もくじ
マイナ保険証の薬剤情報があればお薬手帳は不要なの?
マイナ保険証で「資格情報を確認し、薬剤情報等の取得に同意」するので、お薬手帳を持ってこない・お薬手帳は不要ではないかという方がいます。一方で、マイナ保険証による薬剤情報は「マイナ保険証制度の導入時」に約1カ月前までの情報しか反映できないことが問題になっていましたが、現在もこの点は変わりありません。

 クリニックなど医療機関を受診される場合には、過去の薬剤情報を医師が容易に確認しやすい「紙のお薬手帳」を必ず持参するように当院ではお勧めしております。
お薬手帳アプリのみを使っている方は、少なくとも待合室で待っているあいだに、診察時にすぐにスタッフ/医師に内容を提示できるように前もってご準備をお願い申し上げます。
マイナ保険証の薬剤情報のメリットとデメリット
厚生労働省の公式見解でのマイナ保険証受付のメリット
 初めて受診する医療機関・薬局でも、患者本人が情報提供に同意すれば、(おひとりずつ大変時間が掛かってしまうものの・・・)医師・薬剤師がデータ(過去1カ月以前に限る)を確認することができるため、(限定的な)より良い医療が受けられます。・・・となっております。
※括弧内は著者注
 たしかに、薬局などで過去のなるべく多くの薬剤情報を時間が掛かってもきちんと得たい場合には、「紙のお薬手帳のみでなく、お薬手帳アプリやマイナ保険証の薬剤情報」など様々な情報源があったほうが良い場合もあります。
 クリニック等に於いても、マイナ利用率が35%を超えてきた現在、マイナ保険証受付を行うと「紙の保険証がなくとも資格情報が電子カルテにほぼ自動で紐付く」ため、受付スタッフの事務作業の負担軽減になっています。
 一方で、紙の保険証・資格確認証・マイナ保険証・紙での資格情報等々で、「資格確認方法が複数」になってしまったと云う点で、受付事務の負担はやや煩雑化しています。
厚生労働省などによる政府の見解をみていくと、マイナ保険証の薬剤情報は、「重複投薬の防止・飲み合わせの確認」などによって最適な医療の提供を受けることができるとあります。また、緊急時に救急隊などがマイナ保険証の薬剤情報を参照することでお薬手帳がなくとも、適切な医療が受けられると宣伝されています。

マイナ保険証・薬剤情報のデメリット
医療機関でマイナ保険証受付を行い、「薬剤情報に同意」した場合は、電子カルテ等と連携し薬剤情報を閲覧することができます。
- 但し、現在のネットワーク環境では取得閲覧までに大変時間が掛かってしまい、その分だけ診療時間が遅延して他の患者さんをお待たせしてしまいます。過去5年分の情報を閲覧可能とされますが、もし5年分をモニター上から確認したら非常に長時間の手間が必要となってしまいます。一方、紙のお薬手帳であれば、10秒少しの一瞬で必要な情報のチェックが可能です。
 - 過去のお薬情報取得にお時間が掛かり過ぎてしまうと、肝心な疾患の診察・診断にお時間が取れなくなってしまう可能性があります。また、「お薬手帳をきちんと持ってこない」ことで、医師に「この患者さんは本当に困っていないのだな・・・」という印象を持たれてしまいます。
 - 一番大切なことは直近1カ月の薬剤情報は見られないことです。すなわち、普段お掛かりになっているいつものお薬(常用薬)は確認できるのですが、今まさに他の病院/クリニックにお掛かりなり治らずにお困りになって来院された方に於いては、直近1カ月以内の薬剤情報は閲覧することが不可能なのです。
 - 普段、病院に掛かりお薬を飲んでいる常用薬がある方ほど、きちんと「お薬手帳を持参する」ことが多い現状から考えると、マイナ保険証の薬剤情報はほとんど役に立っていないのです。
 - 一方で、お薬手帳にきちんと記録を残していない患者さんも稀にいます。その場合は、お時間が掛かってしまいますが、1カ月以上前の投薬情報が参考になる場合もあります。
 

以上のように、マイナ保険証の薬剤情報で確認できるのは、「過去1カ月以上前のデータ」のみです。リアルタイムでの薬剤情報を取得出来るように、国は「電子処方箋」というシステムを作りましたが、実際にはクリニックでの利用率は5%以下で、病院等を含めても15%に満たない状態で未だ普及は進んでいません。
マイナ保険証毎回提示なぜ・薬剤情報に同意しないとどうなる?
医療機関における資格情報の確認のため医師法および関連法案で、①紙の保険証(令和7年12月以降は資格確認書)を毎月初めに提示・確認することが必要となっており、②マイナ保険証では毎回受付で提示し、機器をつかったオンラインでの資格確認が必要とされています。
マイナ保険証ではめんどくさいと思われますが、「医療機関受診時の毎回確認」が健康保険法施行規則で定められております。かつ診療・薬剤情報の取得に受診のたびに毎回同意する必要があるため、通院のたびに提示・同意して頂く事になっております。
なお、マイナ保険証を資格確認のみにお使いになり、診療/薬剤情報取得に同意しないと電子カルテ上で過去1カ月以上前の診療情報がみられなくなるだけであり、ちゃんと「紙のお薬手帳」を持参していただければ、あまりデメリットや不都合はありません。
マイナ保険証・薬剤情報の反映はいつからですか?
 マイナ保険証の薬剤情報データは、毎月の月初め10日までに社会保険支払基金/国民保険団体連合会にオンライン請求で月毎にまとめて送られるレセプトデータが元となっております。各医療機関からの診療報酬明細(レセプト)データが元となっているため正確性が高いのが特徴です。
 また、薬剤情報データの閲覧期間も過去5年間となり古い情報をくまなく見るときには役立ちます。
 一方で、レセプトデータは「月遅れ」になってしまうのが最大の欠点となっています。データが反映されるのは最短で翌月の11日とされており、遅いと14~15日位にマイナ保険証の薬剤情報に反映されます。
 過去にデジタル大臣が1カ月遅れと言っていましたが、正確には翌月の14~15日に医療機関を受診すると最短2週遅れのデータが閲覧可能です。一方で、受診時期によってデータが反映されていないと最大で45日ほど前のデータにしかアクセス出来ません。
すなわち、現在治療中でお困りの薬剤情報はみられないという事がマイナ保険証/薬剤情報の最大の欠点であり、紙のお薬手帳との併用が最良の選択であると考えられます。
なお、クリニックに於けるお薬手帳アプリの閲覧性は最悪であり、①データが薬局で管理され医療機関に連携されてない、②狭い画面で視認性が不良で事実上、1-2回分の処方しか確認不可能であり、ご自身の薬剤管理のメモ替わりと考えておきましょう。

★紙のお薬手帳=今まさに発行されている最新のデータ・文献を図書館でみる行為と同じ
★マイナ保険証の薬剤情報=最新データでは不足するので図書館の地下室で古い文献を探すのと同じ
まとめ
やはり紙のお薬手帳の閲覧性・利便性に勝るものはない!
紙のお薬手帳は、全国に普及しており対応していない薬局はないといっても良いでしょう。お薬手帳アプリも紙のお薬手帳も、医療機関から発行された処方箋を元に作成されており、実際に処方されたお薬であるという点からも正確性は問題ないと思われます。
一方、お薬手帳アプリになってしまうと「アプリの仕様毎に記載方法が違っている場合」も多く、医療機関への正確な情報提供・視認性という点で問題を残してしまっております。なお、お薬手帳アプリとマイナ保険証/薬剤情報は、情報源が異なるため、基本的には同じ情報のはずなのですが直接的に連携はしているわけではありません。

 紙のお薬手帳にも、①シールの貼り忘れ、②古い情報が別冊になってしまうなどの欠点があるのですが、一番新しい薬剤情報を正確に医療機関に伝えるという意味では、未だに「最良の薬剤情報提供の手段」であることには変わりありません。
 マイナ保険証/薬剤情報は、過去約1カ月以上前という制約があるものの、紙のお薬手帳で記録が不可能な過去の情報をくまなく確認する手段としての有用性があると云えるでしょう。
							
											
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                        
                

