ヒルドイド先発品・保険適用外いつから?

 202410月からの保険改正として、厚生労働省は「発売より10年が経過して特許が切れた先発品」のうち、「後発品発売より5年経過したもの、あるいは後発品への置き換えが5割を超えたもの」自己負担額を引き挙げることとなりました。具体的には、各種ヒルドイドを含めた「約1000種類の薬剤が対象」となります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39830.html

 これは、「従来、全国民が平等に医療を受けられる」という「健康保険制度の原則に反する」ことになりますが、「病院の差額ベッドや選定療養制度」と同じく、「贅沢品であるとの理由」により自己負担が増えるという理屈となっております。先発品を選ぶということは、「国はもう贅沢品と同じ」と考えているのです。

ヒルドイド先発品の負担増とならない要件は?

 一方で、先発品選択による自己負担増には、「国民からの反発を予想し除外規定」が設けられており、

  • 患者さんが病院等でジェネリックを希望しないこと
  • 先発品処方が患者希望でなく、医師が治療上、先発品の使用を必要と認めた場合
  • 処方箋の薬剤名が「先発品名」となっており、かつ後発品への変更不可に✔(チェック)がつくこと
  • 患者さんが調剤薬局で、後発品を希望せず「先発品を選択」すること

などの条件を全て満たした場合には、「先発品を選んでも自己負担は生じない」ことになっております。

 なお、処方薬を全てジェネリック品(後発品)もしくは一般名処方を行っているクリニック・病院に掛かった場合には、令和6年10月以降には「先発品選択による自己負担増」が必ず発生しますので、ご注意ください。

当院に通院されている方へのご注意
 当院に通院されている方で、今回の改正で注意が必要な方は「ジェネリック医薬品をご希望」されており、かつ「薬局にて先発品であるヒルドイドソフト軟膏・ヒルドイドクリーム・ヒルドイドローション・ヒルドイドフォームを選択されている方となります。

※とくにヒルドイド類を多め(200g以上)に処方されている方では薬局での自己負担額が令和6年10月より有意に増えますので、受診時に自己申告をお願い申し上げます。

 

ヒルドイド先発品とは?

 ヒルドイドは元来60年以上も前に、ドイツで開発されたお薬です。主成分は「ヘパリン類似物質という薬効成分」が含まれており、局所の血液のめぐりを良くする作用が期待され、元来は「しもやけ、傷跡、瘢痕、筋肉痛、腱鞘炎、注射後のしこり、血腫」などの保険適応を持っています。一方で、ヘパリン類似物質には多くの親水基を持ち合わせるため90年代以降に「皮脂欠乏症の適応」が追加され、角質水分保持増強作用があることから皮膚科領域で「いわゆる保湿剤」として広く使われるようになってきました。

https://www.maruho.co.jp/about/corporate/history/

 

 当初は、「チモールという芳香成分が配合されているヒルドイドクリーム」という1種類しかなかったのですが、90年代以降「ヒルドイドソフト軟膏、ローション、フォーム」と新しい剤形が加わりました。さらにオリジナルである元来のヒルドイドクリームも「チモールを抜いた無臭タイプ」のものに変更され、皮膚科の中では「特にすぐれた保湿作用・角質層修復作用のある外用剤」として評価されています。

 一方で、2000年代に入ると医療費抑制政策の一環として、「ヒルドイドを初めとする先発品の利用率」を下げ、より安価である「特許のきれた後発品(ジェネリック=ヘパリン類似物質各種外用剤)」の使用率を増やそうと国は様々な施策をとってきました。一般的に先発品の薬価に対して、後発品の薬価は2~3割程度に抑えられており、「後発品の使用率」を上げて薬剤費を抑えることが医療費全体の抑制に有効と考えているのです。

 

ヒルドイド保険適用の値段と自己負担額は?

 現在(令和67月)、先発品であるヒルドイドソフト軟膏の薬価はグラム当たり18.5円となっております。一方で、後発品の代表選手であるヘパリン類似物質油性クリーム0.3%「日医工」ではグラム当たり4円となり、先発品の約22%の価格が付けられております。

 後発品の薬価にも3.25.6円と開きがありますが、例えとして上記それぞれ100gあたりで、①ヒルドイド1850円、②後発品400円となり、3割負担での自己負担額は555円/120円(差額435円)となります。今回の改正では、18504001450円(後発品との差額)のうち、4分の1に相当する額362.5円が追加の自己負担額となります。

 300円少しと許容出来る差額とも思われがちですが、ヒルドイドは皮膚科では頻用される「保湿剤」であり、必要な方で300g程度処方すると「1087.5円の差額」、400g処方すると「1450円の差額」となります。

※以上の薬剤費の計算は9月初めの段階で判明しているデータを元にしております。10月以降の薬局での計算方法と若干の差がある可能性があることをご了承下さい。

 

 ヒルドイドの先発品が、すべて保険適応外となったわけではありませんが、「先発品と後発品の薬価差が比較的大きい薬剤」の一つであることに加え、アトピー性皮膚炎などで月に300400g近く処方されるケースでは毎月の負担増は、保湿剤が必須な患者さんにとっては「かなりの痛手」となります。

※ただし、医師が治療上必要と認めた場合には自己負担は生じません。

コラム

 今回の先発品との差額の自己負担増は、ヒルドイドを狙い撃ちしたものではないとは思いますが、特許の切れた長期収載品では先発品であってもかなり薬価が抑えられているものもあります。例えば、皮膚科領域ですと先発品のアレグラとオーソライズドジェネリックであるフェキソフェナジン塩酸塩「SANIK」(先発品と原材料・製造方法ともに全く同じ後発品)の値段差は2円+α程で、先発品薬価がかなり抑えられており、価格差はほぼないと云っても良いでしょう。さらに、外用剤ですと「リンデロンVG軟膏とデルモゾールG軟膏」や「アンテベート軟膏とサレックス軟膏」など先発品と後発品の薬価が全く同一の薬剤すらあります。

 一方で外用剤の中でも、「ヒルドイドや湿布薬などでは先発/後発の薬価差が比較的大きく」、かつ多めの処方量ですとその価格差もかなり大きくなってきてしまうことを財務省が問題と考えているのです。このあたりの価格差の「一部代金を受益者負担」との考えで、先発品を選択した患者さんにご負担いただこうと国は考えているようです。

医師からの一言
※薬剤師会のアンケートでは、後発品への変更を行いにくい外用剤の第一位がヒルドイド!じつは、今回の自己負担増の改正では様々な条件をつけて「名指しはされていないがヒルドイドが狙い撃ち」された形となっている。

 

子供であっても医師が必要と認めないと保険適用外の自己負担が生じる

 東京都内においては、「乳幼児医療費の助成(マル乳)、義務教育就学児医療費の助成(マル子)、高校生等医療費の助成(マル青)」等のお子さん~中学生・高校生までに対しての医療費助成が行われており、クリニック等に掛かったときや薬局においても実質医療費がかかりません。

 医療費負担がないということは、調剤薬局にいったときに、先発品と後発医薬品との差額も存在せず、ついつい信頼性のある先発品を選びがちという傾向がありました。

 今回の保険改正では、今まで医療費の自己負担がなかった方々にも、先発品と後発医薬品との差額の一部を贅沢品との名目で「選定療養費を負担してもらうこと」に国が制度を変えてしまったことが問題点です。

 即ち、医師が治療上必要と認めない場合には、今まで医療費が無料であったお子さんでも、もれなく先発品であるヒルドイドを薬局で選択すると「選定療養費である自己負担」が生じてしまうのです。

※後発品を選択すると、今までどおり自己負担額は生じません。

ヒルドイド先発品の負担増となった経緯について

 皮膚科で「皮脂欠乏症の適応」を取得してひろく保湿剤として使われていたヒルドイドですが、2014年前後から個人のブログ・SNSなどで「美容液の替わりに使うと良い」との口コミがインターネットで広がり、アトピー性皮膚炎以外の患者さんにおいても、本来ヒルドイドが必要のないものに大量に処方されるケースがあり問題視されるようになりました。2014年から2015年に掛けてのヒルドイドの処方増は、金額ベースで60億円医療費を増額させたとの試算もあります。さらに、国が調べた統計によると一部の医療機関においてヒルドイドを一度の処方で50本(=1250グラム)以上使われたケースもあったそうです。

 その当時、国は美容液替わりのヒルドイドの処方増を問題視し、保険適応から「ヒルドイドを外す議論」まで巻き起こしました。健康保険組合連合会からは、「保湿剤処方の適正化」に関する政策提言が出されましたが、日本皮膚科学会では「ヒルドイドの保険外し(処方制限)」に反対する要望書を厚生労働大臣、日本医師会、健康保険組合連合会に提出し、皮膚科学会会員には、「公的医療保険制度に則った適切な診療」を行うように勧告を行っています。

ヒルドイド先発品の美容目的の処方はNGです

 現在もヒルドイド類の「美容目的の処方はNG行為」であり、当院においても対応いたしかねます。あくまで、アトピー性皮膚炎などでの保湿が必要な患者さんに対して必要量を処方する形となります。なかには、「家族も使うから多く処方してくれ」とのご希望をおっしゃる患者さんもおりますが、あくまで処方されるのは「受診された患者さんに必要な量のみ」であり、保険適応となる分量もおおよそ1カ月で必要な分のみとなります。

 当院にはアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患でお掛かりの方も多くご来院されております。ワセリンのみや市販の保湿で良好な方もいる一方で、尿素軟膏などの他の保湿では肌に合わず「先発品のヒルドイドの方が調子がよい」という方もいるのも事実となります。とくに、オリジナルのヒルドイドである「ヒルドイドクリーム」と同等の品質の後発医薬品は未だに存在しません。

 今回の事象を振り返りますと、2014年頃に「ヒルドイドを美容液替わりに使うと良い」という情報発信をしてしまった我々消費者側にも根本原因があったことは事実です。近年、ネットや個人のSNSなどで政策を批判することによって国の政策が変わってしまうことさえあり、私たちは自身の発信する情報・言葉に責任をもたなければなりません。

 さらにこのような口コミが広まった原因として、インターネットがはじまり20年足らずの当時も「検索エンジンの主流」は現在と同じGoogleだったことが挙げられます。Google検索も年々改良されてきてはいたのですが、2014年の段階では「健康や医療に関すること」は誰が発信した情報であっても、ネット検索に載ってしまう時代でした。そのため、ヒルドイドを美容液替わりにという情報もまたたく間に拡散してしまったものと思われます。

 近年Google「健康・医療・金融など」、私たちの生活・幸福・人生などの安全性に大きな影響を与えるジャンル(YLYM;Your money or Your lifeの略)については、個人のブログより「政府、大企業、医療機関、医師など」から提供されたものをより信頼性の高いものと判断し近年は上位表示するようになってきました(医療健康アップデート;2017)。

 さらに、ページを記述した著者のE-A-T(Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性))を加味したコアアップデートを2020年に行っています。これによって個人の発信する医療、健康に関する情報は、Googleから余程信頼されないと現在上位に表示しないようになってきています。

※参考サイト(全日本SEO協会)
 https://www.web-planners.net/knowledge/ymyl.php

ヒルドイド先発品に処方制限はあるの?

 ヒルドイドの処方量については明確な基準が示されていないものの、都内においては皮膚科医院では、おおよそ月400g程度が最大量(皮膚科で治療上の必要性ありと認められた場合)と云われております。一方、他科では処方の上限の目安は200g程度までのようです。

 処方量の上限は、地域によって多少の差があるようで、7才未満のお子さんで1回処方を150g以下、7才以上で1回処方を300g以下としているところもあるようです。複数回受診した場合のあきらかな上限は示されていないものの常識的な範囲を守る必要はありそうです。

 ヒルドイド使用量の根拠として、マルホからは3-5才で1日1回全身塗布したところ250g程度、6-10才で330g程度、成人では560g必要だとのデータも出されています。実際に本当に全身に塗布する必要がある場合は、稀とも考えられ月560gは厳しいと考えられます。

※ヒルドイドの使用量の目安(マルホ)
https://www.maruho.co.jp/medical/articles/hirudoid/howto/guideline.html

※先発品不可以外の処方箋をもらうとヒルドイド(先発品)400gで約1400円+αの自己負担が生じます

ヒルドイド先発品の代替えとなる後発品は?

 では、先発品であるヒルドイドの替わりとなるものはあるのでしょうか?以下に候補を挙げさせていただきます。

・ヒルドイドソフト軟膏
⇒ヘパリン類似物質日医工 油性クリーム

・ヒルドイドローション
⇒ヘパリン類似物質ローション「NIT」

 ヒルドイドソフト軟膏よりも、さっぱり目を希望の方は「ヘパリン類似物質日医工クリーム」もさらっとした塗り心地でお勧めです。従来は、ヒルドイドローションの替わりになるものは、乳液ではなく「完全な液体状のジェネリック」しかありませんでした。令和66月より日東メデックさんより上記の製品が発売され、かなり先発品のヒルドイドローションに近い質感となっております。

 ヒルドイドクリームはオリジナルであるヒルドイドの組成とほぼ同様の基剤で作られており、都内大学病院皮膚科の名誉教授の講演会にて、①正常角質層の再形成作用、②皮膚付属器である汗腺および汗管の再生作用があり、現在主流である「ヒルドイドソフト軟膏よりも優れていること」が報告されています。

※当院では手荒れやにきびの保湿剤としてヒルドイドクリームを推奨してます。ヒルドイドクリームを処方された方は薬局でジェネリック医薬品に変えてしまうと期待される効果が出ない可能性あります。ヒルドイドクリームは先発品を選びましょう。

まとめ

 今回のヒルドイドの自己負担増に関して皮膚科学会は何も声明はだしていません(令和67月現在)。基本的な事柄として、国は超高齢化社会を迎えるにあたり、「なんとか現在の国民皆保険制度を維持」していこうと頑張っているのです。健康保険制度では、超高額な手術手技・高額薬剤などもあることも問題で有り、誰がどのように増え続ける医療費を平等に負担していくか?・・・という課題が常に存在するのです。

 後発医薬品には、①原材料のほとんどが中国・韓国・インド製であり、②薬価が極限まで抑えられており安定供給が出来ていない、③一部の医薬品では先発品ほど安定した効果が期待できない、などの様々な問題を残しています。一方で現在、後発品の使用率が8割(金額ベースで6割弱)を超えて頭打ちになる中で先発品を選んだ方々に自己負担をしていただこうということになったようです。

 今後、財務省が主導して、薬局などでOTCが販売されている医薬品を全て保険給付対象より外してしまうという案もあります。また、今回の自己負担額は差額の25%ですが、今後は50%⇒75%⇒100%と増えてくる可能性も否定できない状態です。

 製薬会社は、いくら良い製品を作ろうと「薬剤の特許が切れる10年目」を境に後発品が次々と販売され、かつ後発品との差額がほぼなくなってしまうために、企業として生き残るためには常に新薬を開発する必要が生じます。

 また、皮膚科医はヒルドイド処方以外の価値を提供していかないと、今後は生き残れない時代になったと云えるでしょう。ステロイド外用剤、抗菌剤、水虫薬のほとんどは市販化が進んでおり、皮膚科医の存在価値は、どのような診断でどの薬を使うべきかの見立て、および魚の目、いぼ治療、巻き爪など処置が必要な疾患に対する「治療技術での差別化」を行っていくことと、当院では考えております。

当院からのお願い
 国は、薬局で先発品を選択した患者さんの自己負担を増やすだけでなく、クリニックで先発品を「医師が必要として処方」した場合の事務負担も増やそうとしています。医院からの処方箋で「選択式コメントというコード」各薬剤毎に理由をつけて処方箋を出す必要があるのです。
 しかも、本原稿を執筆段階の9月22日現在で、電子カルテシステムの更新も行われておらず10月にあと1週足らずで情報がない状態です。お手数をお掛けしますが、10月以降も先発品ヒルドイドを必要とする方(医師が先発品が必要である判断が必要)は診察時に自己申告いただけますと助かります

選択式コメントを入れない処方箋では、薬局での自己負担が生じますのでご注意ください。

 

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