もくじ
巻き爪化膿・陥入爪肉芽を自分で治す・治し方は?
巻き爪が膿んで「周りの皮膚が腫れ上がってしまったり」、「肉芽腫を形成する」ことを陥入爪もしくは、「化膿性肉芽腫」とも云います。巻き爪・陥入爪で化膿した肉芽を形成したときには、今までは「テーピング法・液体窒素療法・コットンパッキング(爪前縁下法)」など余り有効性が高くない治療法しかありませんでした。
また、ガター法やアクリル人工爪法も時間が掛かったり、麻酔や特殊な器具を揃える必要があり一般的な皮膚科で広まっている方法とは言い難い状況です。
巻き爪が「膿」となった肉芽腫形成・陥入爪に対して、当院では2011年長谷川より報告のあった「コットン充填固着法」をベースとした「捻りコットン充填法(そがわ式での工夫)」にて、炎症のある肉芽腫と爪縁の当たりを緩和する治療を行って現在良好な結果を得ております。
なお、巻き爪を伴わない「中程度」までの陥入爪肉芽の「膿」に対しては、「患者さんがご自宅で自力」での捻りコットン充填法による陥入爪肉芽を自分で治す・治し方改善および膿の出し方を行えるようご指導も外来にて行っております。
巻き爪が膿んだ陥入爪肉芽・画像
巻き爪が膿を持った画像
このような膿を伴う陥入爪の肉芽も「そがわ式による捻りコットン充填法」により治すことができます。ただし、巻き爪も伴うときには「そがわ式巻き爪矯正」も必要となります。
巻き爪で膿んだ肉芽腫形成
テーピング法・液体窒素療法では、陥入爪の本当の原因である「爪端と肉芽の当たり」を直接改善することができません。ガター法も「肉芽の圧排効果」が不足するため、大きな肉芽腫形成には無力となります。
陥入爪肉芽で化膿しやすい人は?
巻き爪が膿を持ってしまう状態である陥入爪肉芽腫は、10代~20代の若い人に多い傾向があります。過度な外力・加重及び深爪などの刺激が「組織反応が旺盛である若年層」においては組織の腫張や肉芽腫を助長して出来てしまうものと考えられます。
膿のある巻き爪の化膿性肉芽腫を治す・巻き爪と陥入爪の違い
「膿が出ていて腫れている陥入爪の化膿性肉芽腫」と「爪が巻いている巻き爪」はじつは全く同じではありません。実際には爪が巻いていないのに、陥入爪で膿が出ている状態になってしまう場合も多いのです。すなわち、陥入爪に対しては巻き爪とは「また別の治療アプローチ」が必要となってくるのです。
一方で「陥入爪の肉芽・膿があり、かつ巻き爪もある」という方も一部(陥入爪の1~2割程度)でいらっしゃいます。その場合は必要に応じて巻き爪矯正も同時に行っていくことになります。
巻き爪化膿・陥入爪肉芽の原因
膿を持った巻き爪・陥入爪の原因は「深爪」だとされますが、決してこれだけが原因ではありません。「爪を伸ばしていても肉芽形成」していたり、爪を切っていない「爪の根元付近」に膿がでて肉芽形成してしまう場合もじつは多いのです。
爪(爪甲)と爪脇の皮膚(側爪郭)の間には、
- 指腹から掛かる圧力を両爪端で支える役目がある
- 一方で爪甲と皮膚との継ぎ目であり傷が付きやすい
- 物理的力が掛かりやすく細菌感染も起こりやすい
- 過度な加重や靴の圧迫によるトラブルが生じやすい
などの特徴があります。
すなわち、これらの要因が組み合わさり「繰り返す刺激・キズが繰り返される結果」として、側爪郭部の皮膚が炎症で腫れ・物理的な刺激の継続が爪郭部の組織全体の腫張を招くのです。
ちなみに膿が出ている傷口に刺激が加わると「肉芽形成する現象」は陥入爪に限ったことではなく、「床ずれ・褥瘡」や「様々な皮膚潰瘍」が治る過程でしばしば見られる現象です。膿んで肉芽腫形成を生じるのは、陥入爪に限った症状では決してないのです。
肉芽形成して膿が出ている陥入爪では、「刺さっている爪」を「何とかしよう」として「いじってしまう」と爪は非常に割れやすい状態です。若い方の爪は比較的薄いことが多く、肉芽腫の下で侵軟してしまうと少し触っただけで崩れる様に割れてしまいます。その結果をみた一部の医師が巻き爪の肉芽腫形成=陥入爪の原因は「深爪」だとしてしまっているのでしょう。
巻き爪・化膿した肉芽の応急処置;自力でのコットンパッキング法
陥入爪の膿んだ肉芽に対する基本原理
巻き爪が化膿した肉芽・陥入爪を治すには、「巻き爪のみの場合」とは別のアプローチ法が必要となります。多くの陥入爪の肉芽形成では「爪が巻いていないケース」がほとんどであり、8割程度を占めます。すなわち「巻き爪矯正」などの爪の巻き本体を治す治療はほとんどのケースでは不要なのです。
爪端が「爪脇の皮膚(側爪郭)」を刺激して炎症を起こしている訳ですから、爪を支えて挙げながら、爪縁の皮膚の肉芽形成部を引き離していくことによって、「肉芽腫と爪縁の当たり」を緩和していくのです。そして、最終的に当たりを緩和する役目をするのが「捻りコットン充填法」となるのです。では、具体的にどのような手順で当たりを緩和していくのかを解説しましょう。
炎症のある肉芽腫と爪縁の当たりを緩和するには?
巻き爪の肉芽形成例(陥入爪)の患者さまから実際にお問い合わせいただいたものが下記となります。
陥入爪で肉芽を形成しており、痛み止めなしでは歩くのもままならない状態です。お仕事上の都合で立ち仕事、ハイヒール必須のため、現在痛みと戦いながら仕事をしています。日曜日が休みだったため、訪れた他の病院では肉芽に液体窒素をかけられ、経過をみるように言われました。(中略)・・・どうにか見ていただけませんでしょうか。よろしくお願いいたします。
他院にお掛かりになっても治らずにメールでのご相談があり、以下の内容でご返信しました。
① 消毒薬や外用抗菌剤が処方されていないため、市販イソジン消毒液や外用抗菌剤(薬局で手に入るもの)を使った方が良いと思います。
② 消毒をしたあとに、肉芽腫部分のみに処方されているステロイド外用剤を塗布、全体を覆う様に抗菌剤外用を塗ったガーゼで保護すると良いでしょう。
③ 爪は余り短く切ってしまうと、治療がやりにくいのでなるべく切らない様にしてください。爪を少しでも持ち上げた方が、炎症が取れます。※ネットで以下の様な鉗子が売っています(型番はDC200R)。もしくは薬局などで似た様な細い鉗子を探しても可。爪ヤスリ・皮膚外科用ピンセットもあると良いです。
④ 肉芽腫が爪に寄っていくと痛くなると思いますので、肉芽の外側の皮膚を外側下方に引き下ろす様に手でひっぱり、もし、爪と肉芽の間に隙間が探せればコットンを細くちぎって少し挟んで置くと炎症が取れやすいと思います。
⑤ また、爪端の下に少しでも隙間が探れれば、コットンを小さく丸めたものを挟んでおくと多少痛みが引くと思います。
※以上は、当院でよく行う方法の抜粋となります。
お問い合わせのあった患者さまは、上記の文面で行うべき内容をご理解していただき症状が改善した状態で、当院の月木午前の巻き爪外来(令和5年4月以降は水曜日午前の事前予約制)を受診されました。
実際に拝見すると「巻き爪の合併」もあったため、その後に巻き爪矯正を追加しました。簡単なアドバイスのみでしたが、患者さんが実際に陥入爪の肉芽を自分で治すことのできた「治し方」となります。
「繰り返す刺激・キズが継続して出来続ける結果」として、側爪郭部の皮膚が炎症で腫張し・物理的な刺激の反復が爪脇皮膚全体の腫張をさらに悪化させていくことが、「陥入爪の根本的な原因」です。
巻き爪が膿んで歩けないときは?
陥入爪を治していくために大切なことは、まず外部からの圧迫を極力避けることが前提条件として必須と云っても良いでしょう。即ち、いくら爪縁から肉芽腫を引き離して「局部の当たりを緩和」しても足趾の外側からの圧力があれば治りようがないからです。
当院では巻き爪化膿・陥入爪肉芽を治す前提として、
①つま先に余裕のある靴を選び、靴紐をちゃんと締めて靴を履くこと。合う靴がないときには、大きめの靴に中敷きを入れて調整すべきであり、
②特に第一足趾の外側に炎症があるときには、足趾間に丸く畳んだガーゼを挟み、足の趾同士が当たらないようにすること、
が必要であるとご説明しております。
巻き爪化膿・陥入爪肉芽を自分で治す・捻りコットン充填法の基本
陥入爪肉芽の爪端の出し方;基本手技編(捻りコットン分割充填法)
まず、コットンパック法の基本はこちらになります。
では実際に当院で「どのように治していくか」を詳しくご説明致します。この方法は、手先が器用な方ではご自宅でも行うことが可能であり、実際に当院の巻き爪外来にて患者さんにご指導している方法となります。
① 用手的に「痛い方の爪前縁を持って」支えながら、肉芽形成している爪縁皮膚を指で軽く下方(趾腹側)へ引いてみます。余り強い痛みがでないときには、そのまま次のステップに進みます。
一方でこの段階で強い痛みを生じる場合には「爪の巻きが強く爪縁皮膚に刺さっている・大きな爪棘があり皮膚を刺激している」ことなどが疑われますので、当院では局所麻酔・足趾神経ブロック下での処置にも対応致しております(月木午前巻き爪外来のみ)。
② 外来受診時には、「陥入爪肉芽と爪表面」に対しては何も処置が行われていないことが多く、爪と肉芽は血のり(膿や血液が固まったもの)でくっついてしまっており、中には一体化していることもあります。
③ まずは市販のコットンを繊維に沿って短冊状に切ったものを用意して、細く裂いたものを軽くコヨリ状に丸めます。余り太いコヨリだと「爪と肉芽の隙間」に入りにくいので、やや細めとして「綿をコヨリにする時」には軽めに捻る程度とします。
④ 爪前縁を支えながら、肉芽を側下方へ指を使って引き下げると肉芽と爪の間に隙間がわずかに開いてきます。そこに、コヨリ状にしたコットンをあてがって「爪ヤスリ」などで隙間から爪表面を滑らすイメージで入れていきます。
もしも、血糊で爪と肉芽が固着している場合には、「水道水・マキロンなどの消毒液」でコットンを濡らすと「血糊が緩み、滑りが良く」なるでしょう。※院内では痛みが出にくいように局所麻酔液で湿らせています。
⑤さらに、爪と肉芽の隙間にしっかりコットンを入れていくには、「爪ゾンデ」で爪の弯曲に沿って押し、コットンを奥に滑り込ませます。もしも、爪下に傷があり抗菌剤外用などが必要な場合には「コットンを挿入」するまえに外用剤の塗布もこの段階で行います。
⑤ 少し肉芽を外側に押しやると、爪前縁の隙間も分かりやすくなります。爪前縁下に爪ゾンデを入れて、軽く爪を挙上しながら、さらに、コットンごと肉芽腫を爪ヤスリなどで引き降ろしていきます。
⑥ 続いての爪挙上の操作は、爪ゾンデを皮膚外科用ピンセットに持ち替えて、「コットン+肉芽腫」の引き降ろし操作は、爪ヤスリをガーゼに変えて指先で用手的に行っていきます。
⑦ 爪がやや持ち上がり、肉芽との間に隙間が作れれば「第一段階」は成功です。爪前縁下に、軽く丸めたコットンを挿入し、爪をやや持ちあげ気味にできたら基本操作は終了です。
以上のコットン挿入法は、「食い込んでいる爪の端」までは出せないが、「少しでも肉芽を側下方に圧排して、爪を軽く挙上」できる方法論であり、「コットン分割挿入法」と呼んでおります。ご自宅での取り敢えずの処置としてご指導したり、一般皮膚科外来中で処置のお時間が余り取れない場合の「つなぎ」として当院でも良く行うことがあります。
実は、捻りコットン充填法の原法である「長谷川式コットン充填固着法」では、必要により爪を切り込んだりしつつ、コットンは「正面からコの字」になるように詰めていくのが基本です。長谷川先生はコットンの充填にピンセットのみを使っているようです。当院では極力爪を切らない方法で、捻りコットン充填法を行うようにしております。
陥入爪肉芽・捻りコットン充填法の関連文献
- 陥入爪に対する綿花挿入法による治療効果の検討(原著論文);國行 秀一 皮膚の科学 2006(爪前縁下法)
- 陥入爪・巻爪に対する"コットン充填固着法"の紹介 長谷川 徳男; 靴の医学 2011(捻りコットン爪側縁挿入)
- “Cotton Nail Cast”A Simple Solution for Mild and Painful Lateral and Distal Nail Embedding Gutiérrez-Mendoza;Dermatologic Surgery 2015(海外でも同様の報告有)
巻き爪・膿のある肉芽(陥入爪)を治す・捻りコットン充填法
陥入爪肉芽の爪端の出し方;爪端の完全露出法・捻りコットン充填法(底すくい)①
そがわ式では、爪端が完全に拾えて露出でき、「ワイヤーを掛けれる状態、もしくはコットンで包める状態」を「本丸攻め・コットン底すくい」と呼んでおります。そがわ式の開発者である十川秀夫先生は、「爪矯正の段階」を戦国物に例えるのがお好きなようで、隠れている爪端をしっかりと出しに行くことを、そのように呼んでおります。
基本は上記の捻りコットン充填法の続きとなります。
① 特に母趾の外側の陥入爪では、「爪の巻きが少ないこと」が多く、肉芽腫の引き降ろし操作のみでも、「爪端である本丸」を出すことも可能なことが多くなります。
② 爪の挙上にはコツがあり、ピンセットに持ち替えて軽く挙上したあとは「肉芽とは反対側方向」に爪を寄せるように引いて行きます。ここで注意する点は、「肉芽形成している直下の爪」を持ち上げようと「こじって」しまうと爪が折れやすいことです。爪は決してこじらずに、「少し持ち上げたら肉芽とは反対側に引く」ことが、肉芽と爪の当たりを改善することになります。
③ 肉芽腫の引き降ろし方にもコツがあります。「喰い込んだ爪と肉芽の関係」は、硬くなった関節・スジを伸ばすリハビリ動作と一緒であり、いきなり強く引っ張ってしまうと痛みがでて中々広がってきません。
まずは5、6秒引き降ろしてから、少しの間だけ、力を抜いてお休みをおき、一度「爪と肉芽」を持ち直してから再度引き降ろし操作を行って「ジワジワ」と時間を掛けながら行っていくようにしましょう。
④ コットンと肉芽を引き降ろす操作も、「爪ヤスリ⇔爪ゾンデ⇔ガーゼでの引き降ろし」と同じ方法だけでなく、適宜引き降ろし方法を交互に変えていった方が肉芽がより降ろし易くなります。
⑤ コットンも何度か引き降ろし操作をするうちに、汚れて丸まってしまうと思いますので、適宜新しいコットンに入れ替えて操作を続けます。ここでのポイントとしては、「あまり強くコットンを捻らず、軽めとした方」が爪と肉芽の隙間にフィットしやすい、コットンを入れ替える毎に徐々に大きくしていった方が肉芽の引き降ろし効果が高くなるようです。
⑥ 引き降ろし操作がうまくいくと、徐々に爪端部分が探れるようになり、「爪ヤスリ・爪ゾンデ」の先端で触知できるようになってきます。さらに、もう一踏ん張り肉芽を引き降ろすと爪端(本丸)が見えてくることがほとんどです。
⑦ 爪端が肉眼的にみえるようになれば、コットンを爪端と肉芽の隙間に落としこんで「底すくい」を行っていきます。爪ヤスリ・爪ゾンデなどが最後のコットンの落とし込みに役立つでしょう。なるべく爪の根元側から爪先の角まできれいにコットンで露出できれば、陥入爪肉芽の治療ももうすぐ完了です。
★当院に実際に受診された患者さんには、以上のことがご自宅で自力で出来るようにご指導しております。
陥入爪肉芽の爪端の出し方;捻りコットン充填法(襟巻き方式)②
肉芽に当たっている爪端と肉芽腫の当たりを完全に解除するために、さらにコットンをきっちりと詰めていきましょう。手先が器用でかつ、外来診察中に上記までできた患者さんには下記のコットンで爪端をしっかり保護する「襟巻き方式」までご指導する場合もあります。
基本的には上記のコットン充填法①(底すくい)の続きとなります。
① コットンの充填で、爪端をしっかりと出していくと、肉芽の被っていた爪下にはある程度の隙間があることに気がつくと思います。この隙間を使って、コットンで爪を挙上しつつ肉芽を完全に爪周りから排除していくのです。
② コットンを爪根元の上から爪脇を通して、爪下まで「くるっと襟巻きのよう」に巻いてしまおうという方式です。うまくコットンを巻くことで「ガター法」と同等以上の効果が得られます。もしも、コットン襟巻き方式をマスター出来れば、ガター法のように入れ替えのために通院することが不要となります。
③ 実際に行うには、上記「底すくい」までのステップを完成させておく必要があります。現在入っているコットンの大きさから襟巻き方式で挿入可能な大きさのコットンを勘案して、コヨリ状に加工しておきます。ポイントとしては、コットンの先端は爪根元の奥にすべて詰めてしまうのではなく、「しっぽ」として爪根元の上に残しておくことが、「オリジナルの長谷川式コットン」とは違ってきます。
④ コットンを爪根元から「らせん状」に肉芽を圧排しつつ爪側縁~前縁の下側に誘導していけば、「コットン襟巻き方式」の完成です。当院では本法を採用してから「いわゆるガター法」は行う必要がなくなってしまいました。
⑤ らせん状にしたコットンは、爪側縁の下にも均等に入るように調整します。コットンは全て爪側縁下にいれてしまうのではなく、肉芽を圧排できるように爪端下に「広め」にゆったり巻くようにすると「爪挙上効果」と「肉芽腫の圧排効果」を発揮しやすくなります。
⑥ 一度でコットンの大きさがうまく決まらないときには、コットンを何度か大きさを変えて微調整しても良いでしょう。
★大多数の陥入爪肉芽が本法までで改善してくるはずです。一方で爪の奥側に肉芽ができていたり、大きな肉芽や腫張があった場合にはさらなる対応が必要となります。
陥入爪肉芽に対する捻りコットン充填法(多数本挿入方式)③
コットン充填法は陥入爪肉芽に対して非常に有効かつ理にかなっている方法論となりますが、肉芽が奥にあったり、腫れが強いときには更なる対応が必要です。コットンをうまく肉芽の下に巻いたのに何故かボリュームが足りない、奥の方に入り切っていないという場合があります。
① 爪の根元にある肉芽腫などでは、爪と肉芽腫がぎりぎり近くにある場合があります。その場合には、一度にコットンを入れようとしないで、「まず細めのコヨリ状のコットン」を作成し、奥にきっちりといれて爪端に襟巻き状に巻いていきます。
② 爪が浸軟して手前側が折れてしまっている陥入爪もありますが、その場合もコットンできちんと奥を「底すくい⇒襟巻き方式」で保護出来れば炎症は取れてきます。短く浸軟した爪にはガター法は適応できないので本法の独壇場となります。
③ 奥の方はきちんと爪端をコットンで保護できたが、手前の肉芽が大きくボリュームが不足するという場合もあります。そのときには、躊躇わずに2本目、3本目のコットンで襟巻きをしていきます。コットンで爪端がすべて保護されたが、さらに肉芽が大きく爪に寄ってきてしまうこともあります。その場合には、爪と肉芽の間にさらにコットンを挟み、肉芽を外側へ圧排するようにします。
捻りコットン充填法(当院での工夫)④
上記までのコットン充填法は、患者さまご自身が自宅でできるように極力指導しているのですが、なかなか手先が不器用で自信がない、ご不安なので通院したいという方もいらっしゃいます。とくにご高齢者などで巻き爪の下に化膿や肉芽を伴っているときには自力で交換するには無理があります。
捻りコットン充填+イソジン簡易固着法
① コットンを挿入する前に抗菌剤外用を患部に塗布してからコットンを充填、襟巻き方式でコットンを設置します。
② 消毒用イソジン液をコットンに染みこませることで、簡易固定とし肉芽に対する殺菌効果を持たせます。注意点としては、イソジンは液体のまま皮膚に長時間接しているとかぶれることがあり、余分な液体成分はガーゼなどで拭き取る必要があります。
③ 軽くシャワーは可とします。シャワー後に濡れたコットンの水分はタオルなどで拭き取り乾いたら再度イソジンでコットン全体を消毒します。
以上の処置でしばらくコットンは持ちますが、2,3日毎に通院して交換する必要が生じます。
捻りコットン充填+両端簡易固定法
肉芽腫やキズ部分が少し乾いてくると頻回にコットンを交換する必要が減ってきます。その場合、通院出来ない方ではコットンの両端である爪根元の上と爪前縁下のみを医療用アロンアルファで固定することで脱落を予防します。必要に応じ上記のイソジン消毒も併用することもあります。
陥入爪肉芽の爪端の出し方;捻りコットン充填法(簡易人工爪法)⑤
肉芽が乾いて消退傾向になってきた場合には、コットン充填固着法として敷き詰めた「コットン全体」を医療用アロンアルファで固定し「簡易人工爪法」とすると、おおよそ2週間+α程度は持たせることが出来ます。アロンアルファと同等の成分である「皮膚用接着剤ダーマボンド」は医療用として承認されており皮膚に多少付いても安全であると考えられます。
アロンアルファはそのまま指に付けるとくっついてしまうので「ガーゼ」で余分な成分を拭き取りながら「コットン」の形状を整え、かつ霧吹きなどで水分を含ませると1分程度で硬化してきます。爪ゾンデなどで皮膚とのあたりが良くなるように最終的な形状を整えていきます。
アロンアルファを用いた簡易人工爪法は、外来でも短時間に行うことができ、かつ取れた場合にも経過が良いときにはご自身でのコットンパック法でそのまま経過をみることも可能です。当院では、本法を行うようになってから「アクリル人工爪法」は現在行わなくなりました。
コットン充填による簡易人工爪は応用範囲の広い手技なのですが、肉芽腫による炎症が強いときにコットンを固めてしまうと返って「固まったコットンの角」が刺激となることもあるようです。当院では原則、ご自身でのコットン充填ができるようにご指導しておりますが、簡易人工爪とする場合には、ある程度炎症が取れてから行った方が問題を起こさないようです。
陥入爪肉芽;捻りコットン充填法(コットンプルイン(pull-in)法)⑥
オリジナルのコットンパッキング法の弱点は、コットンの脱落(すっぽ抜け)が起きやすいことです。そのための工夫が「長谷川式コットン充填固着法」なのですが、爪が浸軟した状態などでも「もっとしっかりとコットンを固定」したい場合があります。そのために開発されたのが、そがわ式による「コットンプルイン法」です。
コットンを固定するためには、手の外科用の特殊な縫合針である「津下式ループ針」を用います。適応としては保存療法で消退の期待出来ない大きな肉芽腫や爪郭部の腫張になります。
① 患部根元に局所麻酔・足趾神経ブロックをおこない痛みを取ります。
② 切除したい部分の肉芽腫を外科的に摘除し、電気メスなどで止血し最終的に誘導したい「元の形に近い側爪郭」を形成します。爪脇の下には肉芽切除後の「びらん」がある状態になります。
③ 爪は原則的に切除しません。爪下と形成した側爪郭の間に大きめのコットンを置き、ループ針で抑えたコットンをそのまま爪下に誘導します。
④ 爪下奥側に針を下から上に向けて貫通させて、ループ針の糸端同士をビーズなどを介して縫合し「コットン」を爪下にしっかりと固定します。
⑤ 通常、消毒や外用剤処置を続けることで「びらん」となった側爪郭の肉芽は消失し「上皮化した皮膚」となって新しい爪郭部が再形成されていきます。固定したコットンは途中でやや汚染気味となるのですが、2週間ほどそのまま留置後に除去します。
本法は局所麻酔が必要なのですが、「爪を温存出来る手術手技」として価値があるものと思われます。ただし、対応として当院の指定する時間(月木午前巻き爪外来)に継続通院が可能な方に限らせていただいております。ビラン部の上皮化を促すためにアルギン酸塩被覆剤を使う・コットンの代わりにソフラチュールを使うなどの変法の報告もあるようです。もしも、巻き爪も伴う場合には「そがわ式巻き爪矯正」を同時に行う場合もあります。
巻き爪・化膿した陥入爪で肉芽消退補助となる方法
陥入爪の肉芽腫は上記の「捻りコットン充填法」にて爪と肉芽の当たりを解除すると自然に消退することがほとんどです。あまりに大きな肉芽は、外科的に切除を行う必要も生じます。一般的に肉芽消退を期待して行う補助的治療手技には以下のものがあります。
液体窒素療法
液体窒素の凍結効果自体があまり皮膚の深くまで及ばないために効果は限定的です。小さな初期の肉芽腫には効果がある場合もあります。当院ではほとんどの肉芽腫症例がコットン充填法にて消失しますので本法を行うことはありません。補助的療法として硝酸銀を用いる医師もいるようです。
クエン酸法
以前個人のブログから発信された方法となります。現在は更新されていないためかオリジナルのホームページはみることはできません。医中誌で調べるとクエン酸は歯科領域で根管洗浄に用いることがあるようです。
元々、クエン酸は食品にも含まれており安全性は高いものと思われ、当院でもコットン充填法の補助療法として用いても良いと説明しております。
肉芽腫茎部結紮法
陥入爪の肉芽が大きな場合に液体窒素療法に加えて、肉芽腫の根元を結紮すると消退効果があったとの学会・会議録があります。
外科的切除(肉芽+炎症部爪縁含切除法)
上記のコットンプルイン法に矯正ワイヤーも併用する場合もあります。同様の手技を行ったという本法を追試した学会報告があります。
巻き爪の化膿に使われるお薬
巻き爪・化膿(陥入爪);オロナイン等の市販薬
オロナイン等の市販薬を使うことは、陥入爪肉芽の応急処置として行ってもよいでしょう。その他の市販の抗菌剤外用であるドルマイシン・テラ・コートリルなども病院へ行けない場合の候補となります。
ご自身で肉芽にコットンを入れるときには、痛みが強いときに病院で使うキシロカインゼリーの代わりに市販薬で局所麻酔入軟膏(キシロA軟膏など)を用いても良いと思います。キシロAにはキシロカインゼリーと同等の2%のリドカインが含有されています。
巻き爪・膿のある陥入爪・病院での薬
一般的に良く処方される薬としては、抗菌剤内服、鎮痛薬とともに塗り薬として「イソジンゲル・ゲンタシン軟膏」の他、肉芽形成に対してステロイド外用剤(リンデロンVG)などが処方されることが多くなります。細菌感染が長引く場合には、カデックス軟膏・ユーパスタ軟膏(イソジンシュガー軟膏)なども候補となります。
当院では消毒用イソジン液に加え、肉芽腫に対してエキザルベ軟膏、抗菌剤としてアクアチム軟膏を処方することが多いです。エキザルベ軟膏は弱いステロイドで肉芽の消退を計りつつ、含有されている混合死菌液が菌の増殖に対してワクチン的に菌増殖を抑制し、かつ組織修復・皮膚の上皮化作用を併せ持つめずらしい作用機序の軟膏剤です。アクアチムは現在の所、明かな耐性菌はなく経過の長引く肉芽腫の感染によく効いている印象です。
巻き爪・化膿した肉芽(陥入爪)で巻きが残るときには矯正を!
以上の処置にて、8割以上の陥入爪の肉芽は治せるのですが、陥入爪に「巻き爪」が合併している場合には「巻き爪矯正」も必要となります。肉芽を伴う陥入爪の矯正は、巻き爪矯正サロンや接骨院での他法では対応できない分野となります。
従来はガター法やコットン(前縁下のみ)で炎症をだましだまし抑えてから、マチワイヤなどに持って行く方法が行われていました。これらを組み合わせた保存療法には「時間と通院回数」が掛かり、さらに爪が割れやすいことなどがデメリットでした。
当院の採用している「そがわ式巻き爪矯正」であれば、肉芽を伴っている陥入爪・巻き爪に対しても「ワイヤーの太さ・フック幅の調整」などで問題なく、そのまま矯正療法に移行することが可能となっております。
巻き爪・化膿(陥入爪)を自分で治さない方が良い場合
ほとんどの陥入爪の肉芽は上記の方法で治していけるのですが、本法ももちろん万能ではありません。当院で行っている方法を持ってしても手術療法をお勧めするケースもあります。
- コットンパッキングに関するご理解が得られず自己管理・処置が出来ない方
- コットンをご自身で入れることが出来ず、かつ通院が困難な方
- 途中で通院を自己中断されて再三悪化して来院される方
- 非常に重症化した高度の肉芽・爪縁皮膚の腫張例かつ通院困難な条件の方
上記に該当する方では、当院でも近隣の皮膚外科専門である形成外科にご紹介しております。文献的にも保存療法には限界があり、浸軟して崩れてしまった爪甲自体が異物反応の元であるという意見もあり、一次的に部分抜爪を行い炎症の消退を計ることも一法であると思えるからです。
巻き爪化膿・陥入爪肉芽を自分で治す動画
まとめ
巻き爪の化膿・陥入爪の肉芽形成に対しては、今まで「ガター法・アクリル人工爪法・テーピング法」などが諸家により工夫されてきました。
当院でも過去にはこれらの方法を用いていた時期もありましたが、多くの患者さまの治療を行わせて頂く機会があり、上記には様々な問題点があるため陥入爪肉芽に対して「決して理想的な治療法ではない」と思えるようになってきました。
現在当院では、「陥入爪の肉芽腫」の治療法として、
- 捻りコットン充填法(長谷川式変法)、
- 巻きが強い症例では「そがわ式巻き爪矯正」を併用、
- 痛みが強いケースではご希望により局所麻酔(水曜午前の巻き爪予約制外来限定)を併施
して、ほとんどの巻き爪の化膿・陥入爪肉芽を治しております。
そがわ式で行う捻りコットン充填法は、「コットン充填固着法」を様々な工夫で有効性を高め、従来の「ガター法・アクリル人工爪法・テーピング法」に代わり陥入爪肉芽の原因となっている炎症部分に直接アプローチできる「より効果的な治療手技」となっております。
本ブログ内容が陥入爪・巻き爪の化膿でお困りの患者さんの参考になれば幸いです。
なお、「捻りコットン充填法」に関するアイデアの帰属は、香川県三豊市のそがわ医院・十川秀夫先生にあるため、学会報告などに引用される際は「そがわ医院(香川県)」までお問い合わせください。