巻き爪・テーピングで治るのか?

 皮膚科にいくと良く指導される方法のひとつが「巻き爪テーピング」です。様々な巻き方がネットで検索できますが、本当に痛い巻き爪が治る方法ではありません。当院では、以前は巻き爪の治療法として時々お勧めしていた時期もありますが、現在では「巻き爪テーピング法」は当院では余りお勧めしていない方法となります。あくまで、爪郭部の皮膚の腫れが強い場合に「皮膚を引き下げるため」の補助療法の一つと考えているからです。

※なぜ巻き爪テーピングのみで、「巻き爪」が治ることがないかを「巻き爪手術・巻き爪矯正」を数多く行ってきた院長が説明していきたいと思います。

実は巻き爪テーピングは巻き爪が治るおすすめの方法ではなかった

 巻き爪のテーピング法には現在いくつかのバリエーションがあるようです。一方で、テーピングの目的は、「巻き爪に伴い腫れてしまった爪郭部皮膚」を引き下げて「爪」との当たりを和らげるためとなります。どちらかというと巻き爪より「陥入爪」に使われる手技であり、一部の巻き爪矯正院が「巻き爪」が治るといってしまっている以外、どこをみても「巻き爪の爪の巻き本体」を治せる治療法との記載はありません

 巻き爪に関する教科書をみていきますと、保存療法の一つとして矯正療法・コットンパックと伴に「巻き爪にとても効果的である」と述べているものもあります。さらに「足爪マイスターブック」のテーピング法の項目をみると、その担当著者である「新井」は、アンカーテーピング法は誰でも、何処でもできる簡単確実な治療法であると言い切ってしまっています。しかも、重症度に係わらずどの部位でも適応することができ、かつコットンパッキングやアクリルガター法との併用も効果的と述べています。

ポイント
 なぜテーピング法をするのか?どこに作用しているのか?など作用機序の理解が大切です。

テーピング法の我が国での報告はどうであったのか?

 新井先生は、アクリル固定ガター法やテーピングなどの陥入爪に対する保存療法を提唱してきた皮膚科医師であり、「陥入爪の簡単な保存的治療法」のなかでも「保存的治療により簡単かつ確実に治癒に導くことが可能」と明言し、23年間に451例を治癒に導いたとしています。この文献をみてテーピング療法やガター法などに熱心に取り組んだ医師も多かったのではないでしょうか?

 その著書の中で、「陥入爪(巻き爪)」に対して、新井らは「実際はテーピング法のみ」でなく、①局所麻酔を併用、②アクリル固定ガター法もしくはアクリル人工爪、③ソフラチュール挿入法、④超弾性ワイヤー・プラスチックブレイス、⑤爪アイロン法などさまざまな方法を併用し、陥入爪を治癒に導いたとしています。

 実は、新井先生は「451例は治った」とするものの、文献の中でうまく行かなかった症例や適応とならない場合については言及していません。巻き爪・陥入爪は全てが手術適応とはならず「保存療法」でもうまく行く場合があるのだということを、世に広めた功績は大変大きいのですが、「その限界や欠点」についても述べて欲しかったと思います。

 

巻き爪・テーピング法の原著はどうなっているの?

 陥入爪に対するテーピング法の原著としては、Nishiokaら(大阪医科大学)による「Taping for embedded  toenails(陥入爪に対するテーピング法)」が挙げられます。

 内容を要約すると「巻き爪は主に外科療法が行われて来た一部の症例では再発」してしまうこともあり、保存療法のひとつとして「テーピング法」が有用であった。炎症のある爪縁皮膚のギリギリに端に、「弾性テープ」を貼って、側爪郭を引き降ろすようにし、腹側から反対側の根元側へ固定をおこなう。その際に、指先中央にロール状にしたガーゼパッド(直径約5mm、長さ約20mm)を配置し、つま先に体重をかけると、爪外側の皮膚が横に引き降ろされるように工夫を行った。つま先が動きやすいように大きめの靴を履く指導も行った、としています。

 テーピングを行う期間としては、2ヶ月間は続けるように指導を行い、テーピングの交換は3~7日毎としました。陥入爪の患者さん12名に本法を行ったところ、1名の痛みに耐えきれない方を除き、11名で2~4週で痛みと腫れの改善がみられ、内2名の患者さんで再発が見られたとしています。その後、9名の患者さんは1~6ヶ月(平均22ヶ月)テーピングを継続しました。本法は陥入爪の治療としてやってみる価値のある方法である」と推奨しています。

 

巻き爪テーピング法の問題点

 以上の文献をみて気がついた方もいるかと思うのですが、「テーピング法」とは元来は陥入爪の症状を緩和させるための保存療法のひとつとして提案されたものです。2000年代以前は、巻き爪の正式病名が「陥入爪」であり、「あくまで巻き爪」は俗称であると考えられていました。海外では「巻き爪=pincer nail」、「陥入爪=ingrown nail」と分けられて記載がありましたが、日本の教科書に記載される際に「すべて陥入爪」という名称になってしまったようです。当方も医師に成り立ての頃の80年代後半には「陥入爪」という病名のみを教わりました。

 その名残があるのか、現在の様々なホームページ上で、「巻き爪と陥入爪」の用語の使い方に混乱が見られます。

巻き爪テーピング法の巻き方は?

巻き爪・陥入爪肉芽に対するテーピング法

 巻き爪・陥入爪に対するテーピングには、いくつかの巻き方の方法が提案されており、代表的な貼り方を以下に載せておきます。

 ※爪縁部のテープが剥がれてしまいやすいために、補助的にテープで補強する、瞬間接着剤で固定するなどの工夫が報告されています。

テーピングを行う意味について

 巻き爪を治すための保存療法アプローチには、

  1. 巻いてしまった爪を持ち上げる方法
  2. 巻いている爪と爪縁部の当たりを緩和する方法
  3. 盛り上がってしまった爪縁皮膚への刺激を抑える方法

の3つに分ける事ができ、巻き爪の状態に応じて適切に使い分けていく必要があります。

 巻き爪矯正は①に該当し、ガター法やコットンパッキングは②に該当する方法です。巻き爪に対するテーピング法は③に該当する方法であり、あくまで刺激によって腫れてしまった爪郭部の皮膚を引き下げることによって、「爪と皮膚との当たり」を緩和する手技となります。③に該当する方法には、他に「余裕のある大きめの靴を履く・当たりの悪い足趾の間にガーゼなどを丸めて挟む」などの方法もあります。

 確かに「腫れてしまって腫張した皮膚」を引き下げることは大切なのですが、テーピングを爪縁皮膚の余程ぎりぎりに張らないと効果が出にくくなります。テーピングを周囲の皮膚に張って引き下げることは「直接、爪を持ち上げる矯正法」や「爪縁と皮膚の当たりに直接アプローチできるガター法・コットンパック」に比べてどうしても効果が弱くなります。

 色々なタイプの巻き爪・陥入爪に本法を試したところ、効果は限定的と云わざるを得ず「他に有効そうな保存療法がない場合」や「腫張がつよく補助としてテーピング法」も併用した方が良さそうな場合に限定して当院では施行するようにしております。

 

巻き爪テーピングのメリット

 テーピング法のメリットは、忙しい皮膚科外来でも簡単に指導ができる保存療法であること、「巻き爪の巻き本体は治せない」が、当たってしまって腫れている爪縁の皮膚の炎症を多少でも軽減できる可能性のあることとなります。

 さらに、テーピング法については詳しくホームページで記載したクリニックも多く、患者さんが手近にある道具をつかって、効果が限定的であるにも係わらず「手軽に試すことができること」が大きなメリットと考えられます。

 巻いている爪は治さなくても、爪縁部の皮膚を引き降ろすことで改善を期待できる状態には、「テーピング法」を試す価値があるかもしれませんね。

巻き爪テーピングのデメリット

 テーピングは手軽にできる反面でいくつかのデメリットがあります。

  • 巻いている爪を根本的に治す方法ではないこと
  • テープが剥がれてしまい爪縁皮膚を十分に引き降ろせない
  • 毎日張り替えていると、かぶれ(接触性皮膚炎)が起きてしまい継続できない
  • テープを爪縁ぎりぎりまで貼ってしまうので外用剤・軟膏が塗りにくいこと
  • 患部を覆うためにガーゼ・テープを使うとテーピングの上に更にテープが付くこと
  • ご高齢の方だと自己管理が困難

 などがあります。

巻き爪テーピングの算定は?

 巻き爪にテーピングを貼ったのみですと、特に保険算定はできないものと思われます。但し、その上から軟膏処置やガーゼで被覆した場合には、覆った範囲に応じて創傷処置もしくは皮膚科軟膏処置が算定できるでしょう。

巻き爪テーピングの効果は限定的

 巻き爪に対するテーピング法以外の保存療法には、コットンパック法、ガター法なども用いられることがあります。巻き爪に対してテーピングを行う事は有効かつ確実な治療法であるとは言いがたく効果が限定的となっています。巻き爪治療・矯正療法を数多く行ってきた当院では、テーピング法を用いることが非常に稀になっております。

「爪のケア・治療」の中で齋藤(慶応大)は、これらの保存療法的な方法は「爪の側縁と軟部組織の直接接触」を回避、軽減させることで治癒をめざす方法で合理的であるが、しばしば治癒までに数週間を要し、完治に至らないケースも少なくないとしています。

 齋藤は続けて、その場合には外科的な治療法が選択されるとし、爪母温存爪甲側縁切除(いわゆる陥入爪手術(簡単なもの))を勧めています。矯正療法という選択枝がある現在、いきなり手術ということにはならないと思いますが、同じ皮膚科という診療科の中でもこのような意見がでてきてしまうということは、テーピング法の効果はあくまで補助的療法と考えられるでしょう。

 

巻き爪テーピング以外のおすすめは?

 それでは、テーピング法以外にどのような保存療法がおすすめされるのでしょうか?当院で外来にて良く行っている方法をいくつかご紹介しましょう。

  • 巻いている爪端の持ち上げ
  • 用手的な腫れている爪縁皮膚の引き降ろし
  • 爪縁まで爪脇を包むようコットンパッキング
  • 趾間部の当たりを緩和するように丸めたガーゼを挟む
  • つま先に余裕のある靴を選ぶ
  • サンダル履きにする

 などでほとんどの軽度の巻き爪・陥入爪が改善してきます。

 コットンパッキングに関しては以下の記事もご参考にされてください。

 

 実は、当院では陥入爪に対してもコットンパッキングでほとんどの方の治療を行っております。詳しいやり方は、今後また記事を執筆する予定です。

巻き爪を根本的に治すには矯正療法がよい

 以上の方法を用いて爪脇が見えても、「爪縁の巻き」が強く喰い込みが酷い場合には、「根本的に爪を挙上することができる巻き爪矯正」がお勧めです。

 テーピング法はあくまで、「爪の巻きが軽度」で周囲の皮膚が腫張してしまっている場合(陥入爪)の補助治療です。直接患部の当たりを改善するわけではなく、間接的に周囲から力を掛けて症状が改善したらという、ケアのひとつと考えた方がよいでしょう。

まとめ

 巻き爪テーピング法について、その方法や巻き方を解説したサイトは沢山ありますし、動画も各施術者の方が挙げています。今回は、テーピング法がどのような理屈で効果を出すのか?につき理論的な考察と文献上でどのような扱いになっているかにつき解説しました。

 巻き爪に対するテーピング法は、患者さん自身が手軽に試せる方法ですが、「軽度の陥入爪」に対する効果が期待できますが、高度の腫張や肉芽種・爪自体の巻きには単独では効果がないものと考えます。その場合には、局麻下のガター法・コットンパッキング・ワイヤー矯正などの併用療法が必要となるでしょう。

 

 ひとつの保存療法が「効果がない」からと云ってすぐに手術というのは待った方が良いと思います。巻き爪治療でがんばっている医療施設では様々な保存的な方法や矯正療法を工夫して、治しているものと考えます。
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