もくじ
巻き爪は歩くと治る・爪と歩行の関係
巻き爪・陥入爪は痛みを伴い、炎症を起こすと疼痛によって歩くのが困難になってしまいます。一方で、巻き爪の発生機序には「靴などによる外的な圧迫など」の他に、「歩くときの母趾への加圧不足」が爪の巻く原因となることが多いとされます。
実際に、中高年者を対象に「母趾へ圧力をしっかり掛ける歩行トレーニング」を行ったところ、爪弯曲指数が改善し「巻き爪が治った」との報告もあります。(桜井ら;日本臨床スポーツ医学会誌2019年)
「きちんと歩く+踏ん張ること」で母趾へしっかり体重を掛けて歩くことが巻き爪が治る基本
巻き爪は歩くと治るのはなぜ?
手足の先には「爪」があり、手足先端の保護となるほかに、「ものを安定して掴んだり、足趾でしっかり踏ん張って歩く機能」を補助する働きがあります。もしも、爪が無かったら、「手指を使った細かな作業」や「足で踏ん張ってしっかり地面を蹴ること」も困難になってしまうでしょう。
爪の断面には「適度な弯曲」があり、「ものを掴む・地面を足趾で支える力」などとのバランスを取っています。この適度に弯曲した構造は、「外力と拮抗する」ために力学的な強度を保つという重要な役目があるものと考えられています。
さらに、手指や足趾の腹側には、知覚神経が密に分布しており、「ものを触った感触」や「力の掛かり具合」を感知するメカノレセプターがあるおかげで体全体のバランスが保たれています。さらに「爪による支えがあること」が、足趾腹側への微妙な力の掛かり具合を検知しやすくし、バランス良く歩く機能に大切な役割を果たしています。
じつは爪には元来「巻く性質」があると考えられており、
- 怪我で手指先を使えなかったり
- 外反母指で足先に力が入らない
- 加齢に伴い足趾に力が掛けられなくなる
- うき指で足先が挙がってしまう癖
- 片麻痺などで片側の力だけがない
- 寝たきりの高齢者で歩行しない
などで「手指・足趾を支える力」が落ちてしまうと、容易に爪は巻いてきてしまいます。歩き方が悪いと親指以外の足趾の爪も巻いてしまうことさえあります。
すなわち、足趾においては「しっかり足先でバランスを取って踏み込んで歩くこと」が「巻き爪が治るために重要」と考えられてきたのです。巻き爪を歩いて治すには、①正しい歩き方をマスターし足指に均等に力を掛けて歩くこと、②足趾に力をしっかり掛けるためのトレーニングをしていくことが大切ですね。
巻き爪を治すための正しい歩き方は?
正しい歩き方は足底の重心移動に!
寝たきり患者さんの巻き爪の割合は、健常者の1.7~2.1倍になるとの報告もあります。このことは歩行時の「母趾爪への正しい圧負荷」により巻き爪を治す効果があることを示唆しています。「歩行時の適正な母趾への圧負荷」のためには、「正しい歩き方」による適正な重心移動が大切となります。
足を交互に前に出して歩くときに、対側足で地面を蹴って前に踏み出したあとは、
- 対側足趾の踏み込みで、足の接地圧をコントロールしながら、
- 踵より地面へ着地して、足の外側へ体重が移動する。
- 前足部外側へ重心が移動すると伴に
- 踵があがり前足部内側へ荷重が移動していく。
- 母趾を中心とした足趾全体で、地面を蹴って前方向への移動をする。
と云う一連の重心移動が行われます。
踵部は、歩行時に掛かる前進する力を受け止め体重を支え、かつ前足部~足趾部分は地面を蹴って「前進力」を得るという別々の機能を担っています。ヒトは左右の足で交互に、上記の重心移動をして歩行しているのです。
上記の結果は、歩行時における足底圧の推移なのですが「実際に歩くとき」には、「もっと直線的な緩やかなカーブ」のイメージで問題ありません。なぜなら上記は、足全体の骨格構造から「自然に行われる重心移動だから」です。すなわち、踵の次には土踏まずを避けて「足の外側が接地すること」が当然であり、前足部の足骨格(中足骨の長さ)から「小趾側から体重が掛かる」ことが自然で有り、5本の足趾に関しては「親趾の力が一番強いこと」から、母趾を中心とした蹴り出しが行われることが普通の状態となります。
歩行動作の最終段階で「足趾、とくに母趾で地面にしっかり圧を掛けて踏み込む」ことは、とても大切なのですが、①外反母趾、②うき指、③合わない靴、④足趾の筋力不足などがあると、しっかりと母趾の腹側全体で踏み込むことができなくなってしまうことがあります。
さらに、巻き爪の患者さんと正常者との比較試験に於いても、①正常者(コントロール)群では、踵~足趾先・母趾までバランス良く加重が掛かっているのに対して、②巻き爪患者さん群では、前足部の加重が第1中足骨等領域に集中してしまっていることが報告されています(Sano et al. J Foot Ankle Res 2015)。
すなわち、何らかのきっかけで足趾先にしっかり体重を掛けられなくなってしまうと「巻き爪」になりやすく、巻き爪があると痛みなどにより、「母趾への加重」をしっかり掛けられなくなるという悪循環を起こし、ますます「巻き爪」が悪化してしまうのです。
そもそも、人が歩くというのはどういう事なのでしょうか?
ほとんどの哺乳動物は「四つ足歩行」となりますが、霊長類から進化してきた「ヒト」においては、足先~下肢までで「二本足歩行」を行えるように歩行様式が変化してきました。下肢は、ヒトの中でも多くの筋肉があり全身筋肉の60~70%を占めるとも云われています。きちんと歩いて筋肉をつかい、活動できることは健康寿命のためにもとても大切なこととなります。
とくにウォーキングの効用を高めるには、「慣れてきたら歩幅をしっかり取ること」や「やや早めに歩くこと」が推奨されていますが、「巻き爪」が痛くなってしまっては、ちゃんと歩くことも出来なくなってしまいますね。
「きちんと歩ける」ということは、健康に良いだけでなく
- ストレスの発散
- 血液循環の改善
- 知的生産性の向上
- 生活習慣病の予防
- 運動不足による不眠の改善
- 加齢による筋力低下の予防・転倒防止
など様々な効用があるとされています。足趾・とくに母趾でしっかり地面を踏み込んで歩くということは、巻き爪を治すだけでなく、「ヒトが生きていく上」でとても大切なことなのですね。
歩いて巻き爪を治すには正しい姿勢も大切
頭部は背骨のほぼ真上にくるようにし、視線は足元ではなく「やや前方の地面」をみるようにします。背筋はまっすぐにすっと伸ばして、余り強い前傾姿勢や前屈みをさけて重心は「かかと」のやや前に置くのが正しい歩く姿勢です。
ウォーキングの効果を高めるためには、初めはゆっくりと歩き始めますが「徐々にテンポを挙げて、やや歩幅を取って歩く」ほうが、トレーニングとしての運動負荷になります。逆に長距離を歩くには、疲労が貯まりすぎないように歩幅をやや狭めに小股気味にした方が良いともされます。
「踵からの着地を意識しすぎない」
歩くときの注意点としては、極端なつま先歩きも良くないのですが「踵をつくことだけ」に意識を持つことも避けた方がよいでしょう。極端に踵から足をつくことを意識すると、前方へ移動する加重のすべてを踵部で受け止めることで足への負荷が大きくなってしまい、あまりお勧めできません。あくまで、着地するときのイメージとしては「足裏全体を緩やかにカーブした曲面」とイメージしてスムースに地面についていくことで、足~膝の関節・筋肉への負荷・疲労を抑えながら歩くことができます。
接地圧のコントロールのためには、対側足趾での踏み出し+踏ん張りが必要
「足趾全体で地面を掴む」
そして、歩行動作の最後には、前足部に加重をずらしていき、前足部・足趾の全体で地面を掴むようにしっかり支えて、蹴り上げることで「歩行の基本」である前に進む力を得るようにしていきます。この際に、第1足趾の指腹全体に、均一に加圧を掛けるように地面を抑える動作が「巻き爪を根本的に治すこと」に繋がっていくのです。
そして、少なくとも地面をしっかり支えていく健常な足趾の筋力を維持するためには、1日8000歩以上が理想なのですが、最低限の数値目標として5000~6000歩程度歩くことが必要でしょう。
巻き爪を治すには足趾の正しい踏ん張り方が大切!
足趾把持力が足の機能維持・巻き爪の予防に重要となる
昔の日本人は、畳の上での裸足の生活やわらじなどの履物しかなく足趾全体で踏ん張って歩いたり、力仕事をしていました。一方で現代になると「靴を履く生活」がはじまり、足指の腹側全体で踏ん張る機会が減ってしまっています。
正しい足趾の踏ん張り方
足指の正しい踏ん張り方は、5本の足趾をまっすぐに伸ばし指の腹でしっかり地面を掴むようにささえる形が理想です。スポーツで走り出すときやゴルフのスイング中などで地面をしっかりと支える動作時には足趾は必ずこの形を取ります。この際に、趾先が浮き上がってしまったり、丸まってしまわないように注意をし、「足趾の腹側全体で地面にしっかりと圧を掛ける」ようにするのがコツです。
さらには、足関節から第1中足骨の軸と、母趾の長軸がなるべく近いことが理想です。中足骨の軸から、母趾の長軸が大きくずれてしまうと「きちんとした加重」が掛けられなくなってしまうからです。
母趾の足趾把持力≒母趾の爪が巻く力
足の趾先で地面をささえる力を「足趾把持力」と呼びます。足趾把持力は、成人男性で5本指全ての合計が平均13kg程度となり、その内で親趾だけの足趾把持力は10kg程度です。すなわち、足趾把持力の7割以上は「母趾の踏ん張る力」であることが分かります。実は、足の親趾の地面を支える力(足趾把持力)に拮抗するのが、「足の親趾の爪甲」であり、それだけ母趾の爪は他の趾に比べても「厚みがあり、かつ巻く力も強い」こととなります。
足趾をしっかり踏ん張る力(足趾把持力)には、短母趾屈筋、長母趾屈筋などのさまざまな足の筋肉の複合動作が必要です。さらに、これらの筋力を維持することにより正常な「前足部のアーチ」・「足の前後のアーチ」構造を保つこととなり、さらに
- 歩行時のバランス改善
- 効率的な歩行動作
- 転倒の防止
- 体全体の支持性アップ
などにも、寄与すると考えられています。
足趾の荷重時に何が起こっているか?
もしも、足趾先に爪がなかったら「しっかり」と地面を踏み込むことが困難となります。確かに、趾先の骨である「末節骨」の先はやや扁平な棍棒状になっており、趾先の加重を受け止めるのに最適な形をしていますが、爪がない状態だと不安定になってしまいます。
なんらかの怪我などで爪が一次的に欠損してしまうと、「歩いて踏み込む動作」によって趾先皮膚が過剰に上方に盛りあがってしまうことがあります。また、末節骨だけですと足趾の接地面に対する面積比が低く、趾先での地面の踏み込みが甘くなりがちです。
趾先に爪がついていることによって、爪が側爪郭部の皮膚を地面方向へ支え、歩行時に足趾腹側の接地面積を増やします。また、爪先があることで指尖部腹側皮膚(つま先)における地面との接触面を確保して「踏み込むときに力が入る」ようになっているのです。
しっかり踏み込むと爪に何がおこるのか?
1~2才くらいの幼児によくあることなのですが、「まだ爪が薄く柔らかい状態」で、歩いたり走ったりできるようになると、踏み込み動作の繰り返しによって「一時的に爪が平たくなって、反り返って」しまうことがあります。年齢と伴に通常は治ってきますので心配はいりません。
また、大工さんや運送業などで、力仕事をする方の足爪では「常に足先で踏ん張っているため」に、巻き爪となることは少なく、「平爪となる傾向」です。足先でうまく踏ん張れないと膝や腰に負担が掛かってしまうので、自然に上手に踏み込む動作ができているのですね。
歩きながら巻き爪を治す足趾把持力を挙げるには?
まず、足趾のストレッチ・筋力トレーニングを行う前に、できれば「股関節・膝関節・足関節」等のストレッチ・柔軟体操もおこなって置いた方がよいでしょう。
足趾のストレッチ
座った姿勢で片方の足を対側の膝の上に載せて、足を組みます。足趾の変形には「外反母趾、内反小趾、うき指、かぎ爪変形」などがあります。これらの関節変形はしっかり足趾を踏み込んでいくためには障害となってしまいますので、足趾1本1本の関節をゆっくり伸ばし、指を軽く引いたりしながら関節の動きに問題ないかストレッチしながら確認していきます。さらに足趾全体を足関節も含めて、「足背部を伸ばす底屈・足裏側を伸ばす背屈」をゆっくり交互に10回程度繰り返し行います。
つま先立ちストレッチ
まず立位になり、そのあとに両踵を挙げて「つま先立ち」を行います。これをゆっくり10数回程度繰り返します。余裕のある方では、膝関節周囲の筋力をつける「スクワット運動」も同時に行うと下半身の筋力アップに効果的です。
タオル寄せ運動
床に腰をおろして、膝を曲げて足を床につきます。足元にタオルを広げておいて「足趾全体」でタオルを手前にたぐり寄せる運動を繰り返します。別名「タオルギャザー」とも呼ばれ、一見地味な運動ですが足趾把持力アップに効果があるとされています。
足趾の踏ん張り運動
立位あるいは椅子に座って、床についた足趾で床を押します。足先が丸まらないように気をつけて、「足趾の腹側全体」で均等に床をおさえるようにします。爪は床と並行になるイメージで、しっかりと爪に圧力が掛かると、血液が圧排されて爪甲がやや色が白くなります。指の腹全体をつくので、末節部の関節は「ほぼ真っ直ぐ~軽度背屈」するくらいの力加減がよいでしょう。
歩いて巻き爪を治すための靴選びと履き方
巻き爪でトラブルのあるときには、小さめの靴やきつめの靴は避けることが基本です。あまりに患部が腫れているときには、足の甲のみを支えるホーキンスタイプのサンダル履きがよいでしょう。
靴の形状としては、足先の形に合った余裕のあるスニーカータイプの紐靴がお勧めです。靴を履くときには、紐をまず緩めてから、「足先を挙げて踵を合わせ」ます。次に紐をしばって「甲の支え」をきちんと作るようにしましょう。「靴は甲で履く」という言葉があるように甲部分の支えがしっかりとしていることが大切です。その上で、足先は5本指が「靴の中でゆったりと伸ばせること」が出来て、かつ靴先に1cm程度の余裕があることが理想です。
足先の形や長さ・幅には個人差があるため、靴屋さんでアドバイスを受けるか、専門店では「足のサイズ・大きさ」などを3次元測定する器械を設置してあるところもあるので利用してもよいでしょう。
よく靴屋さんで「先に余裕がありますね」と、確認されたことはありませんか?良心的な靴屋さんでは「この1cmの余裕を確認」しているのです。とは云っても、足のサイズには足先の形だけではなく、全体の足幅・踵部分が狭め・足先の幅が大きめ・甲が高いなど個人差がさまざまです。足先の形状に余裕のある靴を選んで、もし幅が緩くなってしまう場合には、中敷きをいれて調整してもよいでしょう。
巻き爪で痛みがあり歩くのが困難なときには、「パンプス・ハイヒール・ローファー・甲がゴムバンドの靴など」の足趾の余裕をコントロールできない靴は避けた方がよいです。足先にトラブルがあり加重しにくいときには、土踏まずサポートパッドや前足部サポートパッドなども市販されています。巻き爪で歩くときには、「炎症の起こりやすい母趾が圧迫されず、かつしっかり地面を踏みしめられる靴」を選びましょう。
巻き爪を放置しておくデメリット
巻き爪は自然治癒する?
軽度の巻き爪傾向のみならば、上記の歩き方の工夫や靴の履き方などで改善する可能性があります。さらに、少し痛い程度の巻き爪であれば、「爪縁部の持ちあげとコットンパッキング法」にて改善をはかることも可能かもしれません。
コットンを痛みのある爪縁部の隙間に詰めておくことは、歩くときに地面を押さえる力が「コットンを介して爪の巻きを改善する力」に変換されることとなり、巻き爪でお困りの方にお勧めの方法となります。
一方で、「巻き具合や喰い込みの強い巻き爪」を放置しておくと、なかなか自然治癒はしません。逆に痛みのある足をかばって歩くことで、膝や股関節が痛くなってしまったり、痛い方の下肢をかばうことで反対側の足も痛くなってしまうことさえあります。巻き爪を長く放置しておくと、次第に大きな肉芽腫を形成したり、足趾全体も炎症により腫れ上がってしまうことさえあります。歩き方や靴の履き方を改善しても、「痛みが改善しない巻き爪」は早めに専門の病院をさがして受診した方が良いでしょう。
巻き爪は歩くと治るをスライド形式の動画にしました
まとめ
当院には、巻き爪でお困りの患者さんが多く訪れます。爪の診察では、なるべく「健常側の痛みのない爪や足」の状態も診させていただいております。良い側の足の状態をみることで、患部にどのような問題があるのか?どのくらいの腫れがあるのか?などが判断しやすくなるからです。
巻き爪の方では、爪自体の異常だけでなく「何らかの足のトラブル・歩き方」が元で「爪の巻き」が生じている場合も多く見受けられます。当院で採用している「爪挙上法+コットンパッキング」および「SH法(そがわ式)」を中心とした矯正ケアを行わせて頂くと、ほとんどの方の巻き爪を改善させることができます。
巻き爪はしっかりと足で地面を踏みしめて予防しましょう。
一方で、問題点としては「しっかりとフラットに形状が改善した巻き爪」も、何もしないでいると半年~1年程度で、再度巻いてしまうことが2~3割程度の方でいらっしゃることです。歩き方の指導や靴の履き方、ストレッチなどが巻き爪の再発予防につながればと、常日頃考えながら治療に当たっております。