粉瘤・くり抜き法のデメリット 粉瘤の手術は、通常の標準的な方法ですと「粉瘤の大きさをマーキング」した上で、皮膚のシワ方向を考慮した「紡錘形切開」による摘出を行います。切開線は粉瘤の長径と同じか、少しだけ大きいくらいの事がほとんどです。粉瘤は、「垢や皮脂が入った袋(カプセル)」を破らずに全摘することによって、再発が起こ...
もくじ
粉瘤とは?
粉瘤とは、皮膚科外来で一番よく見ることの多い良性の皮膚腫瘍です。上皮成分が何らかのきっかけで皮膚の中に食い込んで、皮脂・角化物が貯まった表皮で出来た袋(=嚢腫)を形成します。別名で表皮嚢腫とも呼び、英語ではアテローム(もしくはアテローマ)と云うこともあります。
体中の至る所に出来る可能性があり、はじめはクリクリとして”小さなしこり”として気がつくことが多いです。発生部位が皮膚であるため、皮膚とは一体化しており、かつ下床の皮下脂肪とは癒着していないため、可動性があるのが特徴となります。
大きさは1cm程度から通常2,3cm程度になることが多く、臀部などでは稀に10cmくらいに巨大化する場合もあります。中心部分に小さな黒い穴(開口部=へそ)があることが多く、周囲から圧迫すると粥状の内容物がでる場合があり、特有の悪臭がすることが多いです。
基本的に悪性のことは、ごく稀であるために炎症のないものでは経過をみても良いですが、ある程度大きくなったものでは、他の腫瘍との鑑別のためと良性・悪性の判別のために摘出手術を行った方が良いでしょう。
中身がいわゆる”垢”のため、感染を起こし痛みがでる場合が有り、皮下に炎症が広がると感染性アテロームとなり、外科的に切開を要することが多くなります。
★当院の炎症性粉瘤治療の特徴★
痛みや腫張の強い化膿性粉瘤・炎症性アテロームに対して、局所麻酔下の切開・排膿に加えて「当日に粉瘤カプセルの切除・摘出」も同時に行っております。しっかり切開を行うことで良好な術野を確保し、カプセル取り残しによる再発を極力少なくなるように処置をさせていただいております(平日午後および土曜午後の早めのお時間に対応しております)。
※術後、要通院となります。一般外来の混み具合により多少お待ち頂く場合・後日対応となる場合があります。
※午前中は、炎症性粉瘤の切開に対応しておりません。
※小切開のみで、カプセル摘除を行う「くり抜き法」は、奥が盲目的な操作になり「出血リスクが高く、再発もしやすいため」に対応しておりませんので、ご了承ください。
※炎症が軽度の粉瘤では、抗菌剤内服・外用等で経過をみさせていただく場合がありますので、ご了承ください。
※非炎症性粉瘤の予定手術は、夏季(6~9月)のあいだはお受けしておりません。また、今年度の昼の手術枠は年内はうまってしまっておりますので、近隣病院の形成外科にご紹介させていただいております。
粉瘤の原因
粉瘤の原因は、何らかのきっかけにより「毛穴の一部」が皮膚内の嚢腫をつくることです。 別名、毛包嚢腫(表皮のう腫)とも云われ、粉瘤の「袋=カプセル」の構成成分としては、「毛包~毛根部分」の上皮成分と同じ構造が見られるため、主として毛包起源で発生するものと考えられます。
嚢腫をつくる原因としては、
- 外傷などの刺激
- 加齢に伴う皮脂排出の衰えによるもの
- 出来やすい体質
- ウイルス感染によるもの
- にきび跡のつまり
などが考えられています。
粉瘤は通常、皮膚表面のどこにでも出来ることがあります。普通は1~2個の単発の方がほどんとなのですが、稀に後頚部や背部などに多発する「出来やすい体質」のある方が散見されます。とくに「陰嚢部に多発性毛包嚢腫」として多数できる方がいることが有名となります。
ご高齢者では、粉瘤の「へそ部分」も拡大して、酸化されて黒変した皮脂が皮膚表面から半分以上見えてしまっているケースもあります。稀ではありますが、足底部に粉瘤ができる場合もあります。足底部には、「毛包」はないため、ウイルス感染により汗腺組織が嚢腫をつくったものと考えられます。
粉瘤の症状
粉瘤の内容物は、「臭いにおいのする皮脂・垢などの塊」です。粉瘤のカプセル(袋)は、毛包成分とおなじ上皮で出来ているために、放置しておくと「徐々に垢」が増えて、袋の中に貯まってる内容物の量が増していくために、カプセル(粉瘤の袋自体)も引き延ばされて拡大して、徐々に大きくなっていきます。
通常は、1~3cm程度のことが多いのですが、ご高齢者では皮膚のコラーゲン量が少なくなり「伸展性が高くなる」ために、稀ではありますが直径10cm以上の巨大な粉瘤を形成する場合もあります。
元来、良性の皮膚腫瘍であるために、「普通の皮膚科」を受診すると、治療をせずに放置してもよいといわれてしまうことがあります。たしかに、すぐに命に係わる疾患ではないため緊急性はないのですが、放っておくと徐々に大きさを増した結果、中の垢のかたまりに「感染を併発」してしまい、「炎症性粉瘤」となってしまうことがあります。
炎症性粉瘤は皮膚の「薄い部位」では、自然に潰れてしまい(自潰)、感染を起こした内容物が排出されて収まってしまうこともあります。一方で問題となるのは、首のうしろ・背部・腹部など「皮膚の厚さがある部位」では、炎症が酷くなると、「表に排膿されずに、皮下にカプセルが破れてしまって」、広範な皮下膿瘍を形成してしまうケースがあることです。
また、粉瘤は顔面にも良く出来ることがある腫瘍です。顔面は、皮下の浅い部分に血管が走行しており、さらに顔の筋肉を動かす顔面神経も皮膚浅層にある部位です。皮膚外科の専門である「形成外科」での手術が望ましいと云えるでしょう。
粉瘤治療は何科に掛かればよいの?
粉瘤は皮膚疾患としては、非常に症例数が多く「手術を必要」とする病気です。一方、元々は他科で外科系を行っていた先生が「開業ついでに粉瘤もやってしまおう」とか、「皮膚科専門」であまり外科的な研修をしっかり行ったことがない医師が粉瘤手術に手を出してしまっているのが現状です。粉瘤の手術は、皮膚外科の専門である形成外科をきちんと修練した医師を選びましょう。
悪性との見分け方は?鑑別疾患は?
粉瘤は「基本的には良性皮膚疾患」であり、軽く見られる傾向があります。一方で、粉瘤と似た症状の悪性疾患がみられることがあり注意が必要です。
- 悪性線維性組織球腫(MFH;Malignant fibrous histiocytoma)
- 隆起性皮膚線維肉腫(DFSP; dermatofibrosarcoma protuberans)
- 血管肉腫(Angiosarcoma)
- 汗孔癌(Porocarcinoma)
などが代表となります。
悪性の所見として重要なことは、①痛みなどは伴わない、②通常の粉瘤よりも赤みを伴う、③周囲と癒着しているために可動性が少ない、④赤みがある割に触診で硬く触れる、などがあります。これらの悪性腫瘍を疑った場合には、クリニックレベルでは処置をすることは禁忌であり、ただちに「きちんと手術の出来る大学病院等へのご紹介」が必要となります。
良性腫瘍の鑑別疾患としては、「脂腺嚢腫・ガングリオン・脂腺増殖症・神経鞘腫・脂肪腫・耳前瘻孔など」があります。粉瘤をきちんと手術的に摘出する意味は、これらの別疾患との鑑別を行うことと、病理学的にしっかり診断をつけることにあります。
治療・治し方は?
手術療法
長径が1cm以下のまだ大きさの小さい粉瘤では、治療を行わずに経過を見てもかまいません。一方で様子をみているうちに、「大きさが2cm程度」を超えてきた場合には手術を「おすすめ」しております。
基本的には、皮膚の中に「皮脂・垢」などが詰まった袋がある状態ですので、命に関わることは通常ありません。一方で、放置しておいても治らないので「ある程度大きくなって」きた場合には手術が必要となります。
一般的に、「皮膚腫瘍摘出手術」という手術名での処置が行われ、粉瘤の大きさをマーキングしたあとに、「皮膚の皺に沿った紡錘形の切開線」をデザインします。あまり、大きく切開したくはないのですが、「小さく切開しすぎてしまう」と、
- 粉瘤自体を取るのに時間が掛かったり
- 奥の粉瘤を取り残してしまう
- 腫瘍底部からの出血があったときに対応が困難になる
- 皮膚を余分に余らせても縫合時に歪んでしまう
などの問題が発生するため、腫瘍+αのなるべく小さい切開線で摘出する方がバランスも良いようです。
皮膚外科の専門である形成外科の修練をきっちり行った医師であれば、「真皮縫合+皮膚表面の丁寧な縫合」によりキズ跡をきれいに縫っていくことが可能です。
ご注意!
ネットに出てくる「くり抜き法」は一般的な手術法ではなく、当院では「あえて」行っておりません。皮膚外科をしっかり修練した形成外科の立場からすると上記の小さすぎる切開と同様のデメリットがあるからです。
★粉瘤の手術をする意味は?
粉瘤カプセルを手術途中で破くということは、「取り残すリスク(再発リスク)」が出てしまうことであり、避けなければならないことになります。粉瘤のカプセルの極一部でも取り残してしまうことは、必ず将来の再発につながってしまいます。
通常法である「紡錐形切開法」においては、①粉瘤の表面部分は皮膚と一体化しているため「皮膚表面と強固に癒着した部分」を含めて最小限の切開となるように、かつ②皮膚の皺に沿った紡錘形のデザインとしていきます。
粉瘤摘出に当たっては皮膚の切開線から真皮部分で、うまく粉瘤のカプセル部分を見つけ、ぎりぎりで「良く切れるメス・剪刀」で剥離していきます。通常手術では、「粉瘤の袋」を破らずにきちんと全て取り切ることで、再発がないようにします。「粉瘤を途中で破いてしまう=取り残しのリスクが生じる」こととなり、途中で粉瘤のカプセルを人為的に破ってしまう「くり抜き法」は取り残しのリスクが大きい手術法です。せっかく手術をするのに「再発するリスクがある方法」を選択したくありませんよね。
手術を行う主な目的は、「粉瘤を完全に切除し再発をなくすこと」+「取り出した腫瘍が万が一悪性でないことを病理検査で確認する」ことです。なおかつ、通常法である紡錘形切除を如何にきれいに仕上げるかが、皮膚外科の専門である形成外科の腕の見せ所となります。
炎症が軽度起きている場合
粉瘤に「感染を併発している場合」には、すぐに手術を行うことができません。手術を無理に行っても、きれいに縫合することができないからです。イソジン消毒液・抗菌剤外用と伴に、抗生物質内服を行い、まず保存的に感染の鎮静化を図っていきます。
うまく炎症が収まってくれば、上記の通常の手術摘出が適応となります。 軽度の赤みのある粉瘤では、炎症が鎮静化したあとに手術をお勧めしております。一方で、抗菌剤内服・外用治療を行っていても炎症が悪化してくる場合には、下記の治療を行うようにしております。
高度の腫張を伴った炎症性粉瘤では?
元々、粉瘤様のしこりがあった部分が、突然腫れて「赤みや痛み・腫張が強い場合」には、粉瘤の切開・排膿の適応です。粉瘤はよく「一般の皮膚科外来にて様子を見てもよい」と云われてしまうために、炎症が酷くなってから当院を受診する患者さんが多くいらっしゃいます。
通常は、小さく切開して排膿を行ってから炎症の鎮静化を待って「再発した場合」に改めて手術を行う方法が選択されます。小さく切開するデメリットは、うまく炎症が治まる場合もあるのですが、①奥の方に膿瘍を形成してしまい「なかなか治らない」、②再度追加の切開を必要とするケースもある、③粉瘤のカプセルが取れていないので再度の手術を必要とする、などの問題があります。
当院における「炎症性粉瘤治療の特徴」としては、「粉瘤をしっかり切開し排膿を行うと伴に、粉瘤カプセルの同時切除手術」に対応していることです。
しっかり切開を行うことにより、
- 確実に炎症を鎮静化できること
- 視野が良いために、出血のコントロールがしやすく安全であること
- 術後の処置、洗浄が確実に行えるため治りが早いこと
- 切開と伴に、粉瘤のカプセル(袋)も摘出できること
- 結果として一度の手術で再発率がかなり低いこと(自験例で8-9割以上の方が再発なし)
などがメリットとなります。
もちろん、炎症が軽度な場合には最小限の切開となりますが、周囲に膿瘍を形成している症例では、「膿瘍部分」も十分に炎症を抑えていく必要が生じるため、切開線が大きくなります。
★ポイント★
当院では本手術法を「痛みや赤みを伴う腫張の強い炎症性粉瘤」の方に対して、通常外来の合間をみて適宜行っております。なお、混雑時には「午後の処置にまわっていただく」など多少お待ち頂く場合もありますので、ご了承ください。
粉瘤の治療に使う薬
粉瘤自体をお薬で治すことはできませんが、併発する感染症状に対して抗菌剤内服や化膿止めの塗り薬が出されることがあります。また、手術に際しては、さらに鎮痛剤が追加で処方されます。
- 抗生剤内服;フロモックス、クラビット、セフゾンなど
- 鎮痛剤;カロナール、ロキソニン、ボルタレンなど
- 抗菌剤外用;アクアチム軟膏1%、フシジンレオ軟膏2% 、ゲンタシン軟膏など
その他では、化膿した粉瘤を切開した跡に対して、プロスタンディン軟膏・ブロメライン軟膏・フィブラストスプレーなどの潰瘍治療薬も処方される場合があります。
手術費用について
健康保険においては診療報酬点数表により「どこのクリニックに於いても」、手術本体のコストは下記の算定とするきまりになっています。
K005 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)
- 長径2センチメートル未満 1660点(3割負担で4980円)
- 長径2センチメートル以上4センチメートル未満 3670点(3割負担で11010円)
- 長径4センチメートル以上 4360点(3割負担で13080円)
※露出部とは、顔、頭、首+肘より下・膝より下部分を指します。
K006 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)
- 長径3センチメートル未満 1280点(3割負担で3840円)
- 長径3センチメートル以上6センチメートル未満 3230点(3割負担で9690円)
- 長径6センチメートル以上12センチメートル未満 4160点(3割負担で12480円)
- 長径12センチメートル以上 8320点(3割負担で24960円)
となっております。
※非露出部とは、上記以外の服に隠れる部分を指します。
病理検査・その他
皮膚腫瘍摘出に当たっては、「悪性・良性の鑑別のため」および「どのような腫瘍であるか確定するため」に原則的に病理検査を行わせて頂いております。
・病理組織標本作製(組織切片によるもの)860点+病理判断料150点=1010点
⇒3割負担で3030円の自己負担額が生じます。
なお、炎症性粉瘤の処置で「明確に粉瘤」である場合には、「医師の判断で病理検査を行わない場合」もあります。
その他に、初再診料・処方箋料および通院時の処置に皮膚科軟膏処置料等が掛かりますので、ご了承いただきますようお願い申し上げます。また、保険会社に提出する診断書等のご依頼があった場合には、別途で診断書料(自費5500円)が掛かる場合があります。
粉瘤は自然消滅・治癒はするのでしょうか?
粉瘤は、皮膚の中に「上皮成分」で出来たカプセル(袋)ができる病気であり、自然になくなってしまうことはありません。一方で、「他の皮膚科で粉瘤ですよ」と診断されて、そのままお薬を飲んでいると自然に消滅してしまう場合があります。その場合には、粉瘤ではなく「毛嚢炎(おでき)」であったのかもしれません。
じつは、毛嚢炎が進展して「皮下の膿瘍」を形成する「いわゆるおでき」となってしまうと、炎症性粉瘤との鑑別が困難となります。鑑別のポイントとしては、「粉瘤のへそ」があること・触診にて「粉瘤のカプセル」があることなのですが、炎症や赤みが強いと「ベテランの皮膚外科医」でも鑑別が難しい場合があります。
炎症が中等度の「粉瘤疑い」の場合には、いきなり手術とせずに抗菌剤内服や炎症を抑える作用のある「排膿散及湯」などの漢方を長く飲んでいると、そのまま「ほとんど消退」してしまうことを経験します。
実は、おできでも、炎症の強い粉瘤であっても、「化膿・赤み・腫張」が酷いときには、「皮膚切開」の適応となります。粉瘤が化膿したと判断して、切開した場合に於いても「排膿がみられる」のみで、「いわゆるアテローマ内容;悪臭のする皮膚のカス」がない場合には、結果的におでき(毛嚢炎)の悪化であったということもあります。
受診される際のお願い
感染性アテロームで受診された方で、切開の適応のあるものは必要に応じてご説明を行い切開排膿・粉瘤のカプセル摘出手術(平日午後および土曜日午後に対応)を随時行っております。
受診される際に、「下記の事項をご確認」お願い申し上げます。
- 大きな病気はないか?
- 局所麻酔のアレルギーはないか?
- 当日の体調は大丈夫か?
- 2,3週間程度通院が必要となるのでご予定は問題ないか?
- ご自宅で処置をしていただくために家族等の協力が可能かどうか?
などをスタッフまでお伝え下さい。
大木皮膚科
大田区山王1-4-6 パーク山王1F
電話;03-3776-2220
※形成外科専門医・皮膚腫瘍外科指導専門医である院長が治療に当たりますので、ご安心して受診されてください。
※男性医師(医院長)が手術の担当のため女性の胸まわりや股部に近いもの、悪性の疑いのあるケースおよび数が多数ある場合などにつきましては、近隣の大学病院等をご紹介いたします。なお、「くりぬき法」にはご対応できませんのでご了承の上の受診をお願い致します。
※なお、夏期(6~9月末)および年末年始前後は、新規の予定手術はお引き受けしておりませんが、近隣の形成外科専門医のいる関連病院をご紹介しておりますので、ご相談ください。なお、紹介状を持たずに、いきなり大きな病院を受診すると選定療養費(自己負担額7000円~)が掛かる場合があります。
※今年12月末までの手術予定の日程はすべて予約で埋まってしまっております。受診された際には適切な総合病院の形成外科にご紹介させて頂いております。