もくじ
しもやけとは?
しもやけ(凍瘡)とは、冬の気温低下(4~5℃)等の寒冷気候・気温差が10℃以上となる初冬・晩冬等の時期に、循環障害の起こりやすい手・足先および露出部である頬・耳などに起こる「むずがゆい赤み・腫れ・うっ血などの症状」のことを云います。低い気温・寒冷にさらされると皮膚局所の小動静脈~毛細血管が収縮して循環が悪くなり、次いで暖かい室内などに戻ったときに循環障害を起こし冷たくなった皮膚組織に、急激に暖かい血液が流れ込むと血液のうっ滞が局所に生じます。
しもやけが起こる時期としては、気温の下がり始める12月になると患者さんの数が増えて、気候が暖かくなる春になると改善することが多くなります。起こりやすい年齢としては、冬でも表で遊ぶことの多い学童期(小学生低学年)に多い傾向がありましたが、近年では大人や高齢者の方でもよくみられるようになりました。
しもやけができる機序・分類
元々、人間には体温等の「恒常性を保つため」に外気温が低いと自律神経系の調整がなされ、四肢末端部の血管を収縮させ体から過度に熱が逃げるのを防ぐという機序があります。通常は、また暖かい部屋などに戻ると血管の収縮が戻り、四肢末端部の皮膚温は回復して暖かくなると云うのが普通の方の反応です。
一方、しもやけの出来やすい方では体質的・環境的な素因などにより、
- 過度に小動静脈および毛細血管の収縮が起こり、
- 寒冷刺激がなくなり暖かくなっても、血管収縮の回復が遅れる、
- 結果として皮膚局所の循環障害やうっ血を引き起こすこと
がしもやけが発生する機序と考えられています。
しもやけの分類としては、主に①樽柿型しもやけ、②多型紅斑型しもやけ、③両者の混合型の3つの型に分けられます。
樽柿型(T型)では、寒冷により収縮した小動脈が温かくなって血管収縮が回復するのに対し、小静脈レベルの血管攣縮の回復が遅れてしまい、流れ込んだ血液が局所で出口を失って「赤紫色に腫脹・うっ血」等の症状を起こします。指先ではなく、指~手背先などの部分に腫れが起こるため、手指の真ん中あたりが全体に腫れた様子が「樽柿」に似ているために、「樽柿型」と呼ばれます。静脈の寒冷のよる収縮の持続がつづくと、腫張が長引き悪化してしまいます。
多型紅斑型(M型)では、「うっ血・腫れ」という症状よりもまだらに皮膚が「青紫色に変化」します。血流の悪くなったところに「まだら」に斑点状に症状がでる様子が「小紅斑・丘疹が混在する多形滲出性紅斑」に似ていることから「多型紅斑型」と呼ばれます。発生機序としては、寒冷によって収縮した小動脈・小静脈ともに暖かくなっても血管攣縮の回復が遅れてしまい、「長引く局所血流不足」が起きてしまった結果として局所血流障害が起こります。比較的末端部にできることが多くなり、症状が強くなると青紫色の皮膚が壊死を起こして「潰瘍」を形成することさえあります。
しもやけが治らない原因・体質は?
しもやけの発生には、
- 年齢(学童期・循環障害を起こしやすい高齢者)
- 遺伝的な体質、家族性素因(末梢循環が悪くなりやすい)
- 汗による冷えの増強
- 冬の寒冷な環境および気温差
- 個々の環境要因(遊ぶ場所・職業環境・住宅状況)
- 片麻痺などの脳障害、脊髄損傷後の循環不全
- 膠原病・糖尿などの基礎疾患
などが考えられます。
お子さんのしもやけは、以前ほどは多くない傾向ですが冬場になると、やはり患者さんが増えてきます。手足が冷えやすい遺伝的な体質に加えて、「外遊びなどで寒冷にさらされる時間」が長くなると出やすくなります。手指や顔(頬・耳・鼻先)などのしもやけでは、手袋、帽子などでの保温を心がけましょう。
お子さんの「足のしもやけ」では、「汗をかきやすい方」が多いことが特徴となります。漢方医学的な考えでは、体内に余分な水分が貯まると循環が悪くなり「冷え」が増悪しやすくなります。また、汗をかくことで「直接熱を奪われる(不感蒸泄)」・「靴下自体が湿ってしまうことで冷気が伝わりやすい(汗の熱同率が高いため)」などから、さらに冷えを悪化させてしまいます。冬に外遊びをするときには「予備にきちんと乾いた靴下」を持たせて、汗をかいた靴下は早めに交換するのがおすすめです。
大人になると一般的なしもやけの発生頻度は減ってきます。一方、「大人でのしもやけ」を診察したときには、基礎疾患の有無(糖尿病・膠原病・麻痺など)を確認したり、一軒家で隙間風が多いor充分な暖房設備がない等の特殊な住宅環境などの確認が必要となります。以前、なかなか治らない「大人のしもやけ」では冷凍倉庫で長時間働いていた方もいましたので職場環境の確認も必要ですね。
高齢者のしもやけでは、四肢末端部・手指・足先でのしもやけが多くなる傾向です。基本的に年齢と共に四肢の動脈系を中心に動脈硬化・血管の狭小化が進行してきますので、冬でなくとも四肢末梢の循環障害を起こしやすい病態があります。そこに、元々冷え症気味であるなどの体質的な条件が加わると「いわゆるしもやけ症状」が発生します。高齢者の方では「うっ滞・うっ血(樽柿型)」となることは少なく、とくに下肢・足趾末端部を中心に「青紫色の血行障害」を引き起こします。
しもやけの症状
一般的なお子さんに多いうっ滞型のしもやけでは、
- 痛がゆい、かゆい、赤み、軽度の熱感
- 腫れ、腫張、うっ血、浮腫
- 暖まると症状が増強(入浴後など)
などとなります。
高齢者のしもやけでは、
- 全体につめたい
- まだら状、青紫色の斑点
- 痛み、水疱、びらん
- 悪化時には皮膚潰瘍形成
などの症状が見られます。
好発部位
手足などの四肢の末端部、特に足趾・手指の先など寒冷に曝露されやすい部位が頻発します。顔面では露出部かつ末端部である耳介外周部・鼻尖部・頬部の突出部が起こりやすい傾向です。
手指・足趾の先端は、元々さまざまな血流障害を起こす基礎疾患があると、問題を起こしやすい部位です。膠原病などでは手指先が慢性的な血流不足で指先が萎縮してくることもありますし、糖尿病や動脈硬化ではしもやけでなくとも、足趾先端は色が蒼白~青紫に変色する障害が見られることがあります。
心臓から拍出された温かい動脈血は、大動脈⇒頚動脈および四肢の主幹動脈を通って、「顔面・手足の末端部」に到達します。手足や顔の一部(鼻尖、耳など)の小動脈には動静脈吻合(AVA=Arteriovenous Anastomoses)があり、元々体温調整のための機能が備わっています。露出部である手足・顔面では、元々外気温が高いときには動静脈吻合(AVA)がひらいて末梢部の血流を増して熱を逃がし、寒くなるとAVAが閉じて末梢部の血流を減らして熱を逃げないようにしているのです。
元々このような体温調整機能がある部位が、過度な低温や温度差にさらされた結果、さらに小動静脈の収縮機能不全も合併し血液還流障害を起こした結果として「しもやけ」になるものと考えられます。
しもやけの鑑別疾患
しもやけみたいな症状を起こす疾患は他にもあります。小児例ではとくに検査の必要はないことが多いのですが、成人においての「しもやけ発生例」では以下のような基礎疾患がないかの鑑別も必要です。
- 膠原病(シェーグレン症候群・SLEなど)
- 甲状腺機能異常
- 動脈硬化(ASO;閉塞性動脈硬化症)
- 糖尿病
- コレステリン血栓塞栓症
- コロナ感染時の血流障害に伴う凍瘡様皮疹
とくに、春や夏にも症状が続く場合には注意が必要となりますので、総合病院等で、「一般血液検査・膠原病・甲状腺機能異常・糖尿病など」の精査を行った方がよいでしょう。
★凍傷とは別疾患
冬の雪山などで遭難して、氷点下により皮膚組織が凍結することにより生じます。屋外生活者などでは、寒い冬になると発症することもあり得ます。凍傷とは「完全に皮膚組織が凍ってしまうこと」による組織障害であり、末端部の皮膚は広範囲に壊死に陥ってしまうことさえあります。いわゆる「しもやけ・凍瘡」とは名前が似ていても、全く別の病態となります。
しもやけの皮膚科での薬・治療は?
外用剤治療
ステロイド外用剤
しもやけ初期の痛がゆい症状に対して、ステロイド外用剤が使われます。強さは通常は中間のストロングクラス(リンデロンVなど)が用いられ、症状が強いときには亜鉛華軟膏(サトウザルベ)を重ね塗る「重層療法」も行われます。
ユベラ軟膏(ビタミンE+A外用剤)
ビタミンEは皮膚に吸収されて血行促進に働き、皮膚温の上昇をもたらします。また、微小血管の透過性を抑制して、浮腫などの軽減が期待されます。ビタミンAは、皮膚の新陳代謝を高めるとともにビタミンEの体内利用を促進するとされています。
ヒルドイドソフト軟膏(ヘパリン類似物質軟膏)
ヒルドイドは、皮膚科でつかう保湿剤としてあまりに有名になってしまっているのですが、元来の保険適応は「血流障害に基づく疼痛と炎症」でした。血流障害の改善薬としての面から、「注射後の硬結・痔核・凍瘡(しもやけ)・肥厚性瘢痕・打撲後の腫張・血腫・腱鞘炎など」に適応をもっています。
その作用機序としては、「抗凝固剤のヘパリン」に類似した物質ということから、
- 血液凝固抑制
- 皮膚組織の血流増加
- 血腫消退作用
- 線維芽細胞増殖抑制効果
などが認められたとされます。
しもやけで皮膚が腫れてしまうと、皮下の血管周囲にリンパ液・血液細胞が漏れた状態とも考えられますので、血液流れの詰まり・血流を改善してくれるヒルドイドは最適なお薬というわけです。注意点としては、通常の保湿につかう場合と違い、風呂上がりや朝などに「少し多めに軟膏を患部に塗り込み、時間を掛けてやさしくマッサージ」するような使い方がおすすめです。
抗菌剤外用など
足趾末端などで炎症や熱感があり細菌感染を伴っている場合には、各種抗菌剤外用が用いられることがあります。また、潰瘍形成してしまった場合には、ゲーベンクリーム・ユーパスタ・プロスタンディン軟膏などの各種皮膚潰瘍治療薬も用いられます。
内服薬
ユベラ錠内服
ビタミンEの内服剤であり、末梢血管の血流改善治療や過酸化脂質の増加防止作用があります。その適応としては、「四肢冷感症・静脈血栓症・凍瘡(しもやけ)など各種末梢循環障害」に保険適応があります。大人のしもやけでは標準的に用いられますが、お子さんではまず外用剤治療をメインに行いましょう。
令和2年度冬には、ジェネリック医薬品メーカーの不祥事が続き厚生局の監査が全国で行われたために、ユベラ錠のジェネリックである「トコフェロール酢酸エステル」の自己回収・販売中止などが頻繁に起きました。そのあおりを受けて、先発品の「ユベラ錠」の供給不足が起きてしまいました。
末梢血管拡張内服(ドルナー・プロサイリン)
おもに全体の血流量が不足し悪化している「しもやけ」に用いられることがあります。あくまで保険適応は「慢性動脈閉塞に伴う潰瘍・疼痛・冷感」となっているので注意が必要です。
作用機序としては、血小板凝集能抑制・血小板凝集塊解離作用・血管拡張・血流増加作用・皮膚潰瘍治癒促進効果などが期待されます。主成分は、プロスタグランディンI2(PGI2)誘導体であることから、中動脈レベル~小動脈の弛緩作用を示すことで血流を増加させます。多形紅斑型のしもやけが、酷くなったときに使うと小動脈~毛細血管レベルの血流が増して、著効することで有名です。
漢方薬
「当帰四逆加呉茱萸生姜湯・とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう」
参考になる証として、①手足の冷え、②下肢の冷え+下腹痛を起こしやすい方の「しもやけ・腰痛」に用いられます。当帰は漢方の生薬(しょうやく)の名前で、「肌荒れなどの皮膚病・血虚所見」に効果があります。「四逆」とは、四肢の末端部から冷えが上がってくる様子を表す漢方用語です。「呉茱萸・生姜(しょうきょう=ショウガ)」は、両者とも冷えを治し温める生薬です。あとから加えたので「加える」を追加して、「加呉茱萸生姜湯」となっています。
臨床効果としては、四肢末端部の血流増加作用+皮膚温上昇作用が確認されており、文献上でも「冷感・疼痛症状」の改善報告があり、「しもやけ」に広く使われている漢方薬となります。
「人参養栄湯・にんじんようえいとう」
もともと、血虚・気虚を伴う呼吸器症状に使われますが、「しもやけ=ご高齢者の血虚」ととらえると割と冷え症気味の高齢の方に長く飲んでいただいても良い処方となります。
その他の漢方では補助的に、「四物湯・温経湯・当帰芍薬散」などが用いられることがあります。
しもやけの予防・治し方は?
寒冷を避けて、保温・湿気に注意を行うことが基本です。しもやけの原因のひとつは「温度差」ですので、寒い外気からいきなり温かい室内に入ったり、急に温かいお風呂に入ったりすると悪化することがあります。
一般的な注意点をまとめると、
- 露出部を保護・保温性の高い手袋、耳当て、帽子、マスクなどで覆う
- 寒さが厳しいときは保温性にすぐれた靴を選ぶ
- 手首、足首も冷やさないように袖や裾の長さに注意を払う
- 首元が冷えると、顔・上肢も冷えてしまうため暖かめのマフラーを使うと良い。
- とくに足が汗を掻きやすい方では、こまめに靴下も新しいものに交換する
などの対策がおすすめでしょう。
一度、しもやけになってしまった場合には、各種外用剤などをつかい炎症が少し落ち着いたら、入浴時にゆっくり温める・入浴剤などを入れて腫れたところをやさしくマッサージするなどの理学療法が効果的です。入浴時以外でも洗面器に少量の入浴剤をいれて温かい湯を張って、手足のみ・患部の温浴を行うこともお勧め致します。
毎年、同じ時期にしもやけを繰り返してしまう「しもやけになりやすい方」では、はやめに皮膚科を受診してお薬を処方してもらっておくことも予防には大切でしょう。
まとめ・しもやけは病院へいくべきか?
近年では、昔と違い暖房設備も整ってきた影響で「しもやけ」の発生件数は減少傾向になってきています。一方、ある一定数の患者さんは冬になると皮膚科にしもやけで受診されますので、その発症には①生活環境のみでなく、②遺伝的・体質的な素因も大きいのではないかと思われます。
しもやけは冬のあいだは、繰り返しできることが多くなるため「まずは患部を冷やさないよう保温対策」が大切です。とくに、首元には大きな動脈が通っておりマフラーを使わない場合には手指先の皮膚温も大きく違ってくるようです。湿っていると余計に皮膚温は下がりますので、汗に対する対策も大切ですね。さまざまな予防策や市販薬を使っていても、治りにくい場合には早めに近くの皮膚科で治療を始めた方がよいでしょう。