しつつ、最終的には治っていくパターンもありますし、一度治った後に数ヶ月後~数年後に再発してしまう方もいらっしゃいます。

           全脱毛型や蛇行型などは通常治療に反応しにくく、まったく生えてこない症例もあります。円形脱毛には難治性の患者さんの会(円形脱毛症の患者会)もあり、実際に全く生えない場合には選択枝として「かつら・植毛」(推奨度;B)などでの対応になってしまうこともあります。

          円形脱毛症の予後について

           円形脱毛症の予後について国内外の報告をみると、

          • 単発型~多発型(2,3箇所以内)の少数のもので、「アトピー素因や自己免疫疾患の合併がない場合」は、80%程度で1年以内に毛髪の回復がみられた。(※再発例もあり)
          • 海外の報告で、3~5割の患者で1年以内に毛髪の回復がみられた一方で、15~25%の患者では全頭型・汎発型に移行し、回復率が10%以下であった。
          • 17年間の本症の集計で、脱毛面積24%以下での回復率が7割弱脱毛面積49%以下3割程度が回復したが、より広範囲の脱毛患者回復率は8%であった。

           との報告があり、経過の長い全頭型・汎発型の場合では、積極的な治療を断念し、「かつら等」を勧めるという選択肢も妥当であるとしています。

           

          日常生活上の注意点

           円形脱毛症は軽症ですと、自然に寛解するケースもありますが、難治・多発となると「再発を繰り返す」、「徐々に悪化する」など治療にお時間が掛かってしまうことがあります。ゆったりとした気持ちで、日常生活を送るようにしましょう。

          規則正しい生活習慣

          適切な運動習慣入浴で血行の促進を!

          しっかり睡眠をとり、カラダを休ませましょう。髪の毛をつくる毛母細胞は夜間22時~2時頃まで活発に活動するとされますので、この時間帯に睡眠を取ることが大切です。

          アルコールは程ほどに。タバコは微小循環を悪化させますので避けてください。髪の毛の元となる血流を妨げたり、栄養不足から脱毛の原因となります。

           

          適切なヘアケアを

           頭皮を「下床の骨組織よりやさしく動かすよう」にマッサージするように洗髪して、清潔を保ちます。ストレスによって血行が悪くなると頭皮自体が硬くなり、血流低下の元となります。

           ごしごし擦ると毛が擦り切れて脱毛を助長してしまいますので注意をしましょう。洗髪後はぬれたままとせずに、髪と地肌をやさしく乾かしておくと良いですね。

          ※お勧めのシャンプーは下記を参照されてください。

           

          髪の毛によいとされる食べ物は?

          バランスの良い食事を心掛けましょう。

           豆類、魚、牛乳、卵などの「蛋白源」・玄米、豚肉、緑黄色野菜、海藻、きのこ類など「ビタミン、ミネラル、食物繊維」類をバランス良く摂取する方が、カラダの免疫のバランスが整い、髪の毛を作る原料となり、血行・基礎代謝をアップさせ健康な髪をはぐくみます。1日3食を良くかんで、食べるようにこころがけましょう。

           

          まとめ・円形脱毛症を早く治す方法は?

           当方も20代後半くらいに、後頭部の単発性円形脱毛症になったことがあります。幸いにも症状が軽く、外用・内服で2,3ヶ月程度で自然治癒しました。軽症例では、一般的な治療で寛解する方が多いものの、多発~広範囲型になると、治療に時間が掛かってしまうので「根気よく気長に治療」を行っていく必要がある疾患です。

           発症初期ほど、リンパ球炎症浸潤により休止した毛包幹細胞は正常に保たれているため、治療に反応が良いとされています。もし、円形脱毛症に気がついたらあまり放置せずに早めに近くの皮膚科を受診しましょう。

           

          参考;円形脱毛症診療ガイドラインによる治療の推奨度一覧

           上記で治療推奨度がBとなっているものは、「ステロイド外用・局所注射、局所免疫療法、かつらの使用」4つのみです。推奨度C1となっているものには、「ステロイドパルス療法、グリチロン・セファランチン内服、坑ヒスタミン薬、塩化カルプロニウム外用、ミノキシジル外用、冷凍療法、紫外線治療など」に加えて、発症初期の単発のものに対しては、「治療介入せずに経過観察のみ」を行う事も有効とされています。1年以内に寛解期になり7割強の方で脱毛斑が消失したという報告もあるようです。

           

          コラム;円形脱毛症にお勧めのシャンプー

           やや年齢の高い方では、純粋な円形脱毛症のみでなく、「加齢による壮年性脱毛」がまざっている可能性があります。

           再生医療で有名な矢永博子先生が開発された育毛シャンプーが「ヒロコスカルプシャンプー」です。ヒトオリゴペプチドEGF, FGF)を配合し、頭皮の栄養となるアミノ酸、ビタミンが直接浸透するように調合したそうです。当方も使っておりますが、抜け毛が減っているとの実感があります。欠点は単品で使うとややゴワゴワしてしまうので、普段使って言うシャンプーに「円形脱毛症の回復を促す育毛シャンプー」としてプラスして使うと良さそうです。慣れてくると髪の毛がしっかりした感じが出てきます。

          ※円形脱毛症での有効例もあり、矢永先生も治療に使われているそうです。

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