もくじ
にきび治療で使われるお薬について
ニキビ治療薬については我が国では、従来はイオウ製剤、抗菌剤などしか従来選択肢がありませんでした。
2010年頃より、世界的な“ざ瘡標準治療薬”である①アダパレン、②過酸化ベンゾイル製剤が順次導入され、皮膚科学会においても「尋常性ざ瘡治療ガイドライン2016」が作成されました。
以下に、ニキビを治すために推奨されるお薬・治療法を、上記ガイドラインから抜粋してわかりやすくまとめてみました。
過去の文献での効果が証明されている順位となります。
A;強く推奨、B;行うよう推奨、C1;選択肢の一つとして推奨、C2;推奨できない、D;推奨しない
にきび治療外用薬について
外用抗菌剤
- ダラシンゲル・ローション(A)
- アクアチムクリーム・ローション(A)
- ゼビアックスローション(A)
以上の3つの外用抗菌剤が保険適応として用いることができます。特にゼビアックスは、1日1回での効果がありゲル状でさっぱりしているのが特徴です。ただし、抗菌剤外用は炎症性皮疹には効果がありますが、面皰(コメド)自体の改善効果はなく、以下のコメド治療薬も併用する必要があります。
抗菌外用剤の連用は、薬剤耐性菌の発生が報告されており、特にヨーロッパでは4割近くのアクネ菌がクリンダマイシン耐性になっているとの報告があります。他科の医師より、ゲンタシン・フラジオマイシンなどが処方されることもあるようですが、ざ瘡に保険適応がなく、有用性も検討が十分されていません。
コメドの治療薬
①デュアックゲル(A)
クリンダマイシン1%・過酸化ベンゾイル3%の配合剤です。両者ともにP.acnesに対する抗菌力があり、クリンダマイシンには抗炎症効果も期待できます。海外での良質な文献が多く有り、強く推奨されています。当院でも、炎症性皮疹を伴うにきびに、ファーストチョイスとなっております。有害事象として、まれに顔面の紅斑、浮腫、かぶれなどがあります。一方、長期連用に関しては、クリンダマイシンの薬剤耐性の可能性があり推奨されていません。
従来日本では、過酸化ベンゾイルは歯科の補綴剤に使われてあり、薬剤に対して感作されている方(かぶれが起きやすい状態)が稀にいます。もしも、1,2回つかった後につよい赤みがでる場合は使用を中止して早めに掛かり付けの皮膚科にいきましょう。
②ディフェリンゲル(アダパレン)(A)
主にコメド(面皰)の治療に高い有効性があります。毛穴の角化を正常化(角化を抑制)し、新しいコメド(面皰)の形成を抑えます。直接的な抗炎症作用も期待できます。
炎症のつよい場合は、抗菌剤外用・内服を併用します。維持療法として継続使用も可能です。感染傾向をもった炎症性皮疹に対しては、アダパレン+抗菌剤の併用が強く推奨されています。
副作用は、かさつき、赤み、乾燥などですが、保湿剤と併用することで発生頻度は軽くなり使用中止になることはほとんどありません。
③ベピオゲル(A)
過酸化ベンゾイル製剤(BPO)は、強い酸化作用があり、フリーラジカルが P.acnes に対して殺菌的に作用します。また、毛孔入り口の異常角化を除去(角質剥離作用)する作用があります。現在のところ、耐性菌は見つかって折らず、耐性菌を作らない抗菌作用をもつ薬との位置づけであり、寛解維持期での治療にも推奨されています。
日本では2.5%製剤が用いられますが、過去の文献よりこれ以上濃度を濃くしても有効性に差がなく、10%製剤では副作用(乾燥・あかみ・かぶれ)が強くなることから、5%以下がのぞましいとされています。
④エピデュオゲル
上記のアダパレン(ビタミンA製剤=ディフェリン)・過酸化ベンゾイル製剤(BPO)は、中等症~重症のにきびに併用して使用することが可能です。それぞれ、違った作用機序(①角化抑制+②角化除去)にて、面皰を改善するため相乗効果が期待できます。ただし、乾燥・赤みなどの副作用・刺激もでやすいため、肌の状態をきちんと診断して使っていくことが大切になります。
2016年当時は、両者の合剤は承認されていませんでしたが、エピデュオ(アダパレン+BPO)が、現在日本でも承認されて使えるようになりました。海外の臨床試験でも2剤の配合剤であるエピデュオは高い効果が認められています。最重症の面皰にも改善効果が期待できます。
大人にきびの女性は、8割以上の方が「乾燥肌」であったとの統計もあります。ガイドラインには載っていませんが、肌の乾燥が「毛穴の角化の一因」と考えられています。上記のコメド治療薬は「毛孔の角化を抑制・除去する作用」があり、保湿剤をしっかりつかっていくことで、
- 面皰形成の予防
- コメド治療薬の副作用の軽減
につながると考えられます。皮膚科で処方できる保湿剤には、ヒルドイド・ビーソフテン(ともにヘパリン類似物質)の2種類があります。
◆患者さんからの質問コーナー◆
Q;過酸化ベンゾイル(BPO)製剤であるベピオ・デュアック・エピデュオは熱によって分解されるため、冷所保存となっています。忘れてしまって、1日常温に置きっぱなしにしてしまった場合は使えるでしょうか?
A;メーカーからの情報によると、①ベピオゲルを30℃/12か月の保存期間で品質変化なし。40℃/6ヶ月で顕著な含量の低下を認めた、②エピデュオゲルを25℃/18ヶ月、30℃/12ヶ月の安定化試験で品質変化なし、③デュアックゲルを2~8℃/36ヶ月、25℃/6ヶ月で品質変化なし、とのことです。この結果からBPO製剤を1日おもてに置きっぱなしにしても、真夏や日が当たって暑くなる場所でなければ使用できると考えられます。もしも、使い続けて効果が見られない場合は、新しいものに取り替えた方が良いでしょう。
その他の外用療法の有効性
非ステロイド外用剤(C1)
消炎剤の外用において、イブプロフェンピコノールクリームが炎症性皮疹(軽症~中等症)に対して検討されていますが、基剤に比べて有意差をもって改善したとの報告があります。選択肢の一つとして推奨されます。
ステロイド外用剤(C2)
海外での比較試験で、炎症性皮疹が改善する根拠がないとされます。ただし、実際の臨床では、ニキビもあるが痒みがある場合や、アトピー性皮膚炎にコメドが合併している場合もあります。患者さんの状態に合わせて、ステロイド外用剤も部分的に、慎重に用いる必要性があると当院では考えています。
アゼライン酸(C1)
小麦などの穀物・酵母にふくまれる飽和ジカルボン酸です。異常角化抑制や抗菌・皮脂抑制効果があります。本邦では、化粧品の含有成分として認められているが、保険適応外で医薬品としては未承認です。
ビタミンC外用(C1)
炎症皮疹、炎症後の紅斑にビタミンC(VC)誘導体外用が推奨される。炎症後の紅斑に選択肢の一つであり有意に炎症後の紅斑を改善したとの報告があります。当院では、常磐薬品の院内製剤「ビタミンCローション」のお取り扱いがあります。保険適応外となります。
イオウ製剤(C1)
イオウ製剤には、脱脂作用・角質剥離作用があるとされ保険適応があります。大規模な臨床試験は行われていませんが、従来行われて来た治療で選択肢の一つとして推奨されます。
にきび治療の内服薬について
内服抗菌剤
中等症以上の炎症性皮疹があるざ瘡に用いられます。
- 推奨度A;ミノマイシン、ビブラマイシン
- 推奨度B;ルリッド、ファロム
- 推奨度C1;エリスロマイシン、クラビット、クラリス、オラセフなど
ざ瘡の炎症には、ニキビ菌(アクネ菌=P. acnes)にたいする対策が大切となります。細菌に対する感受性(お薬の効果)に加えて、抗炎症効果を期待して、テトラサイクリン系・マクロライド系が用いられることが多いです。ファロムに対しても改善効果の報告があります。ただし、ミノマイシンは人によって「めまい」などの副作用がでるもあり注意が必要です。
一方、炎症性皮疹に対して内服抗菌薬は強く推奨されますが、薬剤耐性菌の発生を防ぐために長期の使用は控えた方がよいとされます。おおむね、3ヶ月以内までとして、ガイドラインでは、過酸化ベンゾイル製剤・アダパレンとの併用・外用維持療法への移行が推奨されています。
その他の内服治療
漢方薬〔十味敗毒湯など〕(C1)
炎症性皮疹が長引いてしまい他の療法が無効、あるいは実施出来ない場合の選択肢として推奨されています。西洋的な現代医療では、「炎症=細菌感染」に対して抗菌剤をメインに治療をおこなう方針ですが、抗菌剤内服を長く使い続けると「薬剤耐性菌の発生」が問題となります。
しかし、「ニキビの悪化」には、①赤みのある毛穴で様々な炎症炎症反応が起きていること、②炎症が悪化する方では長期に繰り返すこと、③化膿しやすいという体質的な側面、などがあることから、「耐性菌の発生リスクのある抗菌剤」よりも、当院では漢方薬による細菌感染抑制・炎症の改善をおすすめしています。
- 面皰が少なく、炎症による赤み・化膿がメインの方
- 外用療法+抗菌剤のみでは、炎症が繰り返す方
などには漢方による体質改善が効果的であると考えます。
ビタミン剤内服(C2)
行っても良いが、おすすめされていません。ビタミンB2,B6,E,Cなどが用いられることがあります。B群は、皮脂分泌抑制を、Eは過酸化脂質の抑制などの効果が考えられるが、有効性を確立するための臨床試験はおこなわれていなく根拠がないとされています。
当院からビタミン剤の処方をお勧めすることはありませんが、他医でもらっていた、内服を希望する方には処方をさせていただております。ご希望がありましたら問診票にお書き下さい。
経口避妊薬(ピル)(C2)
保険適応外です。血栓、不正性器出血などのリスク、避妊を容認できる場合にかぎられます。ガイドラインでは推奨されていません。海外での有効との報告があるが、婦人科医師のもと、「経口避妊薬ガイドライン」に基づき、インフォームド・コンセントをえた上での使用をおこなってもよいとされます。
ステロイド内服・消炎鎮痛剤内服・DDS内服(C2)
海外ではステロイド内服を推奨するガイドラインもありますが、内服によりざ瘡が悪化する副作用も知られており推奨されない。同じく、消炎剤内服・DDS内服も推奨されていません。
その他の治療法は?
保険診療で出来ること
面皰圧出(C1)
貯留した皮脂、炎症性皮疹においては膿を排出する手技です。有効性をしめす臨床試験はないが、一般的に行われてきた確立した治療とされます。選択肢のひとつとして推奨されています。
ステロイド局所注射(B)
炎症を伴う硬結・嚢腫に対して、有効性があったという報告があり推奨されます。ただし、嚢腫外注射による皮膚萎縮性陥凹をきたすことがあります。海外では嚢腫に対してレチノイド内服が勧められていますが、日本では未承認です。
にきび跡がケロイド・肥厚性瘢痕状になってしまった場合の治療としても、ステロイド局所注射は確立した方法として推奨されます。肥厚性瘢痕については、リザベン(トラニラスト)内服をおこなうこともあります。
スキンケア・食事
洗顔(C1)
臨床試験でのエビデンスは不十分であるが、ざ瘡の発生機序から1日2回の洗顔が推奨されます。オイルクレンジングについても、悪化するという根拠がなく安全に使用できるメイク落としの候補となります。スクラブ入り洗顔や消毒剤・抗菌剤入のものは有効性が充分検討されていません。
ノンコメドジェニックな化粧品(C1)
油性の化粧品は、ざ瘡(コメド)の悪化につながるために避けます。一方、近年の化粧品はほぼ「ノンコメドジェニック対応」であるとの意見もあります。念のために購入時には確認をしたほうが良いでしょう。メイク・基礎化粧品を変更したことでざ瘡が改善したとの報告もあります。
食事指導・食事制限(C2)
特定の食べ物を一律に制限することはお勧めされていません。統計的な解析では、①チョコレート摂取、②砂糖、③牛乳、での明かな悪化は証明されていません。乳酸菌・ラクトフェリン摂取や魚油のサプリでの改善があったとの報告もあります。極端な偏食をさけて、バランスの良い食事を心がけましょう。
にきびの発生・細菌感染には、体調・季節変動なども関係すると当院では考えます。体調の自己管理・ストレス軽減に加え、睡眠・適度な運動・バランスの取れた食生活が治療の基本となります。
美容医療で行えること
ヒアルロン酸注入(C2)
ニキビの陥凹瘢痕に対して、行っても良いが推奨はされていません。
ケミカルピーリング〔グリコール酸、サリチル酸マグコロール〕(C1)
標準療法が無効な場合に上記の2つが推奨されます。ただし、保険適応外であることに注意します。海外では、ホームケアとしての有効性が報告されおり、市販品では、各種のピーリング石鹸が出回っています。
現在のメインとなっているコメド治療薬(アダパレン・過酸化ベンゾイル製剤)が使えない過去には良く行われていた治療です。現在、日本でも海外標準のデュアック、ディフェリンなどが使える様になってから、ピーリング(自費治療)を行う必要性はほとんどなくなりました。
レーザー治療(C2)
各種レーザー治療器機の特性を理解した上で、ざ瘡およびざ瘡瘢痕に行っても良い。赤外線レーザー・ダイレーザー・RF(ラジオ波)などが用いられることがある。フラクショナルCO2レーザーが難治性の陥凹性瘢痕に試みて良いが、本邦でのエビデンスが不十分で推奨されていない。
光治療〔ブルーライト・光線力学療法〕(C2)
青色光線療法(ブルーライト)は、P. acnes の発生するポルフィリンに青色光をあてることで発生する活性酸素により、アクネ菌を殺菌します。光線力学療法は、ポルフィリン前駆体のアミノレブリン酸を外用して、ポルフィリンの吸収帯を狙って光をあてる治療です。薬剤が薬事法未承認であることやアダパレンとの比較試験で有意差がなかったとの報告もあります。保険適応外であり、副作用や他療法との比較もなく推奨されません。
◆参考:尋常性ざ瘡治療ガイドライン2016
出典;https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/acne%20guideline.pdf