掌蹠膿疱症とは?

 掌蹠膿疱症palmoplanter pustulosis)とは、手のひら(手掌)と足の裏(足蹠)に左右対称にできる無菌性膿疱が、寛解と憎悪を周期的に繰り返す「難治性の慢性皮膚疾患」とされます。手のひらの事を漢字で「掌」と書き、「蹠;せき」とは余り普段使わない漢字ですが「足の裏」という意味です。両者を合わせて、手のひら+足裏のことを「掌蹠;しょうせき」と云います。掌蹠にできる無菌性膿疱(むきんせいのうほう)を繰り返す病気なので、「掌蹠膿疱症」と呼ばれます。

 好発年齢3050歳の中年で、40代にピークがあります。芸能人では、タレントの奈美悦子さんが「掌蹠膿疱症」に掛かったことをTVなどで打ち明けているのが有名です。男女差では、やや女性に多い傾向(男:女=11.5)です。病巣感染・金属アレルギー・喫煙が関与している例があり、喫煙継続はやってはいけないことの代表です。

 治療ステロイド外用・活性型ビタミンD3製剤外用の他、紫外線療法・禁煙などが行われます。今のところ、「尋常性乾癬」と伴に、「皮膚科特定疾患」となっておりますが、難病指定疾患ではありません。

 比較的稀な疾患で、日本における有病率は0.12%とされ、健康保険請求データベースより全国で約13.5万人の患者さんがいると推測されます。

掌蹠膿疱症の歴史

 掌蹠膿疱症についての報告は、1901年のAudryに始まり、その後、乾癬もしくは膿疱性乾癬との関連が議論されました。1934年にAndrew病巣感染との関連を報告し、のちに1954年Lever掌蹠膿疱症palmoplanter pustulosisPPP)という病名を教科書に記載したことに由来します。

 現在、海外では「膿疱性乾癬の限局型」という説が有力で、「乾癬」と同一疾患と考えられています。日本国内に於いては、掌蹠膿疱症という病名が定着し、乾癬とは別の「独立疾患である」という考えが一般的となっています。

 日本人に多い特有の病気であるという考え方もあり、世界的には絶対的な症例数が少ないために、未だに「治療ガイドライン」などの統一された治療指針がありません

掌蹠膿疱症の症状・発生機序

 手の平の中央部分~母指球・小指球(親指・小指の根元の膨らみ)に掛けて、足では土踏まず~足内側面(足弓部)・踵、足縁に掛けて、直径15mm程度の赤み・そう痒を伴う紅斑、無菌性の水疱・小膿疱が出現します。

 次に経過と伴に内容が混濁し痂皮化(カサブタ化)、カサツキが残り「割と境界のはっきりとした角化した皮膚病変」を形成します。症状としては、痒みは軽度のことが多くなります。

 通常皮疹は「手のひら・土踏まず部」におさまっていることが多いのですが、時として指先、爪周囲(爪甲下)・下腿・体・頭などに紅斑・鱗屑などの乾癬様の皮疹(=掌蹠外皮疹)が出現します。爪甲の変形・混濁も伴うことがあります。

 

 無菌性膿疱が形成される機序としては、近年では汗腺(かんせん=汗の腺組織)および汗管(汗を皮膚表面に出す管)が皮疹発症に係わっているという説が有力です。汗腺~汗管部分様々な炎症を起こす「サイトカイン」が集まって、まず初めに水疱形成を起こします。

 つぎに表皮内に無菌性の単胞性膿疱(下図;右下)を形成して、軽度の真皮への「好中球などの炎症細胞浸潤」も来します。サイトカインの種類では、インターロイキンIL-17、IL-23などが深く関与していることが近年明らかになってきました。病理検査では、水疱のまわりに海綿状状態を呈することがあります。

 近年、タバコに含有される「ニコチン」によって、汗の腺組織に発現する「ニコチン性アセチルコリン受容体」が活性化することによって、炎症反応を増強することが指摘されています。やはり、ストレス予防・禁煙が悪化予防には大切です。

掌蹠膿疱症の合併症・経過

 爪の点状陥凹・混濁や肥厚が高頻度にみとめられ、膿疱は2~4週の間隔で繰り返し出現し慢性の経過をたどります。1030%で骨や関節症状掌蹠膿疱性骨関節炎pustulotic arthro-osteitisPAO))を合併し、

  1. 胸鎖関節痛(胸痛に似た症状で多くのPAOに合併)
  2. 椎骨の痛み34%)
  3. 仙腸関節痛13%)
  4. 手指の関節32%)

     に痛み・圧痛・腫張が出てくる場合があります。症状が強い場合には整形外科にてレントゲン検査・CT等を行う必要も生じます。

     これらの病変も無菌性であり、共通の免疫的な機序により生じています。骨関節病変は治療を何も行わないと進行性に症状が進んでいきます。

     

     骨シンチグラフィPAO合併患者さんに行うと90%以上の患者さん「胸鎖関節や胸骨柄結合部での取り込み」がみられます。これらはまるで「ウシの角」の様にみえるため「bull-horn」と呼ばれ、外見上は「イカリ肩」状となります。その他では、甲状腺疾患や糖尿病も伴うことがあります。

     皮膚疾患に特徴的な骨・関節症状を伴う疾患群SAPHO症候群synovitis, acne, pustulosis, hyperostosis and osteitis syndorome)と呼び、国内では掌蹠膿疱症の頻度が多くなります。SAPHO症候群と掌蹠膿疱症との違いは、SAPHO症候群の方が「より大きな疾患概念」であり、その中のひとつとして挙げられるのが、「掌蹠膿疱症という疾患」となります。

    掌蹠膿疱症の原因

     はっきりとした発症原因は分かっていませんが、

    • 病巣感染(扁桃腺炎・虫歯・歯周炎・歯槽膿漏、副鼻腔炎、中耳炎、胆のう炎など)
    • 喫煙歴120本以上の長期喫煙者)
    • 金属アレルギー(ニッケル、パラジウム、インジウム等)

    が関与して悪化する例があることが分かっています。

     120本以上の20年以上の長期喫煙者が多いとされます。扁桃腺炎などの病巣感染が見られる例では、扁桃摘出により症状軽快を認めることがあります。逆に扁桃腺をマッサージすると悪化する例もあります。

    マルホ・掌蹠膿疱症ってどんな病気より引用

     基本的には、患者さんの体の中の病巣感染・金属アレルギーなどを誘因として発症する病気であり、他人へ感染したりすることはありません。風邪や咽頭炎を起こしたときにも、症状の悪化がないか注意深くみていく必要があります。

    掌蹠膿疱症の検査・診断

     臨床的な皮膚症状所見から診断されることが多くなります。血液検査では、白血球・CRP・赤沈・ASO・ASKの上昇などがみられることがあり「う歯・扁桃腺炎」などの病巣感染の発見につながります。

     口腔内病巣や副鼻腔・咽頭炎などの合併が悪化要因となるので、既往歴や問診にてチェックを行います。糖尿病や甲状腺疾患を伴うことがあり、喉の渇きや易疲労性・動悸などの確認も行います。

    お知らせ
    ※血液検査をご希望の方は、当院でも対応可能です(平日午後14時半~17時まで受付)。

     

    問診で聞くべき内容

    • 喫煙歴80%の患者さんに喫煙歴+
    • 金属アレルギーの有無
    • 前胸部の関節症状、痛みの有無(心疾患との鑑別)
    • 病巣感染の原因となる虫歯、歯周病、扁桃腺炎の確認
    • のどの渇き、易疲労性、動悸の有無など

     

    掌蹠膿疱症で行う検査

    真菌・細菌培養検査

     通常は、膿疱形成部分の白鮮菌検査や細菌培養検査は「陰性」であり、水虫やばい菌感染の合併がないことを確認します。菌が検出されないために「無菌性膿疱」と呼ばれています。水疱周囲の、環状の皮剝け(落屑)を伴わないことからも、足白癬(みずむし)・汗疱性湿疹との鑑別が可能です。

     当院では、通常の糸状菌検査(顕微鏡検査)のみでなく、真菌培養検査にも対応しております。患部の一般細菌培養は、検体を採取したあとに外注の検査となっております。

    ダーモスコピー

     ダーモスコピーで膿疱部分を観察すると、水疱・膿疱と伴に水疱中央に「魚の目の芯の様に点状膿疱」が見られます(水疱内膿疱pustulo-vesicle)。皮疹の経過としては、まずは、

    1. 紅斑から小水疱形成
    2. 水疱の拡大
    3. 水疱中央に小黄点水疱内膿疱)を形成した後に、
    4. 無菌性膿疱

     となります。水疱内膿疱は、汗疱・足白鮮・膿疱性乾癬ではみられない掌蹠膿疱症に特徴的な所見となりますので、鑑別に有用です。

    掌蹠膿疱症における皮疹の形態変化


     
    ※掌蹠膿疱症の診断補助として、「ダーモスコピー」を行わせて頂く場合があります。

    パッチテスト

     口腔内の歯科金属の種類を確認し「金属アレルギーのパッチテスト」を行う事で、「ニッケル・パラジウム」などの感作が見つかることがあります。

     ご来院時に、歯科金属として使われている金属の種類を「歯科の先生」にご確認してきていただけると、当院でパッチテストのご予約を入れさせていただきます。パッチテストは診察終了後に行っており、2日後に再診していただき結果の確認が必要となります。

     パッチテストは、10種類程度までの検査をお受けしております。通常、利き手の反対の上腕内側部分でテストを行っております。パッチテスターを貼っているあいだは、過度の運動を控えます。

     

    レントゲン・骨シンチ等

     レントゲン検査・骨シンチグラフィ・CTスキャン等にて、掌蹠膿疱性骨関節炎の合併を確認します。胸肋鎖骨間骨化症・仙腸関節・椎骨・指骨のMP関節炎・PIP関節炎の有無などを確認します。

     骨シンチでは90%以上の患者さんにuptake増加(放射線同位元素の取り込み)がみらます。オルソパントモグラフィ(歯科パノラマ撮影)により歯根感染、歯槽骨感染のチェックをすることも大切です。

    ※レントゲン、CT、骨シンチは大学病院へのご紹介となります。

    歯科検診・耳鼻科受診による病巣感染チェック

     口腔内や耳鼻科領域での、病巣感染の検索を行って、「う歯・歯周炎、歯尖感染、扁桃腺炎、副鼻腔炎、上咽頭炎」などの有無のチェックを行っていきます。歯科では特に、根尖部に膿瘍を形成する「根尖病巣」・「歯槽骨まで及ぶ炎症」および中等度以上の「歯肉炎」の検索を行います。

     扁桃腺の病巣感染の有無を確認するために、扁桃腺を刺激する「扁桃誘発試験」は参考項目とされますが、かえって皮疹の悪化をきたすことがあります。

     扁桃腺炎、歯尖感染等は、掌蹠膿疱症の多くでは「無症状のこと」があり、歯科治療や扁桃摘出を行うかどうかは、最終的に大学病院等の「乾癬・掌蹠膿疱症」の専門外来の医師判断となることが多くなります。

    ※まずは、掛かりつけの「歯科」・お近くの「耳鼻科・内科」などへ受診して異常がないかご相談してみましょう。

    掌蹠膿疱症の鑑別疾患

     臨床症状から診断されることが多いのですが、下記の疾患との鑑別も必要となります。

    • 足白癬
      好発部位は趾間部・足底全体で、糸状菌の顕微鏡検査により鑑別します。
    • 汗疱性湿疹
      手にできる頻度が高く、小水疱はたびたび癒合しますが膿疱は形成しません
    • 急性汎発性膿疱性細菌症
      中毒疹を呈する重症の薬疹であり、高熱と全身の発疹を伴います。
    • 膿疱性乾癬
      指定難病であり通常の尋常性乾癬とは区別して扱します。全身に汎発性の皮疹を呈しますが、膿疱性乾癬の限局型と掌蹠膿疱症との鑑別を必要とします。
    • 接触性皮膚炎
      通常の外的刺激などでも、手掌や土踏まず部分に皮膚炎を起こすことがあり鑑別を要します。
    • 好酸球性膿疱性毛包炎
      主に顔の毛包に「そう痒を呈する膿疱」が繰り返す疾患です。嚢胞内には好酸球が多いことが特徴でインドメタシン内服が有効とされています。

      掌蹠膿疱症の治療薬・治し方は?

      外用療法

       とくに、憎悪因子がみつからない場合には、「皮疹に関して物理的な刺激を避ける」ことに加え、第1選択として「ステロイド外用剤」・「活性型ビタミンD3外用薬」が基本的な治療として行われます。ただし、皮疹の状態は段階的に変化していくため、症状に応じてステロイド外用のランクを調整したり、適宜保湿・保護を工夫していく必要です。また、膿疱が悪化したときは、ステロイド外用剤に亜鉛華軟膏を重ね塗る「重層療法」が行われることがあります。

      処方例)

      • アンテベート軟膏orマイザー軟膏単純塗布、もしくは症状に応じて「亜鉛華軟膏」を重層塗布する。
      • 皮疹が落ち着いてきたときは、リンデロンV軟膏等へランクダウンを行う。
      • オキサロール軟膏、もしくはボンアルファ軟膏単純塗布を併用する。
      • 適宜、手荒れの治療に準じた保湿剤を併用します。
      ポイント
       外用療法はあくまで、皮膚症状に対してのみに対する対症療法です。骨関節病変・掌蹠外皮膚病変を伴うことがあり、全身的な免疫失調による病態が存在するとされています。

      悪化原因の除去

       憎悪因子が確認される場合には、「悪化因子の除去対策」が必要となります。

      禁煙を行う

       喫煙の習慣があれば「禁煙」が有効です。掌蹠膿疱症の患者さんには喫煙者が多いことが分かっています。禁煙自体の治療の有効性は低いとの報告もありますが、「喫煙」を続けることにより「治療効果が落ちる」とされます。

       喫煙の継続は、治療効果を挙げていくためには「やってはいけないこと」となります。まわりの喫煙者から出される煙を吸ってしまう「受動喫煙」でもニコチン濃度があがりますので、周囲の方の協力も必要となります。

      大森医師会地区内の禁煙外来へのリンク

      ※禁煙が難しい場合は、専門病院の禁煙外来への受診をお勧め致します。当院2Fにある「せき山王クリニック」さんでも禁煙外来を行っております。

      病巣感染の治療

        扁桃腺などに病巣感染がある場合には「扁桃腺摘出」が奏効(有効率60-83%)する場合があります。ただし、症状が改善するまでには半年~1年近く掛かることもあり、気長に治療効果を待つことも必要となります。

       統計的には金属アレルギー除去よりも、「病巣感染除去の治療有効率が有意に高い」とされてきており、扁桃摘出・上咽頭感染除去・歯根感染治療などが優先されるべきとする報告があります。

       また、掌蹠膿疱症風邪の悪化・扁桃腺炎にて悪化するとされますので、日頃から「うがい」を良く行って「かぜ」などひかないようにこころがけましょう。

      病巣感染とは?
       1911年英国の医師ハンターが、「感染した歯から排出される菌が全身に血液を介して2次的な病気を引き起こす」という概念を報告しました(口腔病巣感染)。

       さらに、口腔内の奥に位置する扁桃腺が細菌感染を起こすことによって、関節リュウマチ・心臓病などを生じさせる「扁桃病巣感染」という概念がアメリカの医師ビリングスによって報告されました。病巣感染の原因部位は、①扁桃腺60%、②口腔病巣25%とされます。

      《扁桃炎が原因(原病巣)となり様々な全身の病気(二次疾患)が生じる可能性がある。なかでもIgA腎症、掌蹠膿疱症、胸肋鎖骨過形成症は扁桃炎との関連が強く疑われている疾患である。》
      ※病巣疾患研究会ホームページより引用

       耳鼻科、内科などの先生の集まりです。掌蹠膿疱症・IgA腎症・胸肋鎖骨過形成症などが病巣感染を原因とする疾患の代表選手とされています。

       

      金属アレルギーの対策

       歯科金属アレルギーが疑われ「パッチテストが陽性」の場合は、歯科にて補綴物をセラミックなどに交換していきます。ただし、歯根感染病巣などが疑われる場合には、「根尖治療」を優先的に行っておく必要があります。

       近年では、「金属アレルギー除去の有効性は意外と低い」とされるものの、歯科金属除去による症状改善例の報告もあります。また、ニッケル陽性の患者さんに対して、Ni(ニッケル)含有食品制限(コーヒー・チョコ等)が有効であったという症例報告も散見されます。

      ※この時点で、掛かりつけなどの歯科へ受診して口腔内の状態がどのような状態となっているか、ご相談していくことをお勧め致します。

      ポイント
       一般皮膚科外来においては、上記の悪化因子の除去を考え得る範囲で行いつつ、さらに下記の治療を対症療法的に組み合わせていくことが多くなります。

      紫外線療法

       外用療法で軽快しない場合には、つぎの通常範囲内の治療として「紫外線療法が選択」されます。以前はよく「PUVA療法=感光物質塗布+UVA照射」が行われていました。近年では、紫外線UVB波長の308~312nm(ナノメータ-)領域の治療器機がさまざまな疾患に使われており、リンパ球の過剰な働きを抑えていくことで治療効果を発揮します。

       掌蹠膿疱症のおいても、ナローバンドUVBやエキシマライト療法が保険適応となっており、有効性が高い治療法となっております。紫外線療法は続けていく事によって徐々に効果を発揮して、とくに「皮膚症状の軽減」が期待できます。扁桃腺摘出術後も皮膚症状はしばらく残ってしまいますので、アフターケアとして行っていくことも可能です。

       治療に当たっては、紫外線治療のリスクなどについて「書面での同意書」をいただいております。通常、週に1,2回の治療を「15~20回ほど行って治療効果を判定」します。当院では、はじめは少ない照射量から開始して、「皮膚の発赤および治療効果」をみながら徐々に照射量を調整していく方法で「紫外線治療」を行っております。

       副作用としては、日焼け同様の皮膚の発赤、水疱形成、色素沈着などに加えて、繰り返し照射を行った場合にはシミ・しわなどの光老化が起こることも長期的な問題点です。治療回数には限度がありますが、「1000回程度の照射」までは安全であると考えられております。

      ※当院では、ナローバンドuvbおよびエキシマライト療法を10年以上行ってきております。外用療法のみで治療効果が出ない場合は紫外線療法の適応となりますのでご相談ください。

      内服薬

      ビオチン内服療法

       ビオチンとは、100年ほど前に卵白による皮膚障害予防因子として発見された「ビタミンH」のことを指します。ビオチンは、ブドウ糖・アミノ酸・脂質代謝などに係わっており、主として腸内細菌叢で自然に合成されるため、「一般的な食餌性のビオチン欠乏」の自然発生はないとされます。食品中にも含まれているのですが、そのままでは腸管での吸収が悪いことが問題となります。

       掌蹠膿疱症の患者さんのビオチン量を測定すると正常人の半分以下であったと、「掌蹠膿疱症の名医」とされる前橋賢先生から報告されており、ビオチンに加えてミヤBM (酪酸菌)、ビタミンC(アスコルビン酸)と伴に掌蹠膿疱症の患者さんに処方すると良いとしています。ビオチン単独で投与するよりもミヤBM・ビタミンCを一緒に投与することで、血清ビオチン濃度が有意に上昇するようです。

      ※掌蹠膿疱症はなおる病気です;前橋賢より引用

       

       本治療の欠点は、東北地方の一内科医により提案された方法であり、臨床的な追試報告が少ないことです。但し、ビオチン自体は安全性の高いビタミン剤となりますので、併用療法の1つとして行うことはよいと思います。

       

      処方例)
      ビオチン散0.2% 1.5+ミヤBM散 3g+ハイシー顆粒25% 6g/分3

      ご注意!
      ※通常の保険適応内のビオチン量は1日1g(2mg)までですが、適宜増減が認められていますので、当院では1日1.5g(3mg)で処方を行っております。ビオチン療法の原法では、1日4.5~6g(9~12mg)とするようです。ミヤBM散のかわりに、市販のミヤリサンでもよいそうです。

      ビオチン内服については、水溶性ビタミンのため「過剰摂取による弊害はない」とされます。食事摂取基準によると1日摂取基準目安は50μg(=0.05mg)となっております。

      生卵の白身摂取(生クリームケーキなども!)・睡眠薬や精神安定剤・喫煙・アルコール大量摂取などでビオチン吸収が抑制されてしまうために、ビオチン療法との併用は控えましょう。

      ◆数少ない掌蹠膿疱症に対する「ビオチン療法の追試」としては下記の2つの論文があります。

      • ビオチンを長期投与した掌蹠膿疱症30例の臨床経過 特にPPPASIによる検討;橋本 喜夫(旭川厚生病院 皮膚科)他・旭川厚生病院医誌231 Page3-9
      • ビオチン投与を試みた掌蹠膿疱症性骨関節炎の1例;西原 修美(国立病院岡山医療センター 皮膚科)他・皮膚科の臨床457 Page855-857

      ビオチン大量摂取療法には「保険適応」がありません。必要な場合は市販のサプリなどをお求めください。また、多量のビオチン摂取により甲状腺ホルモン測定値が高値に、TSH測定値が低値を示すなど、いくつかの検査数値の干渉を生じますので各機関より注意喚起がなされております。

       

      抗菌剤内服薬

       病巣感染が疑われる場合は、短期間限定で「抗菌剤内服(マクロライド系・テトラサイクリン系等)」も試みられ、骨関節症状にたいしても奏効することがあります。マクロライド系抗菌薬の少量長期投与には、抗菌作用のほかに「好中球の浸潤抑制などの抗炎症作用」があることが判明してきました。文献的には、80%の症例で膿疱・紅斑の消失もしくは軽快があったとされています。

      処方例)クラリス錠(200mg)2T/分2

      その他には、胸の痛みには、NSAIDsなどの消炎鎮痛剤が用いられることがあります。

       

      ※ビオチン療法を行っている間は、抗菌剤内服を行わない方が望ましいとされますが、病巣感染との関連を判定するために短期間限定で抗菌剤を内服することは行っても良いと考えます。

      漢方薬

       国内文献での掌蹠膿疱症に対する漢方薬治療の有効例の報告があります。使用頻度が多いものでは、膿疱に対しては主として十味敗毒湯が使用され、局所の熱に対して黄連解毒湯や温清飲を用いた報告があります。駆お血剤である桃核承気湯・桂枝茯苓丸・桂枝茯苓丸加よく苡仁の併用も良く行われます。

       皮膚症状所見から用いられるものには、消風散と越婢加朮湯(水疱形成改善)・荊芥連翹湯(抗炎症・抗化膿)などがあります。化膿傾向を改善する処方としては、小柴胡湯加桔梗石膏・排膿散及湯が挙げられます。

       患者さんの体力が低下した患者で「炎症反応の少ない場合」は四物湯や当帰飲子・麻黄附子細辛湯・桂枝加黄耆湯・柴胡桂枝湯が用いられます。また、肥満傾向や高脂血症の既往がある場合大柴胡湯や防風通聖散・柴苓湯なども試され、咳症状に対しては麦門冬湯も用いられます。

      コラム
       ※漢方薬が有効な理由は、①皮膚病変に直接効果を示す場合、②原因となっている病巣感染部に効果を示す場合、が考えられます。小柴胡湯加桔梗石膏は元々、咽頭炎などに使われる漢方となりますし、けい芥連翹湯も慢性副鼻腔炎によく使われる漢方処方となります。

       

      大学病院等への紹介の必要性

       「上記までの対症療法的な治療」はクリニックで可能なのですが、①症状の改善が見られない・②頻繁に新たな症状が繰り返し再燃する場合には、

      • 骨シンチ、レントゲン、CTスキャンなどの精査
      • 歯科検診、耳鼻科受診などの複数診療科での連携的な原因除去治療(扁桃摘出術の可否判断)
      • 皮膚生検による確定診断
      • レチノイド内服、生物学的製剤の適応判断
      • 喉の渇き、疲れやすい等の症状に対しての内科的精査

      などの目的で、大学病院等の専門施設へのご紹介が必要となります。

       

      ◆当院からご紹介できる大学病院

      東邦大学大森病院皮膚科
      乾癬専門外来 橋本由紀講師 
      (専門領域;尋常性乾癬・掌蹠膿疱症)

       大学病院へのご紹介の意義は、上記の如く①掌蹠膿疱症の確定診断、②骨関節病変などの合併症のチェック、③耳鼻科・歯科などとの連携による病巣感染の治療が主な目的となります。その上で、難治性の病態が残る場合などは、「レチノイド・免疫抑制剤・生物学的製剤など」が使われていきます。

       

      扁桃病巣感染の治療(耳鼻科との連携)

       近年、扁桃病巣感染という概念が広まってきており、「扁桃腺が原病巣となり、離れた臓器に反応性の障害を引き起こす」とされています。その病態は、感染症だけではなく「自己免疫的な機序」があることが解明されてきました。

       現在、耳鼻科医はもとより、皮膚科医のあいだでも掌蹠膿疱症は扁桃腺など原因とする感染病巣疾患であるという認識です。扁桃腺摘出手術の効果がでてくるためには、1年近くの時間が掛かりますが「その効果は永続的」であり、4,5年以上経過しても憎悪例はほとんどないそうです。

       

      掌蹠膿疱症に対する扁桃腺摘出の適応基準
      1. 必須項目

        1. 掌蹠膿疱症の確定診断がなされている
        2. 掌蹠膿疱症の重症度が中等度以上

        参考項目

        1. 病歴として扁桃腺炎悪化・上気道炎時に皮疹
        2. 扁桃局所所見が埋没型で陰窩部内に膿栓貯留
        3. 扁桃誘発試験が陽性
        4. 扁桃打ち消し試験で皮疹が改善

      ※扁桃病巣疾患の臨床と病態(耳鼻科展望2007;原渕ら、より引用)

      内服薬

       急な症状悪化時や重症例では、ビタミンA(レチノイド=エトレチナート内服)が行われ、膿疱形成に著効するとされています。ただし、催奇形性や肝機能上昇・知覚過敏などの副作用に注意を要します。

      シクロスポリン内服は、病巣感染が治癒したあと、もしくは除外された場合に考慮しますが、腎障害や易感染性に注意を必要とします。

       以上の治療に反応の悪い場合や掌蹠膿疱性骨関節炎を伴う場合には、コルヒチン、サラゾピリン内服、メトトレキサート内服などが試されることもありますが、適応は限られており専門病院での判断となります。

      生物的製剤注射

       201812月に、尋常性乾癬に適応であった新薬(生物学的製剤)であるトレムフィア(グセルクマブ)が掌蹠膿疱症に対しても初めて保険適応となりました。トレムフィアは、ヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体で、悪化因子の除去、外用療法(ステロイド外用+活性型ビタミンD3外用)、紫外線治療などを含めた通常範囲内の既存治療を行っても症状の改善が十分に得られない症例に適応を考慮すべきお薬です。

       トレムフィアは、インターロイキン(IL)-23という炎症物質を抑制することによって、つづけて起こるリンパ球による更なる炎症物質(IL-17)などの放出も間接的に抑えていくことができます。IL-23、IL-17を押さえていくことで、「手掌・足蹠の皮疹」を直接抑えていく効果が期待されます。

      ※トレムフィア・ホームページより引用

      【効能効果】

       既存治療で効果不十分な掌蹠膿疱症 

      【使用上の注意】

       中等症から重症の膿疱・小水疱病変を有する掌蹠膿疱症の患者に投与すること。本剤の治療反応は、通常投与開始から24週以内に得られる24週以内に治療反応が得られない場合は、本剤の治療継続を慎重に再考するとなっております。

       既存治療抵抗性の皮疹および関節症状(掌蹠膿疱性骨関節炎)を有し、QOLが高度に障害されている患者が対象であるとしつつも、国内第3相試験の有効性の検討において、骨関節症状に対する明確な有効性を示すに至っていないことを考慮するとあります。

      トレムフィアは生物学的製剤の1種であり、保険適応ではあるものの「高額な注射療法」となります。一般的な外用治療・紫外線療法、悪化原因の除去(禁煙・病巣感染除去・歯科金属アレルギー等)をすべて行った上でも「難治性で改善が見られない場合」の最終選択となる治療法です。なかなか根本的な治療法がない「掌蹠膿疱症治療のひとつの選択肢」としての存在意義があるものと考えられます。

      掌蹠膿疱症の予後・生活上の注意点

       さまざまな報告がありますが、発症後3~7年程度で自然に寛解する例が多くなります。生涯治らない病気ではないのですが、治療にはやや長期間掛かる可能性があり、無症状の病巣感染が疑われる場合や一般的な外用療法に反応がわるい場合は、地域大学病院等の専門外来への紹介を考慮する必要があります。

       根気よく治療を行っていくと、症状の落ち着く期間が長くなり再発時の症状も徐々に軽くなっていき根治に至るとされます。中には10年以上長引く例もあります。風邪や極度の体調不良・アルコール過剰摂取などで皮疹が再び悪化してしまうことがあり、食生活習慣の改善・体調管理・ストレスにも注意を払いましょう。

       バランスのよい食事をこころがければ、掌蹠膿疱症で食べてはいけないものは特にありません。ビオチン療法を報告した医師の著書には「生卵の白身」は避け、卵は加熱して食べたほうが良いとの記述もあります。

       一方で実際には、掌蹠膿疱症の患者さんにお聞きすると、①「コーヒー・チョコレート」の摂取で悪化する(ニッケルアレルギー疑い)、②生卵・生ケーキを食べると皮疹が悪化するので避けている(ビオチン欠乏?)という場合があるようです。個人個人の状態に応じて、食べると明らかに皮疹が悪化するものは避けた方がよいでしょう。

       

      掌蹠膿疱症の発生についての考察

      ★掌蹠膿疱症の発生機序について

       何故、30代以降に発症し、50代に入るまでに寛解することが多いのか?(著者推論)

      1. 若い年代では、治癒力や細菌感染に対する抵抗力が高く咽頭炎・扁桃腺炎などの病巣感染が発生しない
      2. 中年以降になると、年齢と伴に徐々に体力が低下して細菌感染に対する抵抗力が落ちてくるために、様々な病巣感染(口腔内歯科領域、上咽頭、扁桃腺など)が生じる。
      3. ストレス、体調不良などのきっかけ・影響で病巣感染の悪化(感染病巣の成立)がおこる。
      4. 感染病巣で発生した菌が血液を介して全身に回るという機序の他に、推論として「扁桃腺の腺組織の細菌感染巣」に対する「過剰なアレルギー反応・免疫応答」が発生する。
      5. 扁桃腺は、2次リンパ器官(リンパ上皮性器官)であるために、細菌感染に対する副産物・免疫応答物質(サイトカインなど)が「同じ上皮性である手足の皮膚の汗腺」に集まってしまい水疱形成・膿疱形成を発生する。
      6. さらに、免疫応答により生じた炎症物質が増えてしまうと「皮骨発生由来である鎖骨周囲」にも症状が生じる。
      7. 加齢と伴に、「化膿しやすい体質が収まる、もしくは過剰な免疫応答が収束する」ために症状が治まってくる(自然寛解)

       近年、「掌蹠の皮膚」は、扁桃リンパ球と高い親和性を有することが報告されてきております。

      ★掌蹠膿疱症=感染病巣+過敏な免疫応答により成立する病態

       以上より、局所に対してはステロイド外用剤が効果を示し、全身的には免疫抑制剤、生物学的製剤が効果を示すものと考えられます。

       従って、掌蹠膿疱症に対する治療は、

      • 細菌感染病巣である扁桃腺などに対する対策(うがい、扁摘、抗菌剤、漢方薬)
      • 体の免疫(特に腸の機能)を整える対策(ストレス・食生活・体調管理・ビオチン療法など)
      • 金属アレルギー対策として、アレルギー金属を含む食品(=手足の汗の腺が敏感に反応)を避ける
      • 症状の出てくる皮膚に対する局所治療(ステロイド外用+活性型ビタミンD3製剤軟膏)

      以上の治療に集約してくるのではと考えます。

       金属アレルギーに対しての歯科補綴材の除去の優先順位は高くないものの、やはりアレルギーを起こす金属を含む食品の摂取は控えた方がよさそうですね。

       

      まとめ

       掌蹠膿疱症は、喫煙・金属アレルギー・病巣感染などが誘因となり発症する原因不明の疾患です。難治性で経過が長引く一方で、2,3年~10年以内に治ることも分かってします。

       症状が繰り返し出てくる疾患ですが、大多数の方では外用療法・紫外線治療などと伴に、悪化因子の除去などの対症療法を行っていくと自然と治ってきます。治療に対する反応には個人差がありますが、外用療法などで生活に支障がないように症状をコントロールしていきましょう。

       

      ◆参考;掌蹠膿疱症を完治して(治った人の完治ブログ)

       http://www.curable.or.jp/index2.html

      掌蹠膿疱症を治した方のブロクとなります。

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