もくじ
冬の乾燥肌(皮脂欠乏性湿疹)とは?
晩秋~冬にかけて気温が冷えてくると、とくに都内をはじめとした関東地方では空気が乾燥しやすくなります。「上州のからっ風」という言葉があるように、冬型の気圧配置になると北西方向からの湿った空気が山で雪を降らせたあとに、「乾燥した冷たい空気」となり関東地方などに寒さと乾燥をもたらします。
冬の初めのこの時期になると、皮膚科には「乾燥とかゆみ=いわゆる乾燥肌」のことでご相談に来院される患者さんが増えてきます。元来、皮膚は「季節による体調変化」・「免疫バランスのくずれ」などの影響を受けやすいのですが、さらに「気温の低下や乾燥」に伴って日頃落ち着いていたはずの軽度の湿疹や乾燥肌が悪化してしまうのです。
冬の乾燥肌の理由、原因は?
皮膚の基本構造としては、①表皮(表皮基底細胞~角質層+皮脂膜)、②真皮(コラーゲンに富み、血管・神経・リンパ管などを含む層)、③皮下脂肪組織(脂肪細胞・血管網など)の3層構造となっています。
とくに、表皮の角質層+皮脂膜が「皮膚のバリア機能」として重要な役目を担っているのですが、
- 元来のアトピー性皮膚炎体質
- 加齢による皮脂分泌の低下
- 乾燥肌になりやすい部位
- 入浴時の洗いすぎ
- 寒さによる新陳代謝の低下
- 冬の湿度の低下
などの要因よって、冬期になると特に「角質層のみだれや皮脂の不足」が起こりやすくなってしまいます。
医学的な病名としては、「皮脂欠乏症=乾燥肌」⇒「皮脂欠乏性湿疹=乾燥に伴う湿疹変化」と進行し、洗いすぎによる「摩擦皮膚炎」や「本格的なアトピー性皮膚炎」になってしまうこともあります。人によっては赤みや発疹がほとんどないにも係わらず「痒み」を訴える「皮膚そう痒症」となってくることもあります。
お若いうちは、「皮膚に乾燥肌症状」がまったくなかったのに、ご高齢の方になると乾燥に伴い痒みが出てくる「老人性乾皮症」となって経過が長引く場合もあります。
冬の乾燥肌の症状
肌が乾燥するとどうなるのでしょう?
多くの患者さんを拝見していますと、いわゆる「アトピー性皮膚炎」以外の方でも、①女性では20代に入ると顔の乾燥がめだってくることが多く、20代後半以降に体の乾燥が目立ちはじめる、②男性では一般的に皮脂が多く顔の乾燥は目立たないものの、30代半ばになると、洗いすぎによる四肢(前腕・下腿)の乾燥が出やすいといった傾向があります。
肌が乾燥すると、皮膚バリア機能の低下(角質層の乱れ+皮脂欠乏)がおこり、
- 冬の乾燥に伴い乱れた角質層から水分が蒸発しやすくなり、皮膚の水分量低下を助長する
- さまざまなアレルゲン物質(ほこり・花粉・ダニの死骸)などに対して敏感になる
- 風呂上がりに肌の乾燥を感じるようになる
- 皮膚を触った質感にうるおいがなくなり、「カサカサ」する
などの症状がでてきます。
ご自分で、「乾燥肌気味」になったことをご自覚している方では、洗い方をやさしくしたり、市販のクリームを使ったりして改善することもありますが、問題となるのは「痒み・乾燥肌」の症状が強くなってくる方もいることです。
コラム
患者さんによっては、実際に皮膚を手で擦ると「本当にかさかさと音がすることさえ!」あります。かさかさって、単なるたとえではなく、「実際にかさかさという音」がしてしまうのです。
乾燥しやすい部位は?
以下に代表的な乾燥肌となりやすい部位を挙げておきます。
顔
一般的に「前額部や鼻」は皮脂が多く出る部位ですが、一方で「頬」は皮脂が少ない代表的な部位で乾燥しやすい傾向です。とくに、頬骨の一番突出している部分は「洗いすぎによる乾燥」や「マスクの擦れによる刺激」によって湿疹変化が出やすいところです。頬の側面である「頬骨弓」の上の皮膚もこすれによる外的な刺激で湿疹が良く出てきます。
眼瞼部の皮膚も薄く乾燥しやすい部位ですが、髪の毛が皮膚に掛かってしまうと刺激になり易いところです。口周りの皮膚・口唇も一度荒れてしまうと、「食事に伴う刺激・汚れ」から乾燥が治りにくい傾向にあります。
首・脇・腰など
ベースに乾燥肌がある方では、「襟のこすれ、脇の下の服の擦れ・腰回りの服の締め付け」などによって乾燥性の湿疹がでやすい部位となります。
前腕・下腿などの四肢の末端
若いうちは乾燥を自覚しにくい場所ですが、年齢と伴に皮脂分泌が低下してくると手足の血流循環低下もあいまって乾燥肌となりやすい部位となります。乾燥を自覚したら、石鹸を使いすぎないなどのスキンケアの見直しが必要でしょう。
冬の乾燥肌のかゆみ対策は?
まずは、お部屋の環境改善から考えていきます。
以上の基準は実は「新型コロナ感染症」のときに、国が室内・店舗等における環境基準として示したものです。気温・湿度をある一定以内の適切な条件にすることは、「冬場の乾燥肌」にとって良いだけでなく、「人が生きていく上での免疫力などの恒常性」を保つこと、鼻腔・気道などの乾燥や免疫・防護力の低下をふせぐ意味からも大切となります。実際、湿度が下がりすぎると、「インフルエンザウイルス」が空気中に舞いやすくなったり、気管や喉も乾燥して風邪にかかりやすいことが分かっています。
現代の都会では一軒家でも密閉性が高く・マンションなどでも暖房が「いわゆるエアコン」になってしまうことが乾燥を助長してしまいます。昔ながらの石油やガスストーブの方が乾燥しにくいのですが、実際はマンションなどでは都内でこれらを使うことは禁止されている所も多くなっています。
エアコンでは、なかなか床近くまで暖まらない傾向であり、かつ十分に暖かくすると「空気が乾燥しやすい傾向」になってしまいます。床暖房を入れる・オイルヒーターを使う・窓に専用の窓枠暖房を入れるなどの対策もありますが、導入コストや電気代などからもためらわれてしまいます。
さらに、冬場で多くなる乾燥の直接原因としては、
- 電気ストーブに直接、肌を当ててしまう
- 電気毛布
- こたつの使用
- パネルヒーター
なども悪化する誘因と成り得ます。
湿度を保つために有効なものは、通常は「加湿器の使用」でしょう。超音波型・加温型などさまざまなタイプが販売されていますので、住居環境に合わせて使っていくと良いですね。「加温型」では、「やけど」に注意が必要ですし、「超音波型加湿器」では定期的にクエン酸などのよる清掃を行わないとカビで内部が汚れてしまいます。
冬場における乾燥肌のスキンケアの基本
以下は、当院が10年以上前から患者さんにお話している内容となります。
【冬の乾燥肌スキンケア】
・冬の乾燥が強くなる時期、皮膚の痒みのある場合には、入浴時の風呂のお湯はやや「ぬるめ」にしましょう。お風呂のお湯が熱いと、皮脂は簡単に流れ出してしまい皮膚が乾燥となりやすいからです。
・長くお風呂につかったり、冬場の温水プールも肌を乾燥させる原因となりがちです。
・一方、程よい入浴は肌の血行や新陳代謝を促進するとされます。保湿系の入浴剤を使うなどの工夫をしてみましょう。
・肌を洗うときには、通常の固形石鹸もしくは敏感肌用の固形タイプ石鹸がお勧めです。スポンジ・ボディブラシ・ナイロンタオルなどの使用は乾燥を助長してしまうため避けましょう。
・石鹸を泡立てネット等でやさしく泡立ててから、泡を手で取ってなでるように洗う方法がお勧めです。
・はじめから泡状になっている泡石鹸やいわゆるボディソープでは、少なからず「界面活性剤」が入っており皮脂を落としやすくなるので使用は控えましょう。
・乾燥肌が強いときには、「ぬるま湯」で洗い流すのみでも構いません。乾燥の強くなる足のすね部分(下腿~足首)などでは石鹸の使用を週2,3回程度にするのが良いでしょう。
・乾燥肌になってしまったら、肌着は「ヒートテック」などの化学繊維・ナイロン素材系のものは避けましょう。とくに、ストレッチ素材の服では脇などが擦れてトラブルを起こすことも多くなります。
・肌着やシャツ、アンダーウェアなどはなるべく綿(コットン)100%の素材のものが刺激が少なくてよいですね。皮膚には、肌の組成に近い綿素材のものが一番やさしく刺激がないとされています。
・額や眼のまわり、首元の乾燥では、髪の毛の刺激が悪化する原因となることもあります。髪の毛は短く切るか、束ねて刺激の元とならないように注意をしましょう。
・首周りの乾燥では、襟の素材・タグなどの刺激・擦れもかゆみの原因となります。
※スキンケア図版ダウンロード;乾燥肌のスキンケアPDF
【乾燥肌が痒いときの注意点は?】
掻いてしまうと、皮膚は余計に痒み・乾燥が悪化していきます!!
・どうしても痒いときに掻いてしまうことは仕方がありません。痒みの神経と痛みの神経は、一緒になっており「痒み」は人間の異物に対する防御反応の一種と考えられているのです。
・掻いてしまうと、その場は「気持ちがよい」のですが、そのまま掻き崩してしまうのは絶対に良くありません!少し掻いてしまったら、理性を働かせてどこかの時点で手を止めて掻かないことが「乾燥肌を悪化させない」ために大変重要ですね。
痒いときに出来る対処法としては、
- 水で冷やす
- タオルで押さえて優しくさすっておく
- ハンカチなどで押さえて、上からアイスノン等の保冷材で少し冷やす
等を行うことで痒みがコントロールできることがあります。
痒みが強い場合にやってはいけないことは、
- 激しい運動
- アルコール摂取
- 熱めの風呂・サウナ
- 辛い食材、熱いスープ
などで体が過度に温まることで、余計に悪化する原因となりえるので控えましょう。
皮膚科に行くべきかの判断は?
以上の対策を行って、市販の保湿クリームなどで症状が改善する場合には「通常の乾燥肌」であると考えられます。一方、痒みを伴ってきたり、夜寝ていて掻いてしまうなどの症状悪化がある場合には早めにお近くの皮膚科を受診された方がよいでしょう。
冬に「乾燥肌です」といって、受診される患者さんの多くは「皮膚科医の眼」からみて「すでに湿疹状態」になってしまっていることが多くなります。よくあるパターンとして「皮膚科・小児科などで処方されるヒルドイド」という保湿剤を塗ってみるとかえって、
- 余計に痒くなってしまう
- 乾燥の症状が改善しない
- 塗ることによって、赤みがでてしまう
といった場合には「完全に湿疹」となってしまっている状態です。
以前、ヒルドイドソフトに関して製造元の担当者さんに確認したところ、「ヒルドイドの主剤・基材」が原因でかぶれることはほぼ皆無だそうです。一方、ヒルドイドの有効成分である「ヘパリン類似物質」は、保湿する作用の他に「血行促進作用」もあるため「乾燥肌に湿疹変化を伴っている場合」には、血流を促進することにより余計に痒みや赤みも出てしまうこともあるようです。ヒルドイドを使って余計に痒くなってしまうときには、皮膚科を受診するタイミングとも云えますね。
乾燥肌対する皮膚科での塗り薬、クリームは?
◆ステロイド外用剤
乾燥肌が酷くなると、「皮脂欠乏性湿疹」、「軽度のアトピー性皮膚炎」となってしまっている事もあります。そのような場合は、保湿剤のみでは症状が改善しないことが多く「皮膚炎・湿疹」の炎症を抑えるステロイド外用剤が必要となります。
ステロイド外用は、チューブ単体で処方されることもありますし、ヒルドイドなどの保湿剤と混合して処方されることもよくあります。代表的な処方としては、
- ステロイド外用剤+亜鉛化軟膏の混合(当院でも先代院長より頻用)
- アンテベート軟膏+ヒルドイドソフト
- リンデロンV軟膏+ヒルドイドソフト
- ロコイド軟膏+ヒルドイドソフト(小児科などでよく使われる)
などが挙げられるでしょう。
かゆみが強い場合には、オイラックス軟膏やレスタミン軟膏などとも混合剤として処方されることがあります。
◆皮膚科で使われる保湿剤
ヘパリン類似物質軟膏orローション
ヒルドイドソフト(マルホ)に代表されるヘパリン類似物質という血行促進+保湿作用を持ち合わせた保湿剤です。
ヒルドイドに関しては現在のところ、
- ヒルドイドソフト軟膏
- ヒルドイドクリーム
- ヒルドイドローション(乳液)
- ヒルドイドフォーム(泡スプレータイプ)
の4剤型があります。
ヒルドイドの歴史はたいへん古く、1950年代にドイツ製の血行促進剤として、マルホにより日本で発売され当初は「凍瘡、肥厚性瘢痕・ケロイド、打撲、腱鞘炎、筋肉痛、血種」などの血流障害に基づく病態に主に用いられていました。当方が医師になった1989年には皮膚外科の外来に「ヒルドイドクリーム」が置いてありましたが、現在と違って「チモールという添加剤」がはいっており独特のチモール臭がしました。
その後、1990年に入りやっと「皮脂欠乏症」という保険適応が追加され、現在の皮膚科領域でひろく使われているヒルドイドソフト軟膏が発売されたのは1996年となります。剤型については「ローション剤・泡スプレー剤」が その後順次追加されてきました。
ヒルドイドソフト軟膏は、じつは元々のドイツで作られた「ヒルドイドクリーム」がオリジナルであり、マルホがその軟膏基材を日本向けに改良して作ったものとなっております。商品パッケージがピンクで「可愛く」作られており、現在も皮膚科領域では大変広く使われています。
近年になりアトピー性皮膚炎を専門とする大学教授らの皮膚臨床研究によりオリジナルである「ヒルドイドクリーム」の方が、
- 保湿作用に優れていること
- 角質層の修復作用があること
- さらに傷んだ角質層の汗腺(および導管)も修復し
- 皮膚の発汗量も改善する
- 結果的にさらに皮膚がうるおう
ことなど分かってきました。
そのため、マルホではオリジナルである「ヒルドイドクリーム」から添加物チモールを除き、その他の基材や添加物がオリジナルと同一であるチモール臭のない「ヒルドイドクリーム」を発売するに至っています。当院でも手荒れなどの保湿として、よりオリジナルの組成に近い「ヒルドイドクリーム」をお勧めしております。
ヘパリン類似物質のジェネリック医薬品について
先発品のヒルドイドソフト軟膏などが商品名(メーカーの付けた独自の名称)であるのに対して、国のジェネリック医薬品普及促進の政策誘導によって、その他の後発医薬品は現在すべて「ヘパリン類似物質」という一般名で呼ばれています。
保湿剤の剤型としては、ヒルドイドソフト軟膏に準じた「軟膏」、割とさらっとした「クリーム剤」、透明な液体の「ローション」に大きく分かれます。注意点としては、同じローションという名前でも先発品のヒルドイドローションは乳液なのに対して、後発品のヘパリン類似物質ローションは無色透明な液体タイプのローションであることです。
派生型として、ローションにポンプをつけて「スプレータイプ」にしたもの、「泡タイプにしたもの」があります。一つのメーカーが泡タイプを作ると他社でも同じ剤形を作るという一種の流行のようになってしまっています。
その他の保湿剤は?
保湿剤の基本としては、「ワセリン」が挙げられます。白色ワセリンが代表的ですが、サラシミツロウの入った白色軟膏、より純度の高い眼軟膏の基材となる「プロペト」、さらに保険適用はないですが日本国内で手に入る一番純度の高いワセリン製剤として「サンホワイト」が有名です。
古典的な保湿剤としては、亜鉛華軟膏や尿素軟膏・サリチル酸軟膏もありますが、どれも単独で保湿として使われることは少なくなっています。
◆市販でお勧めの保湿剤は?
上記に記載しましたとおり、皮膚科での保湿剤の欠点は、ヒルドイド(ヘパリン類似物質)系、ワセリン系、亜鉛華軟膏類、尿素軟膏の他はあまり種類がないことで、現在の保険適応からみても今後、まったく新しい保険適応となる保湿剤が出てくる可能性はかなり低いのではと思われます。
一方、市販の保湿剤はワセリン・馬油などを初めとした様々なタイプのものが各社から発売されております。さらに、保険適応で使うことができない「セラミド」や「より皮脂に近い保湿成分」を入れていくこともできます。なかでも割と大手のメーカーのものが安心できるかと思いますが、ご自身に合ったものであればどのメーカーを使ってもよろしいのではないかと思います。
以下に例を挙げておきます。
※リンクを貼っておきますので、ご参考にされてください。
大手メーカーの有名なブランド
市販薬としてよく使われるブランド
おすすめされないブランド
ウフェナマートという主成分が過去にかぶれることで問題となったコンベック軟膏と同一となっております。「IHADA」というブランド名で発売されたのですが、製品によって有効成分に違いがあり分かりにくくなっています。
まとめ
秋から冬に掛けては、「いわゆる季節の変わり目」となるため、様々な体の変調が起こります。皮膚は体の免疫状態を反映しやすい臓器のひとつとなりますので、乾燥肌の悪化や痒みなどもこの季節に出やすい傾向です。
夏から秋にかけて徐々に気温や湿度が変わっていけば良いのですが、昨今の急激な気象変動で一気に冬気候となって寒くなったり、乾燥してくることが多くなって来ています。乾燥肌は適切にケアをして自然回復することもありますが、かさつきや痒みが悪化してくる場合には、すでに湿疹病変となってしまっている事が多く、早めに皮膚科を受診されることをお勧め致します。