もくじ
陥入爪と巻き爪の違いとは何ですか?
陥入爪と巻き爪の違いとは、①陥入爪は爪端が側爪郭に喰い込んで「刺激によって肉芽に陥入する」さまを表し、②巻き爪とは、主として正常範囲より爪甲の弯曲が強くなり「正面からみて爪がくるりと巻く」さまを表します。
陥入爪と巻き爪の症状の違いとしては、「陥入爪では爪が肉芽を刺激すること」によって痛み・腫れ・赤みや排膿などが見られることが多く、慢性化すると爪端が浸軟しボロボロになって治癒が遷延化したり、肉芽への刺激が繰り返し爪郭部組織自体も数倍以上に腫れ上がってしまうことさえあります。
一方で「巻き爪」では爪甲自体が巻いてしまい「全体が巻く通常型・爪端だけが巻くステープル型・全体の巻きが高度の弯曲爪」などに分類されるものの、必ずしも痛み・炎症を伴うことがありません。高齢者などでは、くるりと180度以上巻いていても全く痛くない場合さえもあります。
陥入爪と巻き爪かどうかの判断方法の違いは?
陥入爪では「爪甲自体」があまり巻いていない場合が多く、「靴の圧迫や過度の運動・爪の切り損ない・細菌感染」などで爪郭部への刺激・炎症が起きた結果として「陥入爪の元となる肉芽腫」が発生します。患部を押すと必ず痛みを伴うことが特徴です。陥入爪の3割程度の方には、「軽度の巻き爪が合併」することもあります。
巻き爪では「爪が喰い込んだ痛み・出血等」が起きることがあるものの、爪が巻いてしまっていても「余り痛くない例や肉芽形成がない場合」があることが特徴です。巻く部位は爪甲の中央部・両端のみ・爪甲全体が巻くなど様々ですが、爪縁の角度が20~30度程度は軽度の巻き爪・45~90度程度は中程度の巻き爪・90~180度程度は重度の巻き爪と判断されます。
陥入爪・巻き爪になりやすい人の違い・特徴は?
陥入爪・巻き爪になりやすい人の特徴として、「年齢・性別」が挙げられます。陥入爪では男女問わず10代~20代までの患者さんが圧倒的に多数であり、靴などによる外的圧迫・爪の切り過ぎなどをきっかけとして、爪縁の刺激によって爪郭部皮膚が過剰な肉芽形成を起こしてしまうことが特徴です。
陥入爪は30代でも見られることがあり、皮膚科などでの「不適切な爪切り(爪甲抜去)」によって更に奥の部分が巻き込んでしまい、肉芽腫形成から陥入爪となってしまうケースもあります。
一方で巻き爪では40~50代以降の女性に圧倒的に多く、「閉経などによるホルモンバランスの乱れ」が巻き爪の発生に深く関わっていることが示唆されています(2020十川)。爪甲自体も若い方よりも靴などの圧迫・加齢の影響もあり「硬く・厚くなる傾向」です。
当院でも巻き爪外来(水曜事前予約制)で5人ほど巻き爪矯正を行うと「全員女性であった」・「お一人だけ男性」ということがよくあります。さらに巻き爪ではなりやすい傾向・体質もあると考えられ「3割くらいの方で再発」してしまいます。当院で長い方では、10年くらい年に2、3回定期的に巻き爪矯正を受けている患者さんもいらっしゃいます。
巻き爪・陥入爪はどうやって治すの・治し方の違いは?
陥入爪はどうやって治すの?
陥入爪の治し方は、①外部からの圧迫予防、②腫れ上がった肉芽腫+側爪郭を爪縁から離す、③肉芽腫を直接的に減量する、④肉芽腫を圧排し、爪縁を持ちあげコットンパックを行う(直接刺激防止法)、⑤必要に応じて巻き爪矯正を併用する、⑥上記の保存療法で改善しないときには、局所麻酔下の爪甲抜去などの外科的処置を検討するという手順になります。
① 外部からの圧迫予防
サイズの合った正しい靴の履き方が基本となります。足先を挙げて踵を合わせたときに、指先が楽に開けて、靴先との間が1cm程度確保されることが理想です。スニーカーなどの紐靴タイプの靴を選び、紐をある程度しっかり結び「甲の支えをきちんと作る」ことが大切です。もしも、サイズが合いにくい場合には中敷きを入れて調整しましょう。
母趾の外側に肉芽がある場合には趾間部に、丸めたガーゼ等を挟んで母趾~第2足趾の隙間を確保することがとても重要です。いくら他の治療法を併用しても外部からの圧迫があると陥入爪は改善しません。理想は靴を履かないことがベストです。先の開いたホーキンスタイプの「サンダル履き」にするだけでも陥入爪が改善したとの報告もあるくらいです。
② 肉芽腫・側爪郭を爪縁より離す方法
用手的に肉芽腫・腫れ上がった爪郭部を爪縁から離すように引き降ろす方法論です。簡易に行う事ができ有名な方法として「テーピング法」が挙げられます。テーピング法の欠点は、爪縁に対する直接的な治療法ではないことが挙げられます。肉芽腫を引き離すときに、爪を少し支えて持ちあげながらテーピング法を行うと効果が期待出来ます。
③ 肉芽腫を直接減量する方法
物理的に肉芽腫を減じることによって、爪縁との当たりを改善しようとする方法です。よく行われる方法として「液体窒素凍結療法」が挙げられます。肉芽を凍結壊死させることにより、縮小せしめて改善を期待します。初期の小さな肉芽腫のものでは本法でうまく行く場合もあります。
補助療法として「民間ではクエン酸療法」が行われることもあります。当院でもコットンパックでの改善が今一つの肉芽腫形成に併用をお勧めすることがあります。クエン酸療法は元来ジュースなどにも入っている食物添加物であり比較的安全性が高いことがメリットとなります。肉芽腫が過大に大きなものでは、外科的に切除をするという治療法も選択されます。
④ 肉芽腫を圧排しコットンパックを行う
当院では一番行う事が多い保存療法で、①の外部圧迫予防との組み合わせで、軽度~中程度の肉芽腫形成を伴う陥入爪の改善が可能です。爪縁を軽く持ちあげながら、肉芽腫を圧排しコットンで直接患部の当たりを改善していくのです。コットンパックに持ち込むには多少のコツがあり、陥入爪でご来院いただいた患者さんにはお時間を多少掛けてコットンで爪縁部を出していくご指導をさせていただいております。
本法の指導は平日午後のみ対応しておりますので、陥入爪でお困りの方は平日午後にご来院ください。詳しくは別項にまとめてありますので、下記のリンクもご参照下さい。
⑤ 巻き爪矯正を併用する
たとえ陥入爪で肉芽形成があるものでも、爪の巻きが共存している場合や巻き爪自体が肉芽の原因として大きな場合には、「巻き爪本体も治していく必要」があります。従来行われていた方法としては上記のコットンパック法に加えて、柔らかいシリコンチューブなどで爪縁を保護する「ガター法」がよく行われていましたが、ガターチューブ自体が刺激となってしまうことが問題でした。
また、通常よく行われる「マチワイヤ・VHO巻き爪矯正・各種プレート法」では、浸軟して弱った爪端を挙上することが対応困難でした。当院で採用している「そがわ式巻き爪装具」であれば多少の浸軟した陥入爪の矯正も可能となっております。
⑥ 保存療法でどうしても改善しないときには手術療法を
上記の対応で困難な陥入爪では手術療法が選択される場合があります。陥入爪単独の場合には足趾神経ブロック下の部分抜爪術が良く行われます。抜爪は一般皮膚科では行わないことを強くお勧め致します。当院では近隣の皮膚科にて「ほぼ無麻酔で中途半端に抜爪」されてしまった患者さんがよくご来院されます。
手術療法を受ける前には、よく調べてから形成外科専門医のいる病院・クリニックを選びましょう。
巻き爪はどうやって治すの?
巻き爪の治し方は、従来までは手術療法しか方法がありませんでしたが、近年「さまざまな巻き爪矯正」を初めとした保存療法が開発されてきております。爪幅が明らかに大きい、巻き爪が保存療法で何度も再発しているなどのケースを除いて、「巻き爪矯正でほとんどの症例が改善可能」です。当院で採用している「そがわ式」は、非常に爪の挙上効果が高く治療回数も少なく、自信を持ってお勧めできる方法ですが、全国で対応している施設の絶対数が少ないことが課題です。
マチワイヤ・VHO巻き爪矯正・各種プレート法などを組み合わせて改善できるケースもあり、お近くの巻き爪対応のクリニックで矯正を受けるのも一法です。最近では軽度の巻き爪に対して「国の規制緩和」が行われ、医療行為には該当しないネイルケアとの扱いとされ「巻き爪サロン」も数が多くなってきたのですが、施術回数・値段の面の問題に加え、高度の巻き爪や肉芽形成のある陥入爪では対応出来ないことも問題といえるでしょう。
陥入爪は病院へ行った方がいいですか?
軽度の陥入爪では、薬局で買った消毒液や抗生剤軟膏などで経過をみることも可能です。一方、巻き爪サロンなどでは肉芽や出血を伴う陥入爪を扱ってしまうと「医療行為」となってしまうため対応していただけません。
ご自身で上記の「靴などのよる圧迫予防・爪郭/肉芽腫へのテーピング・コットンパック」などを行ってみても良いですが、炎症や肉芽形成が強い陥入爪では病院に掛かった方がよいでしょう。病院に掛かるメリットは、「市販では手に入らない抗生剤内服・抗菌剤軟膏」などを処方してもらえることとなります。
問題点は、全ての皮膚科医が巻き爪の保存療法や矯正法に精通していないので、「陥入爪コットンパックや巻き爪矯正に詳しい医師」を患者さん自ら探して受診する必要があることです。
巻き爪は伸ばすと治る?
巻き爪で深爪をしてしまうと「さらに奥部分が巻いてしまうこと」があります。余分に切ってしまうと悪化するという理由で皮膚科に掛かると「兎に角のばせ」という指導を受けてしまうことがあります。実は、巻き爪は伸ばし過ぎてしまうと、「余計に巻いてしまう」ことが良くあります。
爪端の巻きと爪郭部の支えはバランスが取られており、爪郭部のない指先に飛び出るまで爪を伸ばしてしまうと爪自体が元来巻く性質をもっているため、伸ばし過ぎ自体が巻き爪の悪化原因となってしまうのです。
一方、切りすぎた巻き爪も良くないですので、爪端が爪郭部の前端から見えるくらいには伸ばしていることも大切となります。
巻き爪は切らない方がいいですか?
巻き爪を正しく切らないでおくと、余計に爪端先端が爪郭部に喰い込んでしまうことがあります。巻き爪は必要以上に深爪しない方がよいのは事実ですが、正しく爪を切ることも大切です。
巻き爪の方では①爪が横方向に巻く他に、②爪母から爪先端に向かって緩やかに趾腹方向にカーブしていることが一般的です。すると、単に爪をまっすぐに切ってしまうと「爪端先端が肉に喰い込む」ように尖ってしまいます。まずは爪縁部を横から見て爪根元までまっすぐになるように整えてから、「爪の角を丸めて皮膚に喰い込まない」ように整えておくことが正しい爪の切り方です。
巻き爪は放置して治りますか?
巻き爪は放置しても治りません。ただし、ご高齢者などでは爪が巻いていても余り痛みが出ない方もいますので、必ずしも爪の巻きを治さなければならない訳ではありません。そがわ式巻き爪矯正で知られる「香川県観音寺のそがわ医院・十川秀夫医師」も痛くない巻き爪は無理に矯正する必要はないと著書の中で述べています(巻き爪は自分で治せ2013年・十川)。
あくまで治療対象となるのは「痛みのでるタイプの巻き爪」のみでよいでしょう。
巻き爪は歩いたら治りますか?何不足?
巻き爪はしっかり趾腹に力を掛けて踏ん張る力が不足すると発生しやすくなります。一方、ある一定以上巻いてしまった爪は、巻き爪矯正などに持ち込まないと歩いているだけでは正常範囲の爪の弯曲には戻りません。歩くときにきちんと足指の腹に力を掛けることが、巻き爪の予防には大切とされています。
巻き爪やってはいけないことは?
最後に巻き爪・陥入爪でやってはいけないことをまとめておきます。
① 痛みがあるのに放置をすること
痛みというのは自身の体から出ている危険信号です。痛みがあるのに無理をして歩き回ったりするとかえって炎症が悪化してしまいます。痛みのあるときには患部を消毒・ガーゼ等で保護して大事をとりましょう。問題としては、痛いので庇ってばかりいると「爪がバランスを崩して余計に巻いてしまう」ことがあることです。
② 巻き爪専門ではない皮膚科に掛かること
皮膚疾患のほとんどは皮膚科で対応できることが多いのですが、「巻き爪・陥入爪は元来皮膚外科(皮膚外科)疾患」です。テーピングなどの保存療法で治る程度の軽度のものではよいのですが、炎症が強いもの・痛みや巻きが強い場合には、まずは「巻き爪矯正に強い皮膚科・皮膚外科」などを探して受診する様にした方が望ましいでしょう。
③ 重度の巻き爪で巻き爪矯正サロンに掛かること
国の規制緩和によって医学的に治療を必要としない軽度の巻き爪予防的ケア(矯正)は医療行為に該当しない「単なるネイルケア」という扱いとなっています。一方で巻き爪サロンの施術者には医学的知識が充分ではなく、独自の民間資格のみで公的な資格もなく施術を行っていることが現状です。本当に軽度の巻き爪であればよいのですが、施術者によってはかなり重度の巻き爪まで自己判断で手を出してしまうことがあり大変危険な行為です。
④ 効果のない巻き爪矯正を続けること
巻き爪矯正には平成28年の国の規制緩和以降、さまざまな類似した施術法が乱立しており「各々の巻き爪サロン」が最新式で効果のある方法だと歌っているのが現状です。一方で巻き爪サロンでは、毎月1万円以上する施術を半年~1年近く掛けて繰り返し行うという定期契約を行うこともあるようです。
対して、当院のそがわ式巻き爪矯正装具では、陥入爪では1~2回で、重度の巻き爪でも2,3回の矯正で治療が完了するのが一般的となります。正しい矯正法を行えば、巻き爪矯正はそれほど長い矯正期間が掛かるものではないのです。但し、巻き爪は体質や性別・年齢などで再発する方が一定数いるため「再発しやすい方」では年に2-3回のメンテナンス矯正も必要となってくる場合はあります。
⑤ 深爪、爪の伸ばし過ぎ・正しくない自己治療
爪端を正しく切ることは、巻き爪予防およびケアとして重要度が高いものとなります。正しい方法であれば自身で多少爪を持ち上げる、コットンパックを行うことも有効です。一部の巻き爪サロンで自己治療ケアがNGであるといっていますが、医師などから直接指導を受けた方法であればとくに問題はありません。軽度のものであれば、市販の巻き爪矯正グッズを予防的に使ってみるのもよいと考えます。
⑥ 足先に正しく荷重をかけずに歩くこと
足に正しく荷重をかけて歩くことは、巻き爪予防の基本です。歩き始めた赤ちゃんや力仕事をしている大工さんでは、爪がほぼ平らになってしまい「まったく平らな爪」であるケースさえもあります。巻き爪のケアには、「爪自体の巻く力」と足趾を踏ん張ったときの荷重のバランスが均衡していることが大切なのです。
⑦ 先が狭く・きつい靴を履くこと、緩すぎる靴
陥入爪・巻き爪の原因のひとつが外部からの圧迫です。先がきつい靴・ヒールの高いパンプスなどは勿論よくないのですが、緩すぎる靴も「靴の中で足が遊んでしまい」かえって、足先の巻き爪に対して刺激となってしまうことがあります。
巻き爪・陥入爪の違いのまとめ
爪が巻いてしまう「巻き爪」、爪が爪郭部皮膚に喰い込み肉芽を形成する「陥入爪」。両者の違いはわかりましたでしょうか?日本の医学書では「巻き爪・陥入爪」ともに、「陥入爪」としてまとめて扱われてしまいますが「出来る原因・年齢・性別や対処法」などが異なってきます。
巻き爪、陥入爪でお困りの場合には、とりあえず近隣の皮膚科にいくのではなく、「なるべく巻き爪矯正・保存療法等にも力を入れているクリニック・病院」を受診した方が良いでしょう。